ベタボレプリンス

うさき

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 七海は真島に時たま話し掛けていて、さっきも言っていたが本当に慕っているんだろう。
 真島も可愛い後輩、と言った感じで先輩らしく振る舞っていた。
 ほどなく相手チームが到着して、少しのウォームアップの後試合が開始する。

 真島は期待通りのさすがのスーパースターだった。
 俺が危惧していた事は全くなく、見事なまでの好プレーでギャラリーを沸かせていた。
 特に今日は絶好調で、気持ち良いほどシュートが決まる。

「うわ、格好いいな真島」

 ヒビヤンも魅入ったように釘付けになっている。
 先輩にいじめられてグズグズ言っていた姿が嘘のようだ。
 俺もなんだか青春バスケドラマでも見てるのかなという気持ちで、ぼーっと真島の姿を追いかける。

 体力温存のためか第二クォーター途中で真島は一旦交代となり、代わりに七海が出てきた。
 わざわざ見てくれと自信満々に言うからには、一体どんなモンなのかと特に感情のない視線で眺める。

 ヒビヤンは恋の予感がとかアホなこと言っていたが、そう真島みたいな奴がそこら辺にいてたまるか。
 あいつが一体俺に何を求めているのか、この際しっかり見てやろう。
 そう思いながらじとっと七海の姿を見下ろす。

 相手チームのボールから、試合が再開する。
 キュッキュッというバッシュの音が交錯し、競り合うように選手が動く。
 相手が放ったシュートが外れ、味方がリバウンドしそれを七海にパスする。
 
 ――速い、と恐らくここにいる誰もが思っただろう。

 ボールを受け取った瞬間、もう七海はそこにいなかった。 
 風のように駆け抜けてあっという間にスリーポイントラインへ辿り着くと、そのまま流れるような動作でシュートを放つ。

 パサリ、と網を揺らす音がコートに響いた。
 呆気にとられたような一瞬の静寂の後、ドカッと体育館内が沸く。

 交代後の奇襲としては大成功すぎるほどの好プレーだ。
 おー、と俺も素直に感心する。
 
 その後も七海は観客を魅了させるようなスピードを駆使して、チームの得点に貢献した。
 笛の音が響き第二クォーターが終わると、ハーフタイムとなる。

 一旦体育館から出る自チームを見送っていると、不意に一番後ろにいた七海が俺に向けてピースサインを寄越した。
 少し赤い顔で、ニッコリと高らかに俺に向かって手を伸ばす。
 その真っ直ぐな視線は物凄く近い位置で見覚えがあるもので、俺はゾワリと嫌な予感を感じ取ってしまった。

 が、七海の顔が不意にむっとしたように強張る。
 隣を見たら、ヒビヤンがニコニコと七海にピースを返していた。
 コイツなんか楽しそうだな。


 試合は後半から手に汗握る接戦になったが、真島と七海の活躍が功を奏して無事勝利を収めた。
 中々面白かったなと俺とヒビヤンは満足して体育館を出る。

「お前どうすんの。真島待つの?」
「おー。今日試合メインだって言ってたし、一緒に帰るわ。またな」
「…もう手遅れじゃね」
「え、なにが」

 聞き返したが、いーやとヒビヤンは流したように言って、俺の背をポンと叩いて帰っていった。
 さてどこで待つかと、まだ女子も大勢いるし少し離れた中庭までやってくる。
 真島にメッセを送って待っていることを伝えておくと、俺は中庭のベンチで横になった。
 
 どれくらい経っただろう。
 鞄を枕に寝ていたら、タタタと走り寄る音が聞こえてきた。
 ああ、真島が来たなと身体を起こす。

「先輩!」

 が、ニコニコと走り寄ってきたのは真島ではなく、七海だった。
 真島が期待を裏切るとは珍しい。
 と思ったがスマホは鳴ってないし、まだ返信も来ていない。
 
「ああ、良かった。帰っちゃったかと思って探しちゃいましたよ」
「いやお前部活は?まだ終わってないだろ」

 終わってたら速攻で真島から連絡がくるはずだ。
 七海はどこか困ったようにくしゃりと笑う。
 
「一年は片付けって言われたんで、抜け出してきちゃいました」

 そう言って、テヘと舌をだす。
 殴ったろかなコイツ。

「ね、先輩。俺格好良かったですか?」

 期待した目でそう聞かれて、視線を持ち上げる。
 まあどう見てもあれを格好悪いとは思えないし、頑張ったんだから素直に褒めてやるか。

「おー。なんかすごかった」

 かなり語彙力の乏しい感想だが、七海は良かったと胸に手を当てる。
 女子ウケしそうな爽やか笑顔が、ほんのり色付いている。

「じゃあいけますね」
「え、何が」
「俺の事少しでも格好いいと思えたなら、きっと俺の事好きになれます」
「――は?」

 七海は相変わらず自信たっぷりな顔で、流れるように言葉を続けた。

「俺、先輩のこと好きになりました。運命なんです。俺の場合こういうのは自分からいかないと、どうにもならないんで」

 え、ちょっとまて。
 さらっと男に告白された。
 展開が早すぎて全くついていけないんだが。
 しかも運命っておい。

「いや無理。つーか、そもそも俺男なんだけど」
「ああ、大丈夫ですよ。俺ゲイなんで。先輩違うとは思いますが、俺がいろいろ教えてあげるから安心して下さい。最初は怖いかも知れないですけど、そのうちハマりますよ。俺上手いですし」

 驚くほどさらっとそう言って、七海は子犬みたいに人懐っこい表情で笑った。
 言ってる内容のヘビーさと、顔のライトさがマジで噛み合ってないんだが。
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