ベタボレプリンス

うさき

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----side真島『あと一年』

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『高校が終わったら、俺達の関係は終わり。それでいいな』

 高瀬くんに言われた言葉が、いつだって頭から離れなかった。
 
 どれほど高瀬くんを大好きだと言っても、どれほど心を込めて大事なんだと伝えても、俺の気持ちは彼にはちっとも届かない。
 高瀬くんはいつだって余裕で格好良くて、だけど俺はいつもみっともなく必死で彼に自分の気持ちをひたすら押し付けることしか出来なかった。
 それでも好きになってもらわないと、卒業式に別れられてしまう。

 こんなに好きになれる人は世界中どこを探したって、この先も絶対に高瀬くんしかいない。
 未来のことは分からないというけれど、そんなことは無い。
 俺には絶対に高瀬くん以上の人は現れないという自信があって、それを信じて疑わなかった。
 もし高瀬くんがいなくなってしまったら、きっと俺はもう生きていけない。

 俺はすごく焦っていた。
 一分一秒だって無駄にできる時間はなくて、高瀬くんに好きになってもらうためになんでもした。
 彼の好きな食べ物を聞いて、好きなタイプやら趣味やらたくさん質問した。
 結局答えてくれたのは『唐揚げ』だけで、それだけでも彼が好きなものを知れた事に感動した。

 ああもう、いっそ唐揚げになりたい。
 彼に好きだと言って貰えるなら、何にだってなってみせる。
 勿論メイドさんにもなれるけど、高瀬くんに二度と言うなと言われてしまったから残念だけどなることは出来ない。

 最近ではよく部活を見に来てくれる女の子達の中に『好きな男子の落とし方』という本を持っていた子がいた。
 差し入れと間違えて出してしまったみたいだったけど、是非ともそれを貸して欲しいと言ったら、真っ赤な顔で貸してくれた。
 いきなり変なことを言われて、きっと気持ち悪いと思われたんだろう。
 それでもなりふり構っている場合じゃなかった。

 だけどその本の内容は押したら引く、みたいな内容で俺にはとてもじゃないけど実践できなかった。
 彼を目の前にして引く、なんてそんな勿体無い時間の使い方を出来るほど、俺の心に余裕はなかった。

 試行錯誤しているうちに季節はどんどん過ぎていってしまって、気持ちばかりが焦る。
 三年生を送る卒業式が終わって、たくさんたくさん泣かされた三上先輩を見送る。
 三上先輩が最後に教えてくれたことは、俺には確かにまだ見せてもらったことのない高瀬くんのお話だった。

 高瀬くんがたくさん甘えてくれるなんて、そんな夢みたいな話があるんだろうか。
 俺はいつだって高瀬くんに触れると頭が真っ白になってしまって、彼の気持ちを気にしてあげる余裕がなかった。
 
「――っふ、真島…っ」

 俺と高瀬くんだけの屋上で、長い長いキスをする。
 
 今日が卒業式で、つまりあと高瀬くんと一緒にいれる日は丁度一年ということになる。
 そう思ったらもうどうしようもなくつらくなってしまって、それに気付いた高瀬くんが手を引いてここまで連れてきてくれた。

 少し離して高瀬くんの顔を見たら、蕩けるような瞳がぼんやりと俺を見上げる。
 赤く色付く頬も、少し乱れた呼吸も、その髪の一筋まで全てが堪らなく愛しい。
 艶かしく濡れる唇に、一瞬でまた頭が真っ白になる。

 もっと欲しい。
 もっともっと、高瀬くんが欲しいんだ。
 彼の全部が、心も身体も全てが欲しい。

「…は…っ、苦し…真島っ」

 そう言われて、ハッとして彼を抱きしめる手を緩める。
 いけない。また理性が完全に飛んでしまっていた。
 ここは学校で、今日は卒業式とはいえ校内にはまだ大勢人が残っている。

 高瀬くんの髪の毛についた桜の花びらを見つけて、それを指ですくい取る。
 彼に触れるものは俺だけでいい。
 なんて桜の花びらにまで独占欲を出してしまう俺は、本当におかしい。
 
 花びらがついていた箇所にキスを落とすと、高瀬くんの髪の毛の香りがいっぱいに広がってくらりとする。
 だけどここは学校だし、あまりやりすぎると彼に怒られてしまう。
 そう思って恐る恐る見下ろしたら、高瀬くんは俺を許すようにやわらかく目を細めて笑ってくれた。
 足先から頭の先まで電気が走り抜けるような感情が湧き上がる。

 可愛い。可愛くて、愛しくてどうしようもない。
 また一瞬にして理性が飛んで、ぎゅうぎゅうと彼の身体を抱きしめて頬ずりする。
 だけどふと、三上先輩の言葉が蘇ってきてしまった。
 高瀬くんからの行動は注意したほうがいいと言っていた。
 高瀬くんから甘えられたことはないけど、今みたいに俺を許してくれることはひょっとしてそれには含まれないんだろうか。

「…なに、どうした」

 俺の様子にすぐに気づいたように、高瀬くんが小さく首を傾ける。

「…なに考えてんだよ」
「えっ、えっ…と、なんでもないよ」
「嘘つけ」

 そう言って高瀬くんは目を細めて俺を見る。
 あ、いけない。高瀬くんが不機嫌になってしまう。
 少しでも嫌な気持ちになんてさせたくない。

「…別に怒ってねーから。そんな顔しなくても今は別れたりしねーよ」

 高瀬くんの言葉に、きゅーっと喉元までせり上がるような気持ちが込み上げる。
 別れないと言われて物凄く嬉しいのに、『今は』とついているからすごく苦しくなる。
 
「…大好きだよ」

 もう何度も彼に伝えた言葉。
 それでも伝え足りなくて、全然届いてくれなくて、だけどどうしても言わずにはいられない。
 すぐに目頭が熱くなってしまったけど、高瀬くんの手が俺の背を撫でる。

「…うん」

 一番欲しい言葉は、やっぱり返ってこない。
 だけど高瀬くんは顔を俯かせてぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
 それからくしゅくしゅと胸に額を擦りつけられて、そんな仕草にあっというまに頭が麻痺してしまう。
 
 二人だけの屋上で、ひたすらに大好きな人を求め続けていた。
 毎日が、どうか過ぎないでと願っていた。
 だけど時間が過ぎるのは本当にあっという間で、春休みが終わりそして俺達は三年生になる。

 新学期がやってくる。


 高瀬くんと一緒にいられるまで、あと一年を切ってしまった。
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