ベタボレプリンス

うさき

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 どこか気まずくなってしまった帰り道。
 まだ人通りの多い街中を歩いていたら、真島にクンと裾を引かれた。

「…あ、あのね。さっきは本当にごめんなさい」
「別に気にしてねーよ。もうそんな寂しそうな顔すんな」
「え、俺してるかな…っ。ご、ごめん」

 自分で気付いてなかったのか。
 俺はまた、真島に酷い顔をさせてしまっている。
 胸が軋んで、居たたまれない気持ちになる。

 せっかく今日のデートをあんなに大はしゃぎで喜んでいたのに、また最後にしょげた顔をさせてしまった。
 女の子とのデートなら今までこんな事はなかったのに、真島相手だとうまくいかない。

 ふと露天で投げ売りされてる一つ50円だかのミサンガが目に入った。
 ほぼ廃棄処分待ちの叩き売りだろうそれは、きっと半年も経たずにダメになりそうな物だ。
 俺はしょげた顔の真島に向けて、それを指差す。

「あれならいいよ」
「――えっ」

 誰も欲しがらないような、完全に売れ残りのモンだ。
 それでも真島の顔はあっという間に、宝物を見つけた子供のように嬉しそうな表情に変わる。
 
 それに俺も欲しくなってしまった。
 なんでもいいから、どんなに安モンでもいいから真島の言葉で欲しいと思ってしまっていた。

 2つ合わせたってジュース一本にもならないそれを二人で買う。
 赤と橙と白の糸で編まれたそれは、安っぽくて毎日付けていたらすぐにでも切れてしまいそうだ。
 
「た、高瀬くんっ、付けていい?すごい嬉しいなあ」

 だけど真島がこれ以上無いって顔で笑ってくれるから、俺もスッと気持ちが軽くなる。
 こんなモンで気が済むなんて、やっぱり真島の機嫌を取るのは容易い。

「ちょっと待て」

 すぐにでも付けたそうな真島の言葉を遮って、俺は真島の腕を引く。
 比較的人通りの少ない川沿いの道まで足を運ぶ。
 ぼんやりとした夕日が水面に反射して、欄干までキラキラと輝いているように見えた。 

「ほら、お前が付けて」

 俺は自分の分のミサンガを真島に手渡す。
 それから利き手を差し出した。
 どうせすぐ無くなるようなモンだが、ミサンガは本来願掛けするものだ。
 コイツはきっとそれを知らないだろうが、俺は真島に付けてもらいたかった。

「えっ、いいの?」
「いいんだよ。早くしろ」

 命令口調でそう言うと、真島は慌ててそれを俺に付ける。
 自分の手についたそれを見て、胸が堪らなく熱くなる。

「はい、お前の寄越せ」

 そう言って、今度は真島の分のミサンガを貰う。
 真島は俺に同じように利き手を差し出したが、少し考えてから俺はそれを手ではなく足首に付けてやることにした。
 こっちの方がきっとすぐに駄目になるはずだ。

「えっ、わっ」
「同じ場所だとそれこそ恥ずかしいからな」

 別になんとも思ってないが、そう言いながら真島の前に跪く。
 少し手を止めてから、その足首に紐を回した。
 どうか、真島が俺のことなんか綺麗に忘れて、この先はちゃんと女の子で好きな奴が出来ますように、と願いを込めた。

 不意に突き刺すような痛みが胸にせり上がってくる。
 それはまたたく間に俺の心に広がって、一気に目頭が熱くなった。
 
 ああ、まずい――と思ったらぽたりと雫が落ちてきた。
 まさかそれが自分から出たものなのかと思ったら、一気に身体が冷たくなる。
 が、ちょっと待て。いや俺は泣いていない。
 ハッとして見上げたら、真島がこれ以上無いほど号泣していた。
 えっ、なんで。

 だがその表情は蕩けるように赤らんでいて、まるでお涙頂戴の感動映画にでも魅入っているかのようだ。
 俺は今しがたの自分の気持ちなんかすっかり忘れて、思わず顔を綻ばせてしまう。

「…全くお前、そんな泣き虫でどうすんの」
「ご、ごめんっ。お、俺高瀬くんの前以外では…ぜ、全然泣かないんだよっ…」
「そうだな。その涙は俺以外には見せないほうがいいな」

 じゃなきゃコイツのイメージがあっという間にガタ下がりだ。
 真島が泣いてくれたおかげで、逆にこっちの気持ちは落ち着いた。
 しっかりと付いたそれに満足してから、俺は立ち上がる。
 
「ほら、帰ろうぜ。お前のメシが食いたい」
「――うんっ。うん…っ」

 真島の涙はしばらくの間止まらなかったが、俺は周りを気にせずその手を引いて歩いてやった。
 真島に付けてもらったミサンガが、風に揺れてどこかくすぐったかった。
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