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しおりを挟む駅から貞男とは逆方向で、そこからは真島と二人で電車に乗る。
女相手でもないし、真島相手に変に気を使って話す気もしないから、俺は終始無言だった。
なんだか少し疲れたのもあるかもしれない。
それでも真島とは夏休み中一緒にいたこともあって、特に気まずいとかいうわけでもなく、真島も嬉しそうに俺の隣りにいた。
毎度のことながら俺を送りたいと言う真島と一緒に電車を降りて、自宅への道を二人で歩く。
暗くなった夜道を歩いていたら、不意にスマホが鳴った。
電話らしい呼び出し音に携帯を取り出すと、それはミカ先輩からだった。
「あれ、出ないの」
「おー」
さっとスマホを仕舞う。
だが鳴り止まない音はイラッとくるレベルにうるさい。
先輩からの電話とかどうせろくなこと無いし、俺は電源を切ってやった。
「い、いいの?」
「いいんだよ。話す気ないし」
その言葉で真島も何か察したのか、それっきり押し黙る。
だがチラチラと視線だけは分かりやすく感じて、俺はじろりと横目で真島を睨んだ。
「なんだよ。お前思ってることあるならハッキリ言えよ」
「あ…えっと。だ、大好きです」
コイツは一体何をいきなり言っているんだ。
と思ったが、思ってることを言えと言ったのは俺だった。
なんだか妙な気恥ずかしさがこみ上げて、顔を俯かせる。
通り抜ける風がどことなく涼しく感じた。
「…なー、夕飯食ってく?」
ぽつりと呟くように聞く。
これから家に帰って一人で飯を食うには、なんとなく味気ない気がした。
夏休み中でもないし、明日のことを考えればどうかなとも思ったが、不意にガシリと腕を掴まれる。
少し驚いて見上げたら、真島が興奮したように真っ赤な顔をしていた。
「は、ハンバーグ作りますっ!」
鼻息荒く言われた言葉に、俺は思わず吹き出してしまった。
買い物してから、二人でマンションへ帰ってくる。
夏休み中は当たり前だったが、学校始まってからは時間も遅くなるし一度も真島を呼んでいなかった。
鍵を開けて中へ入ったら、毎日帰ってくる家なのにふと懐かしい感じがした。
「なんかお前がここ来るの久々な気がするわ。まだ最近のことなのに――」
笑いながら振り向こうとして、その言葉が遮られる。
ガバッと覆いかぶさるように、真島に抱きしめられていた。
全身に感じる熱と、しっかりとした力強い手の感触。
「…は?なにしてんだよお前」
「…その、学校じゃなきゃ良いって言ってたからっ…。御飯作る前に…ちょっとだけ」
そう言ってしっかりと俺の身体を抱きしめる手は、一向に緩められる気配はない。
ちょっとだけだと言ったくせに、何か歯止めが効かなくなったのか耳や首筋に口付けられた。
「おい…待てっ、学校でやめろとは言ったが他では良いなんて一言もいってねーよっ」
どんな都合のいい解釈の仕方だコイツ。
しかも玄関入って速攻抱きしめてくるって、どんだけがっついてんだ。
慌てて逃れようとしたが、真島は一向に身体を離してくれない。
「ごめん、好きだよ…っ。もう少しだけ」
切羽詰ったようにそう言われて、バクリと心臓が鳴った。
自分でも驚くほど大きく鳴ったそれに、思わず硬直する。
身体が軋むような力強さとすぐ耳元で聞こえる息遣いに、どれほど自分が求められているかを知った。
するりと頬に伸びてきた手に顔を上向かされて、真島の瞳と強制的に目が合う。
酷く熱に浮かされたように俺を見つめる視線に、無意識に腰が引けてしまった。
真島は俺の腰を引き寄せると、コツンと額に自分の額を合わせる。
「…キスしたい。ダメかな」
ゾクリとするほど色気を漂わせた声音で言われた。
すぐにでも唇が触れてしまいそうな距離にいるのに、真島はあくまで俺の言葉が欲しいらしい。
「…っ」
ともすれば、のまれてしまいそうだった。
だがそう簡単に俺が今まで生きてきた観念を変えられるわけにはいかない。
「…し、したら怒る」
やっとのことでそう言ったら、真島は堪えるように一度目を瞑ってから、ゆっくりと俺を離した。
心臓がバクバクいっていた。
何もキスくらいファーストキスじゃあるまいし、いつもなら動揺することでもない。
が、それは相手が女の子の時であって、コイツは男だ。
そんな未知の領域、普通に動揺するだろ。
「…ご、ごめんね。もう言わないから…」
真島にくしゃりと髪を撫でられる。
その声音は心なしか落ち込んでいる気がしたが、俺はその顔が見れなかった。
もうさっさと飯作れと真島を蹴り飛ばして、逃げるように自室へと向かった。
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