ベタボレプリンス

うさき

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 よく分からん目の前の男は一つ下の学年で、七海(ななみ)という苗字らしい。
 勝手に自己紹介してきたから適当に聞き流していたが、バスケ部所属と聞いて目を瞬かせる。
 ということは、真島の後輩じゃねーか。
 それを聞いたらなんとなく警戒心も解けて、ただ友達になりたいだけらしいしさっさと連絡先を交換して別れた。
 
 それにしても今日は真島が遅い。
 ならこっちから教室へ向かうかと足を向けたところで、廊下の先からその姿が見えた。
 ドキリ、と心臓が跳ねる。

 もう散々見慣れてる姿のはずだが、やっぱりアイツの見た目は格好良い。
 女子の声にも動じず泰然たる態度で歩く様は、まるで大物俳優か何かかなと錯覚するレベルだ。

 が、真島は俺の姿に気付くと、すぐになりふり構わず走ってきた。
 あっという間に目の前に来ると、感極まったように唇を噛みしめる。
 
「高瀬くん…」

 大喜びで走ってきたのかと思えば、なんか様子がおかしい。
 よく見ればどことなく泣きそうだ。

 とりあえずここで話すわけにもいかないし、いつも通り真島と屋上にやってくる。
 さて話を聞いてやろうかと真島の顔を見たら、もう目にいっぱい涙が溜まっていた。
 一生懸命ここまで堪えていたという感じらしく、もうそれはあと少しで零れ落ちそうだ。

「なにお前。またミカ先輩にいじめられたのかよ?」

 そういや来るの遅かったし、掴まってたんだろうか。

「俺の知らない高瀬くんの好きなものの話された…っ」

 そしてメソメソ泣きはじめる。
 やめろと言ったのに、先輩はあれからもたまに真島をいじっている。

 先輩にはあの後、俺の今の気持ちを一度ハッキリと伝えた。
 俺の心境の変化に驚いていたが、一応分かってくれたらしい。
 裏切られたーとか言っていてどの口が言うんだと思ったが、それでも「じゃあ見守ってあげるね」とウインクして言ってくれた。

 全然見守ってないんだが。
 というかあいつ真島の反応を楽しみ始めたな。

「俺…メイドさんになれるように頑張るから…っ」
「うん。今のは二度と言うな。絶対だぞ」

 真島が気色悪い行動を起こさぬよう頭を撫でてやったら、がばりと抱きつかれた。
 そうなったらあっという間に何か別の方向に興奮したらしく、なんか俺の髪に顔を埋めてスーハー言っている。
 匂いを嗅ぐな。変態か。

「ほら、元気になったら離れろ。学校だぞ」
「――っあ。ごめんっ」

 真島はあわあわと俺を離したが、急速に離れていった体温にどこか名残惜しさを感じてしまったのは俺の方だった。
 真島とはあの文化祭以降、多少の触れ合いはあってもキスまではしてない。
 たまにチラチラと人の唇を物欲しそうに真島が見ているのは知っているが、そんな簡単に男とほいほいキス出来るほど俺の心は出来ていない。

 どことなく熱くなった顔を隠すように「弁当」と言ったら、真島は注文を命じられたシェフの如く手際よく昼飯の用意を始める。
 小学生の遠足かよ、というレベルでお手拭きやら水筒やらが鞄から出てきた。

 女子もビックリの綺麗に配置されたキャラ弁をガツガツ食いながら、ああそうだとさっきの出来事を思い出す。

「お前七海って後輩知ってる?バスケ部にいるだろ」
「ん、七海くん?いるよ。どうしたの」
「さっき友達になったんだけど。どんな奴?」
 
 聞いたら、真島は考えるように少し視線を持ちあげる。

「すごくいい子だよ。俺のこともいつも気遣ってくれるし、差し入れ持ってきてくれたりもするんだよ。あ、もちろんバスケも上手でね、一年生だけどもうレギュラー入りしてて…」

 楽しそうに後輩を語る真島だったが、言いながらなぜか顔が青くなっていく。
 どうやらコイツの独占欲が出始めたらしい。

「あー、もういいよ。分かったから。別に興味ねーから」
「あ、あの…ごめん」

 自分でも分かってるんだろう。
 最近どうしようもなく独占欲が抑えきれなくなっているのか、すぐ顔に出る。
 それを自分でもいけないと思っているらしく、罪悪感に苛まれるように俯いている。
 俺としては別に今は真島以外に興味が無いから構わないが、それでもずっとこの調子ならコイツの方がストレスで駄目にならないか心配だ。

 コイツがこんなにいまだにビクつく理由は分かっている。
 俺が真島に対して、満足に安心できる一番の言葉を与えていないからだ。
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