ベタボレプリンス

うさき

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 勿論のことだが、いくら相談とはいえ七海と二人きりになれる場所で、なんてことはありえない。
 二人きりになったら何されるか分かったもんじゃない。
 後輩だが身長差もあってスポーツマンのアイツに俺は力で勝てる気がしない。
 というわけで食堂で昼休みに落ち合うことにした。
 
 当然だが真島が弁当を作ってきてくれているから、それを取りに真島の教室へ向かう。
 俺が来たことに気付いて、またガッシャンと机に躓きながら直進する真島にクラス内がやはり蒼然としている。
 もしアイツと道路挟んだ道端で出会ったら、間違いなく車に轢かれてるな。

「あー、悪い。弁当だけ取りに来た。今日一緒にメシ食えねーわ」

 そう言ったら真島の瞳が、酷く怯えたように一瞬揺れる。
 ドクリ、と嫌な感じに心音が鳴った。

「…あ、うん。大丈夫だよ。お弁当持ってくるね」

 下手くそな笑顔を作ってから、さっと踵を返していく。
 見るからにガックリと肩を落としているその背中を、複雑な心境で見つめてしまう。

 あーくそ、なんなんだこれは。
 真島の落ち込んだ顔にダンボールに入った捨て犬すら連想してしまう。

 名残惜しげに俺を見る真島から、弁当を貰って逃げるように教室を後にした。
 その足で食堂へ向かう。

「せーんぱい!」

 七海が嬉しそうに俺を待っていて、ブンブンと元気いっぱいと言った様子で手を振っていた。
 何やら数人の女子と話していたらしく、またねと愛想良く言って俺のところへ来る。
 七海を見る女子の視線は真島に対する視線と同じで、コイツもゲイじゃなきゃ女子と好き放題遊べるのに勿体無い。

 比較的人の少ない一番端の席へ行くと、俺はそこに腰を降ろす。いや、降ろそうとしてやめた。

「ちょっと待て。なんで隣に座るんだよ」
「え、いいじゃないですか。机の下で色々してあげますよ。誰かにバレるかもっていうスリル、興奮しません?」

 色々って一体何をする気だコイツは。
 間違いなくヤバイと身の危険を感じて、サッと対面の席へ回り込む。

「冗談ですって。警戒しないで下さいよ」
「冗談に聞こえねーんだよ。俺に少しでも触ったらぶん殴るからな」
「可愛い顔して怖いこと言いますね」

 それはお前だと内心でツッコミをいれる。
 そしてコイツも真島と一緒に眼科へ行ったほうがいい。

 とりあえず本題は後回しで、昼飯を食うことにする。
 弁当を広げたら唐揚げが入っていてテンションが上がった。
 そういえば唐揚げは真島が一番最初に作ってくれた弁当だ。

 我ながらよく覚えているなと思ったが、一番好きな食い物だから覚えていた。
 ふともし真島がここにいたらそれを教えてやれたな、なんて思う。
 そしたらアイツはすげー喜びそうだ。

「あっ」

 ひょいと七海に唐揚げを一つ持ってかれた。
 パクリと口に吸い込まれていったそれを愕然と見送る。

「おー、めっちゃ美味い。先輩のお母さん料理上手なんですね」
「……」

 人の弁当を奪ったわりには、ニコニコと悪気のない笑顔を向けられた。
 お前が憧れてやまない真島の手作り弁当だ、とは教えてやらない。
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