ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
147 / 251

136

しおりを挟む
「ま、真島…」
「俺の好きにしていいって言ったよね。なら、俺の言うこと聞いて」

 心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
 こんな真島は初めて見た。
 きっと真島は今、本気で怒っている。

「…お前、怒ってんの」
「怒ってるよ。高瀬くんが約束破るから」

 真島にとって俺があげた約束が、どれほど大事なことなのかは俺だって分かってる。
 分かってるが、じゃあなんで他に好きな奴なんか作るんだ。
 俺とも一緒にいて、あの子とも一緒にいるなんてそんなのは絶対に嫌だ。

「もういい、離せ」
「離さないよ。高瀬くんが約束守ってくれるまで、絶対に離さない」

 手首を掴む手が一際強くなる。
 痛くて顔を歪めたが、真島はそれに気付いても手を緩める事はしなかった。

「今別れるなんて、許さない。絶対に、絶対に…っ」

 だが言いながら、ぼろっと真島の目から涙が溢れる。
 なんで泣くんだ。
 自分でも言いたくないことを、したくないことを俺にしてしまっていると思っているんだろう。
 それでも感情が止められず、その代償のように涙が次々と溢れていく。

「分からないよ。俺が信じられないなんて、どうして…っ」

 真島の言葉に、酷く心が揺さぶられる。
 ギリギリと俺の手首を締め付けたまま、真島は流れる涙をそのままに俺を見つめる。
 
「俺は高瀬くんしか見てない。本当だよ。これから先も、高瀬くんだけだよ」
「嘘付くなよ…っ」
「噓じゃない。本当にそうだよ。高瀬くんしかいらない。他に何もいらない」

 零れ落ちる涙と真島の言葉からは、全く噓なんか感じられなかった。
 それでも信じられないのは、さっきの光景を目の当たりにしてしまったからだ。
 
「どうしたら信じてくれるの。俺は高瀬くんのためならなんだってする。誰とも話さないでって言われたら誰とも話さないし、誰も見ないでって言うなら誰も見ない」
「そんな事できるわけねーだろ」
「できる。高瀬くんが信じてくれるなら、何でもするよ」

 そう言っている真島の目は本気で、いっそ狂気すら感じるレベルに俺への執着心が見て取れた。
 俺がやれって言ったら、いとも簡単に周りの人を投げ捨ててしまいそうだ。

 ――おかしい。

 こんな風に言ってる真島は、本当に噓なんかついているようには見えない。
 俺の中でひょっとしたら誤解なんじゃないかという、違和感が生じ始める。
 落ち着け。
 ちゃんと話さなきゃ駄目だ。

「…さっきの子。お前がどうしても欲しいって言ったって七海に聞いたんだけど」
「えっ…えっと、それは」

 真島の目が泳ぐ。
 分かりやすいその態度に、カッと気持ちが込み上げる。

 なんだよその顔は。
 他の奴が気に入ったならそう言えばいいだろ。
 相手はちゃんと女の子で、卒業までなんて制約付きの俺なんかに縋る必要はない。
 今更俺の機嫌なんか、とらなくていい。

「もう分かったから。無理すんな」
「無理なんてしてないっ」
「いいから。もう離せ」

 真島に掴まれたままの腕を無理矢理ほどこうとしたが、全く外れなかった。
 絶対に俺を離さないと言った言葉通り、俺が約束破りを訂正するまで離す気はないんだろう。
 この馬鹿力が。

「お、怒らないで」
「――は?怒ってるのはお前だろ」
「怒ってるけど。怒ってるけど怖いんだ。高瀬くんが好きだから、離れたくないから…っ」

 またボロボロと涙が溢れ始める。
 グダグダだ。
 どうしようもなくいつもの、グダグダな真島だった。
 俺は唇を噛み締めて、真島を見つめる。
 だが一つ息を吐き出すと、ぽつりと言った。

「…じゃあ聞かせてくれよ。俺が納得できる言葉を」
「それって…さっきの子の事?」
「そうだよ」
「何もないけど…っ」

 真島は一つしゃくりあげたが、それでも俺を見て何か探すように言葉を続ける。

「あの子覚えが悪くて…それで部長に、お前が推薦したんだから引退までになんとかしろってこの前昼休みに言われて。…でも今部活行くの遅いから、放課後少し教えるくらいしかできなくて…っ」

 いやそうじゃねーよ。推薦した理由を知りたいんだが。
 というかもう自分で推薦したって言っちゃってんじゃねーか。
 だが真島は、それだけで本当に他に何もないんです、と涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で縋るように続ける。
 なんだか俺が悪い事したみたいになってきてんじゃねーか。

「…なんで推薦したんだよ。顔がタイプだったのか?」
「えっ」

 真島の顔がまたどこか赤くなる。
 もう心臓がバクバクいっていた。
 俺のことは好きだけど、可愛い子だと思って推したとか、そんな理由ならとりあえず殴る。
 面接に来た子の中で一番タイプだったとか、そんな理由でも殴る。
 いやもうこの際何言っても殴る。

