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しおりを挟む翌日、朝から雨でも降りそうな空はどんよりとした雲に覆われていて、校舎はどこか薄暗かった。
7月に入ったとはいえまだ梅雨時で、ジメジメと張り付くような制服が気持ち悪い。
今日の昼休みは真島が部活の集まりがあるとかで、弁当だけ貰って俺は学食へ足を運んでいた。
「せーんぱい!修学旅行どうでした?」
「うわっ、ジメジメしてんのにくっついてくんなっ」
後ろからガバっと抱きつかれて、ぴったりとした肌の感触にゾワッと肌が粟立つ。
こんなことをしてくる奴は一人しかいない。
もしかしなくても七海だ。なんかコイツ久しぶりだな。
そのままちゅっと耳裏に口付けられて、思わずその顔面を掴むとぐいと引き剥がす。
「てめえ、真島にチクるぞ」
「ええ、止めて下さいよ。真島先輩には嫌われたくないなぁ」
「じゃあ大人しくしてろ」
引き剥がして適当に空いている所に腰掛けると、七海はその隣に座ってきた。
だから隣に座るな。前に座れ。
「ところで先輩、当然来週の日曜は来ますよね?」
「は?どこに。余裕でバイトだけど」
「えっ、本気で言ってます?まさか知らないんですか?」
思いっきり目をまん丸にして言われた。
なんだか常識知らずくらいの勢いで言われて、よく分からんが俺が悪い気持ちになる。
「え、知らないけど…」
「噓ですよね?真島先輩の引退試合ですよ?」
「えっ」
それは全くの初耳だ。
俺の反応に七海の方も驚いている。
「真島先輩は特進科なんで普通科より引退早いんですよ。先輩、聞いてません?かなり噂にもなってますけど」
「…いや、全く」
考えてみれば真島は自分の事を全くといっていい程話さない。
俺が聞いたことには答えるが、聞かなければ何もアイツから語ることはない。
というか一年ちょい付き合って俺が真島の事で知ってることなんて、アップルパイが好きなことくらいだ。
「じゃあ尚更試合見に来たら喜んでくれますよ!俺場所教えるんで、絶対見に来て下さいよ」
「いやバイトだし」
「ええ、バイトと真島先輩と俺どれが大事なんですかっ」
「それは…」
真島だな。
ここでバイトと返せたら面白味もあったが、さすがに引退試合ならバイトより真島を取りたい。
なんかもう一つ選択肢があった気がするが、それは気のせいだろう。
「ちなみに俺は真島先輩の後を引き継いで、次のインハイではエースを…」
「お前の情報はどうでもいいや」
「ちょ、酷いですよっ。もっと俺に興味持って下さいよ」
ね、と七海は俺の太腿の上に手を置いたと思ったら、意図するような手付きで撫でてくる。
その手をわりと全力で抓ってから、ふと気付いた。
「あれ、そういやお前今日、昼休みに部活の集まりあるんじゃねーの」
「痛いですよ先輩っ、俺痛くするのは好きだけどされるのは――って、そんな話聞いてないですけど?」
「…真島がそう言ってたんだけどな」
弁当を口に運びながら首を捻る。
まあコイツとは学年違うし、引退が近いなら三年だけの集まりなんだろう。
勝手にそう思い直して、結局七海と共に弁当を食ってから二人で学食を出る。
「何でついてくんだよ」
「先輩に会うの久しぶりな気がして。嬉しいなって」
ニコニコと相変わらず人懐っこい笑顔を浮かべながら七海が俺を追いかけてくる。
隙あらば触ろうとしてくる七海と一定の距離を保ちつつ歩いていたら、体育館へ向かっていく男女の姿が目に入った。
どこにいても人目を引く姿に、自然と目を奪われてしまう。
「…真島だ」
隣を歩くのは、昨日校舎裏で話していた女子だった。
すぐに体育館に入って行ってしまってそれは一瞬だったが、どこか愕然とした気持ちで見つめてしまう。
なんで。部活の集まりじゃなかったのかよ。
「あ、あれうちの新しいマネージャーっすよ。一年生」
「え?…ああ、なんだ。そうか」
七海の言葉で無意識にホッとしていたが、ふとそれに気付いて自分で自分を殴りたくなった。
アホか俺は。何の心配してんだ。
そもそも真島が俺に噓つくわけねーだろうが。
「可愛い子だな」
「そうっすか?俺は全く興味ないですけど」
そりゃお前ゲイだしな。
あと目腐ってるし。
「高瀬先輩のが百倍可愛いですよ」
「そういうのいらん。そもそも女子と比較すんな」
「口説きたいんだから言わせて下さいよ。まあでもあの子は真島先輩の推薦ですしね。一般的には可愛いんじゃないですか」
「――は?」
思わず聞き返す。
七海は特に気にした様子もなく言葉を続けた。
「ああ、うちのバスケ部マネージャー志望の子すごく多いんで。そんな何十人もいらないんで部長が面接して決めるんですけど、真島先輩がどうしてもあの子は欲しいって。元々知り合いなんじゃないですか?」
「…へー」
七海の言葉に少し固まってしまった。
あの真島が俺以外の奴に執着するとか。
それも女子。
「あれ、俺もしかしてなんか余計な事言いました?」
「別に。もうお前ついてくんなよ」
「そんな事言われても俺も教室こっちですし。別に真島先輩がモテるのなんか今に始まったことじゃないですから、気にしなくて大丈夫だと思いますよ」
「だから気にしてねーよ。何お前俺の事慰めようとしてんだよ」
「えっ、だって高瀬先輩どう見ても妬――」
その先の言葉を言わせてたまるか、と俺は七海の腹に思わずグーパンをいれた。
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