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しおりを挟むそんなわけで俺の休みにアイツが合わせるような感じで、環境が変わっても会えなくなるような事はなかった。
まだ入社したてで残業もそこまでないし、安心するには早いかもしれないが。
それでも奏志を信じようと決めた道なんだから、不安事ばかり考えていてもしょうがない。
そう切り替えようとしていたのに、仕事帰りに俺の家に来ていた奏志に抱きしめられたら一気に不信感が募ってしまった。
「…お前」
「え?」
香水の匂いがする。
どう考えてもコイツがつけてる物じゃないし、まあどっかの女の匂いが付いたんだろう。
サークル入るとか言ってたし、きっと女にモテてんだろうなというのは想像に容易い。
今までにこの逆パターンはあったから思い返してみたが、香水の匂いがつく時って女と近い距離でそこそこ時間を共にしていないとまずつかないんだよな。
とはいえまさか浮気してるとは思わないし、匂いがどうとかコイツみたいな事も言いたくない。
「なんでもねーよ。明日も大学あんの」
聞きながらぐいと身体を押し返す。
それでもさすがにこんな匂いさせた奴に、抱き締められる気はしない。
「うん。単位は早く取っておきたいから、たぶん二年生くらいまで平日は毎日大学行くかなぁ」
が、ぐいとまた身体を引き戻された。
どうやら抱き締め足りないらしい。
「ふーん。で、お前結局サークルは何にしたんだよ」
言いながらもう一度身体を押す。
が、再び引き戻されて余計に抱き込まれた。相変わらずの馬鹿力だ。
「バスケだよ。部活は時間取られちゃいそうだからやめといたんだけど――」
もう両手で逃れようとしたが、こいつもめげない。
というかいい加減俺に拒否られているのに気付け。
「そっか。バイトも決まったのかよ?」
「ええとバイトは…て、あれ?梅乃くん?ちょ、ちょっとだけっ…」
やっと気付いた。
最近は自由にさせていたから、受け入れられない方が珍しくなっているらしい。
出会った頃は俺の服の裾掴んで満足していたような奴が、今ではこんなに意識が変わっている。
それは俺がコイツに与えてやった安心感なんだろうなと思うと、間違いなく嬉しくはあるんだが――。
「腹減ったんだよっ。飯食わせろ」
「あ、うん。すぐ用意するからね」
と言いつつも触りたいらしい奏志は俺をなんとか抱きしめようとする。
ここ最近甘やかしすぎて、押せばなんでも許されると思ってやがるな。
「おい」
じとっとした視線で見たら、ハッとしたように手を引いた。
一度視線を彷徨わせてから、すぐに取り繕った表情でニコリと微笑む。
「ご、ごめんね。ご飯用意するね」
そう言って奏志は俺を離して、慌てたようにリビングへと足を向けた。
別にコイツは悪くないし少し冷たい態度を取ったかなとは思ったが、それでもやっぱり香水の匂いはムカつく。
大学で何してるのか想像がつかないから、余計にモヤついてくる。
変に苛ついてすれ違いたくはないし、疲れたからさっさと寝ると言ってその日は奏志を帰らせた。
きっと次に会う時はあんな匂い消えているだろう。
そしたらいくらでも甘えさせてやればいいと思ってした事だったが、それがコイツに予想外の行動を取らせることになる。
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