ベタボレプリンス

うさき

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 二人でずぶ濡れになりながら家に帰ったら、汚いから風呂に入れと母親に言われた。
 どうやらこの雪で仕事休みになったらしいが、なんつー言い草だ。
 男同士なんだから一緒に入ればいいのにという声を無視して、代わる代わる風呂に入る。
 身体が温まったら少し落ち着いた。
 
「奏志ー、ご飯作って」
「はいっ、今すぐ!」
「おい待て。勝手に真島を使うな」
「別にいいじゃん。こんなイケメンが私の言うこと素直に聞いてくれるのかと思うと、優越感がやばいっていうかぁ」

 ほんとコイツクズだな。
 自分の母親ながらそう思うが、真島と出会った頃の自分の考えがどうだったかというのは棚に上げておく。
 
 
 俺の部屋でバレないように触れ合って、お互いのキスマークを付け直す。
 きっとこれが最後だろう。
 
 キスをして、抱き合って、聞こえないようにくすぐったく愛を囁かれる。
 しーっと口元に人差し指を当てる俺の手を取って、真島は俺に何度もキスをする。
 掴んでいた手首にまで口付けられ、俺の行動の全てを愛おしむようにトロンと落ちた目蓋にすら唇を押し付けられた。
 真島の視線はずっと俺から揺らがないままで、俺の反応を一つだって見逃さないと言われているみたいだった。

 ふわふわと頭が回らず、真島の顔をボケっと見つめたままされるがままになる。
 ただ心臓の音だけが、ひたすら耳に煩い。
 苦しくなるほど愛しくて甘ったるい一時を、真島はたくさん俺に与えてくれた。


 それから俺達はずっと一緒にいた。
 朝から晩まで、毎日ずっと一緒にいた。
 いくら真島の受験戦争が終わったとは言え、合格発表はまだ来ていない。
 それでも真島はそんなの全く気にしていないようで、ひたすら俺を甘やかし続けた。

 バイトがある日は俺を送っていって、終わったら迎えに来る。
 本当は店の中で見ていたいと言われたが、一度見せたらマジで何時間もガン見してきた上に盗撮され、更に真島のせいでやたら客入りして残業になったからもうダメだと言った。

 毎日俺の飯を作ってくれるどころか、洗濯掃除全部やってくれて完全に主夫化していたが、当たり前のように俺も母親も猫まで受け入れていた。
 ともかく真島はひたすらに過保護だったが、俺も気にせずどっぷり甘えていた。

 寂しくならないように、余計なことを考えないように、いつでも触れ合える距離にいた。
 残り僅かな期間、真島は必死に俺に別れたくないと縋り付いてくるのかと思っていたが、余計なことは一切言ってこなかった。
 俺も自分の気持ちを抑えるのに必死だったから、この頃は真島が何を考えているのか、もうよく分からなかった。

 それでも変わらず「好きだよ」「大好き」「愛してる」と毎日言ってくれた。




 卒業式まで、あと一週間。

 真島の第一志望の大学への合格が決まった。
 その日は登校日だったが、発表を見に行っている真島が戻る前からなぜかもう学校中で噂になっていた。
 そこで初めて知ったが、真島の希望していた大学は誰もが知っている超一流大学だった。

「どうだ!すごいだろっ。やっぱり奏志はすげー奴だったっ」

 大興奮した顔で俺の教室へ飛び込んできた貞男が、俺の机を遠慮なくバンッと叩く。
 なんでお前が得意げなんだ。

 とはいえ俺もレベルの高いところを真島が受けている気はしていたが、まさかそこまですごい所を受けていたとは思っていなかった。
 心の底からおめでとうと言ってやりたい気持ちと同時に、俺とは本当に釣り合わない凄い存在なんだなと改めて実感してしまう。
 そんなエリートコース間違いナシな真島がなぜ俺をあんなに好きなのかともう何度も疑問に思った事だが、天才とバカは紙一重というから、つまりはまあそういう事なんだろう。

「お前はどうだったんだよ」
「えっ?」
「お前だって大学受験してんだろ」
「そ、それは俺も希望の所には受かったけど…い、今は俺よりも…」

 慌てたように貞男がモジモジと語尾を小さくする。
 コイツを見ていて思ったが、貞男は自分よりも他人の事で毎回必死になっている気がする。
 自分だって希望したところに受かったんだから、真島じゃなくもっと自分の自慢をしてもいいと思うんだが。

「そうか、おめでとう。何だかんだ言っても貞男と会えなくなるのも寂しいな」
「――はっ?」

 素直に言ってやったら、かーっと目の前の顔が赤くなる。
 そういやコイツこういうの言われ慣れてないんだっけ。
 面白くなってニヤリと口元が緩む。

「お前とは色々あったけどさ、正直ここまで腹割って話せるようになるとは思ってなかったな」
「…なっ、なんだよいきなり」
「俺はさ、お前が男と男の約束を違えるような奴じゃないことは、一番分かってる」
「あ、当たり前だろっ。男は一度口に出したことは曲げねーんだよっ」

 フンと貞男が得意げに鼻を鳴らす。
 だか赤らんだ顔は明らかになんか嬉しそうだ。
 ほんとコイツ真島といいコンビだな。単純コンビ。

「ま、だから真島に告白するとか無駄な事言ってないで、とっとと卒業後は新しく好きな奴作れよ。お前なら出来る」

 ニッコリと笑ってぽんと肩を叩いてやったら、プルプルと貞男の拳が揺れる。
 
「――やっぱりお前は最低だっ!最低の…あー、さ、最低バカ野郎だっ!」

 どうやら俺を罵る言葉も、もうネタ切れらしい。
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