92 / 251
84
しおりを挟む
「――お前!」
とっさに殴ろうとしたら、一步下がってひらりと避けられてしまった。
さすがバスケ部のスピードスター。反射神経バッチリじゃねーか。
いや無駄に感心してる場合じゃない。
「怒らないで下さいよ先輩。可愛いなあ。デコチューくらい初めてじゃないでしょ?」
ここで男とは初めてだ、という言い訳ができないところがつらい。
確かに初めてじゃないが、いやそういう問題でもない。
唖然としていたら不意に七海のスマホが鳴る。
七海は思いっきりやばい、といった感じでギクリと顔を強張らせた。
どうやらサボっているのがバレたらしい。
考えてみればコイツレギュラーだし、色々とまずいんじゃないのか。
「あー、もうちょっとで先輩落とせそうなのにー」
「全然ちょっとじゃねーよ。むしろ落ちる気がしねーわ」
「そんなこと言わないで下さいよっ。あー、そうだ。俺真島先輩と仲良いし、高瀬先輩ファンでしょ?俺といれば話せるチャンスあるかもですよ!」
何か俺の気を引こうとしているらしいが、コイツは盛大な勘違いをしている。
もうなんか面倒くさくて言い返さなかったら、七海はそれじゃあ戻ります!と慌てたように背を向けた。
が、思い出したように顔を振り向かせると、唇に人差し指を当てる。
「ね、先輩。次はちゃんと口にしましょうね」
気色悪い事をウインクと共に言って、七海は部活へ戻っていった。
俺はグシグシと額を拭いながら、次があってたまるかと愕然とその後姿を見つめていた。
なんだか余計な精神力を使ったというか、どっと疲れて項垂れたようにベンチに座る。
もう真島さっさと来い。
腹も減ったし、さっさと真島のメシが食いたい。
当然のように作らせる気で待っていたら、ようやくスマホが音を立てた。
見なくても場所は書いてあるしどうせすぐ中庭に来るだろうと思ってたら、思っている間にもう来た。
相変わらずの全速力だ。
「ごっ…ごめん!いっぱい待たせたよね?寒くない?お腹空いた?ここでずっと待ってたの?」
一体一度にいくつ質問してくるんだ。
だがずっと待っていたせいか、なぜだかぎゅっと込み上げるように胸が熱くなった。
ベンチに座ったままちょいちょいと真島を呼び寄せる。
不思議そうな顔で目の前まで寄ってきた真島の腰を、ガバっと引き寄せた。
「――えっ!?た、たか…」
「おせーよ、馬鹿」
脱力するように額を真島の腹にくっつけて、俺は目を瞑る。
部活なんだから遅くなって当然だが、それでももっと早く来いよと思った。
真島は部活後なのに全然汗臭くなくて、なぜか男のくせにいい香りがした。
ぼーっとした頭で目を閉じていたら、すぐに手のひらが俺の髪に降りてくる。
やけに熱い指先が、俺の髪を梳いて耳を撫でつける。
「…な、何かあった?遅くなってごめんね。本当に、ごめんね」
真島は全く悪くないが、心底悪いことをしてしまったという口調で何度も俺に謝る。
触れる指先は俺をあやしているようで、くすぐったいが心地良い。
俺は真島に額を付けたまま、擦りつけるように首をゆるやかに振った。
「…何もねーよ。ただ腹減っただけ」
「うん。帰ったらすぐに作るからね。高瀬くんの好きなもの、なんでも言ってね」
言いながら真島は屈んで俺を強く抱きしめる。
誰かに見られる可能性も高いのに、俺は今何も考えられなかった。
ただ抱きしめられて、真島の速い心臓の音を近くで聞いていた。
とっさに殴ろうとしたら、一步下がってひらりと避けられてしまった。
さすがバスケ部のスピードスター。反射神経バッチリじゃねーか。
いや無駄に感心してる場合じゃない。
「怒らないで下さいよ先輩。可愛いなあ。デコチューくらい初めてじゃないでしょ?」
ここで男とは初めてだ、という言い訳ができないところがつらい。
確かに初めてじゃないが、いやそういう問題でもない。
唖然としていたら不意に七海のスマホが鳴る。
七海は思いっきりやばい、といった感じでギクリと顔を強張らせた。
どうやらサボっているのがバレたらしい。
考えてみればコイツレギュラーだし、色々とまずいんじゃないのか。
「あー、もうちょっとで先輩落とせそうなのにー」
「全然ちょっとじゃねーよ。むしろ落ちる気がしねーわ」
「そんなこと言わないで下さいよっ。あー、そうだ。俺真島先輩と仲良いし、高瀬先輩ファンでしょ?俺といれば話せるチャンスあるかもですよ!」
何か俺の気を引こうとしているらしいが、コイツは盛大な勘違いをしている。
もうなんか面倒くさくて言い返さなかったら、七海はそれじゃあ戻ります!と慌てたように背を向けた。
が、思い出したように顔を振り向かせると、唇に人差し指を当てる。
「ね、先輩。次はちゃんと口にしましょうね」
気色悪い事をウインクと共に言って、七海は部活へ戻っていった。
俺はグシグシと額を拭いながら、次があってたまるかと愕然とその後姿を見つめていた。
なんだか余計な精神力を使ったというか、どっと疲れて項垂れたようにベンチに座る。
もう真島さっさと来い。
腹も減ったし、さっさと真島のメシが食いたい。
当然のように作らせる気で待っていたら、ようやくスマホが音を立てた。
見なくても場所は書いてあるしどうせすぐ中庭に来るだろうと思ってたら、思っている間にもう来た。
相変わらずの全速力だ。
「ごっ…ごめん!いっぱい待たせたよね?寒くない?お腹空いた?ここでずっと待ってたの?」
一体一度にいくつ質問してくるんだ。
だがずっと待っていたせいか、なぜだかぎゅっと込み上げるように胸が熱くなった。
ベンチに座ったままちょいちょいと真島を呼び寄せる。
不思議そうな顔で目の前まで寄ってきた真島の腰を、ガバっと引き寄せた。
「――えっ!?た、たか…」
「おせーよ、馬鹿」
脱力するように額を真島の腹にくっつけて、俺は目を瞑る。
部活なんだから遅くなって当然だが、それでももっと早く来いよと思った。
真島は部活後なのに全然汗臭くなくて、なぜか男のくせにいい香りがした。
ぼーっとした頭で目を閉じていたら、すぐに手のひらが俺の髪に降りてくる。
やけに熱い指先が、俺の髪を梳いて耳を撫でつける。
「…な、何かあった?遅くなってごめんね。本当に、ごめんね」
真島は全く悪くないが、心底悪いことをしてしまったという口調で何度も俺に謝る。
触れる指先は俺をあやしているようで、くすぐったいが心地良い。
俺は真島に額を付けたまま、擦りつけるように首をゆるやかに振った。
「…何もねーよ。ただ腹減っただけ」
「うん。帰ったらすぐに作るからね。高瀬くんの好きなもの、なんでも言ってね」
言いながら真島は屈んで俺を強く抱きしめる。
誰かに見られる可能性も高いのに、俺は今何も考えられなかった。
ただ抱きしめられて、真島の速い心臓の音を近くで聞いていた。
5
お気に入りに追加
864
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる