ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
143 / 251

132

しおりを挟む

 日曜日はここ最近の悪天候も噓のようにカラッと晴れていて、少し暑いが絶好のお出かけ日和だった。
 とはいえ今日の試合はとある総合体育館で行われるため、全く天候関係ないが。
 バイト仲間に変わってもらって休みを手に入れた俺は、ヒビヤンと駅前で集合して真島の引退試合を見に行くことにしていた。

「なんでお前いんの」
「俺が呼んだ。女みたいな顔の奴一人くらいいたら華になるかなと」
「いやならねーだろ」

 ヒビヤンの言葉にツッコミを入れたら、ゲシっと貞男に蹴られた。
 貞男は妙に偉そうにフンと鼻を鳴らす。

「普通科の奴に俺が付き合ってやるだけありがたいと思えよな」
「その割には大荷物だな」

 見れば肩に下げている鞄が重そうだ。

「弁当だよ、弁当。観戦には弁当が付き物だろ。お前らの分も作ってきてやったからな」

 ノリノリじゃねーか。
 そして鼻歌でも口ずさみそうな勢いで先立って歩き始める。
 俺とヒビヤンは顔を見合わせて、思わず苦笑しながら肩を竦ませた。

「つか貞男と連絡先いつの間に交換してたんだよ」
「え、知らねーよ。ただここ最近毎日お前に会いに来てたから、帰り掛けに誘っといた」
「それは思い切ったな」
「弁当持ってきてくれてるし結果オーライだろ」
「確かに」

 そういえば弁当てまさか貞男の手作りだろうか。
 真島といい特進科の奴はみんな料理が出来るのか。


 総合体育館はもうごった返していて、どう考えてもギャラリーの数が異常だった。
 どうやら既に場所取りは始まっているらしく、女子の黄色い声があちらこちらで飛び交っている。
 とりあえず中に入ったら、館内では既に他校のバスケ部員が試合前のウォームアップをしていた。

 今日は親善試合らしく、何校か集まって試合が行われるらしい。
 二階の観客席へ腰を降ろすと、貞男がソワソワと騒ぎ始める。

「はー、もうどうしよう。奏志の最後の試合とか俺もう無理泣けてきた」
「バカじゃねーの」
「はぁ?なんだとこの冷酷野郎」
「はいはい、二人共いい子だから仲良くしような」

 俺と貞男の間に割って座ってきたヒビヤンが、俺達二人の両肩をポンと叩く。
 お前はあれか。保育士か何かか。
 とりあえず貞男が戦前の腹拵えだと言い始めて、持ってきた弁当を広げ始める。

「おお、すげーな」
「へえ。圧巻って、こういう事を言うんだな」
「そうだろ。お前らありがたく食えよ」

 貞男の弁当は、まさかの全部おにぎりだった。
 男らしすぎんだろ。
 腹にたまるからおにぎり大好きだが。

 それから少しの雑談の後、待ちに待った我が校のメンバーが出てきた。
 相変わらず真島人気はとんでもなく、入ってきただけでドカッと体育館内が沸く。
 というかよく見たら既に泣いてる子も多数いて、ふと隣を見たら貞男も鼻水を垂らして泣いていた。
 はえーよ。

 白黒を基調としたユニフォームに白地に水色のラインというジャージを引っ掛けた真島は、今日も爽やかでいてギャラリーの声援をものともしないイケメンぶりだった。
 事前にメッセで試合を見に行くことは伝えておいたから、きっと真島が俺のことを見つけるのは時間の問題だろう。
 と思ってる間にもうこっちを見た。
 今日も真島の俺センサーは絶好調らしい。

 その表情が赤く色づき至極嬉しそうな表情に変わるが、俺の言いつけを守っているのか大袈裟に振る舞うことはなかった。
 だが不意に跪いたかと思うと、足首に手を当てて俺を見る。
 なにやってんだアイツは。

 一度ポカンとしたが、次の瞬間、あいつの意図に気付いてぶわっとつま先から頭の先まで込み上げるような熱が駆け抜けていった。
 
 真島が触れたのは、足首に巻かれたミサンガだった。
 いつもは制服だから見えないが、今日はユニフォームだからしっかりと見えている。
 それは俺にしか分からない、真島からのサインで。

 突然のことに動揺する気持ちもあったが、俺は拳を握るとぐっと前に出してそれに応えてやった。
 真島が付けてくれたミサンガが、ふわりと揺れて俺の手首を擽る。
 真島は綺麗に微笑んでから何事もなかったように立ち上がると、チームメイトの元へ戻っていった。

「…あいつ」
「えっ、なに?」
「なんでもねーよ」

 ヒビヤンの問いかけにぶっきら棒に返して、熱くなった顔を冷ますように息を吐き出す。
 やっぱりアイツは、いつだって俺を見てくれている。
 今の態度を見ている限り、真島が俺以外の子に夢中になってる素振りなんか全く感じられなかった。
 ともかく今日は真島の最後の試合だし、しっかり応援してやろうと俺は体育館を再び見下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

異世界転生したら、いつの間にか誰かに番にされていた話_______古の竜が待つもの_________

どろさき睡蓮
BL
僕こと、天草 蛍15歳はひょんな事から電車に跳ねられ、その時スマホ画面で起動していたBLゲームの世界に転生。穏やかな生活だったのが何やら不穏な雰囲気になっていく。僕は無事に婿を見つけられるのか?アホエロの世界で蛍がホタルとして懸命に生きていく話。__________そして、転生した世界には秘密があった。ホタルは何も知らないまま世界の危機を救うことになる。…竜たちは何を待っているのか__________  この作品はフィクションです  ★挿絵 作者の気分で描かれる落書きだが偶に重要な挿絵も…。 ※R15&ヒント 【竜の残響〜転移した異世界で竜を探す旅に出ます〜】⇐転移して来たヒガシの後の話を語ってます。

処理中です...