「…さんて、言うんだ」
「え?」

 あまりにも小さな声で聞こえなかった。
 もう一度聞き返すと、真島は俺から手を離して両手で真っ赤な顔を覆う。
 
「あ…あの子の苗字、梅野さんって言うんだ…っ」
「……」

 呆れを通り越して、思わず頭を抱えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

水の流れるところ

BL
鏡の中の彼から目が離せなかった――。 幼い頃に母親に虐待を受け、施設に預けられていた藍沢誉(あいざわほまれ)。親の愛情を受けずに育ち、体裁ばかり気にする父親から逃げた九条千晃(くじょうちあき)。 誉は施設を出ると上京し、男に媚びを売ることで生計を立てていた。千晃は医者というステータスと恵まれた容姿に寄ってきた複数の人間と、情のない関係を繰り返していた。 接点のない2人にはある共通点があった。「あること」がトリガーとなって発作が起こるのだ。その発作は、なぜか水に触れることで収まった。発作が起こる度に、水のあるところへと駆け込んでいたある時、2人は鏡越しに不思議な出会いを果たす。非現実的な状況に戸惑いつつも、鏡を通して少しずつ交流を深めていった。ある日、ひょんな事がきっかけで、ついに対面を果たすことになるが――。 愛に飢えた誉と、愛を知らない千晃が、過去に向き合い、過去と決別し、お互いの愛を求めて成長していく深愛物語。 ★ ハーフ顔小児科医×可愛い系雇われ店長です。ハッピーエンドです。 ★ 絡みが作中に発生いたします。 ★ 直接的な表現はありませんが、暴力行為を匂わす描写があります。 ★ 視点が受け攻め交互に展開しながら話が進みます。 ★ 別ジャンルで書いたものをオリジナルに書き直しました。 ★ 毎日1エピソードずつの更新です。

【完結】酷くて淫ら

SAI
BL
早瀬龍一 26歳。 【酷く抱いてくれる人、募集】 掲示板にそう書き込んでは痛みを得ることでバランスを保っていた。それが自分に対する罰だと信じて。 「一郎って俺に肩を貸すために生まれてきたの?すげーぴったり。楽ちん」 「早瀬さんがそう思うならそうかもしれないですね」 BARで偶然知り合った一郎。彼に懐かれ、失った色が日々に蘇る。 ※「君が僕に触れる理由」に登場する早瀬の物語です。君が僕に触れる理由の二人も登場しますので、そちらからお読み頂けるとストーリーがよりスムーズになると思います。 ※ 性描写が入る部分には☆マークをつけてあります。  全28話 順次投稿していきます。 10/15 最終話に早瀬と一郎のビジュアル載せました。

【弐】バケモノの供物

よんど
BL
〜「愛」をテーマにした物語重視の異種恋愛物語〜 ※本サイトでは完結記念「それから」のイラストで設定しています ※オリジナル設定を含んでいます ※拙い箇所が沢山御座います。温かい目で読んで頂けると嬉しいです ※過激描写が一部御座います 𝐒𝐭𝐨𝐫𝐲 バケモノの供物シリーズ、第二弾「弐」… 舞台は現代である「現世」で繰り広げられる。 親を幼い頃に亡くし、孤独な千紗はひたすら勉強に励む高校ニ年生。そんな彼はある日、見知らぬ男に絡まれている際に美しい顔をした青年に助けて貰う。そして、その彼が同じ高校の一個上の先輩とて転校してきた事が発覚。青年は過去に助けた事のある白狐だった。その日を境に、青年の姿をした白狐は千紗に懐く様になるが…。一度見つけた獲物は絶対に離さないバケモノと独りぼっちの人間の送る、甘くて切ない溺愛物語。 ''執着されていたのは…'' 𝐜𝐡𝐚𝐫𝐚𝐜𝐭𝐞𝐫 天城 千紗(17) …高二/同性を惹きつける魅力有り/虐待を受けている/レオが気になる 突然現れたレオに戸惑いながらも彼の真っ直ぐな言葉と態度、そして時折見せる一面に惹かれていくが… レオ(偽名: 立花 礼央) …高三(設定)/冥永神社の守り神/白狐/千紗が大好き とある者から特別に人間の姿に長時間化ける事が可能になる術式を貰い、千紗に近付く。最初は興味本位で近付いたはものの、彼と過ごす内に自分も知らない内が見えてきて… ライ(偽名: 松原歩) …高二(設定)/現世で生活している雷を操る龍神/千紗とレオに興味津々 長く現世で生きている龍神。ネオと似た境遇にいるレオに興味を持ち、千紗と友達になり二人に近付く様に。おちゃらけているが根は優しい。 ※「壱」で登場したメインキャラクター達は本編に関わっています。 ※混乱を避ける為「壱」を読んだ上でご覧下さい。 ※ネオと叶の番外編はスター特典にて公開しています。 𝐒𝐩𝐞𝐜𝐢𝐚𝐥 𝐭𝐡𝐚𝐧𝐤𝐬 朔羽ゆきhttps://estar.jp/users/142762538様 (ゆきさんに表紙絵を描いて頂きました。いつも本当に有難う御座います) (無断転載は勿論禁止です) (イラストの著作権は全てゆきさんに御座います)

もっと僕を見て

wannai
BL
 拗らせサド × 羞恥好きマゾ

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

スラムから成り上がった弟に恋人になってくれと迫られています

匿名希望ショタ
BL
【エリート弟×自己肯定感の低い兄】 「恋人になって欲しい」 十七年前に才能があり国一番の学園へと行った弟がいる。 その弟の枷になるまいと自分の生活がどれだけ貧相なものだとしてもお金だけを送り続けていた凡人以下兄の俺。 そんな俺が立派になった弟に恋人になって欲しいと迫られる。だけど俺はスラムにずっといてこんな醜いし...

人気俳優と恋に落ちたら

山吹レイ
BL
 男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。  そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。  翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。  完結しました。  ※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。

【完結】君が好きで彼も好き

SAI
BL
毎月15日と30日にはセックスをする、そんな契約から始まった泉との関係。ギブアンドテイクで続けられていた関係にストップをかけたのは泉と同じ職場の先輩、皐月さんだった。 2人に好きだと言われた楓は… ホスト2人攻め×普通受け ※ 予告なしに性描写が入ります。ご了承ください。 ※ 約10万字の作品になります。 ※ 完結を保証いたします。

処理中です...