ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
58 / 251

52

しおりを挟む
 花火はまだ途中で、道行く人は音が鳴る度に空を見上げて楽しげな表情を作っていた。
 駅からここまでは距離もあったし、浴衣ということを考えればまだその辺にいるはずだ。

 俺は人混みを一度見回してから、亜美ちゃんに電話を掛ける。
 出ないかなとも思ったが、亜美ちゃんは出てくれた。

 電話越しの声は案の定泣いていて、とりあえず居場所を聞いたらまだ近くにいた。
 電話を切って、再びそこまで走る。

 亜美ちゃんは屋台通りから少し外れた、薄暗い場所に座り込んでいた。
 こんなところで女の子が一人で泣いてるとか、マジで危なすぎる。

「…あ、うめちゃん」

 俺を見上げる亜美ちゃんの瞳が揺れる。
 赤くなった目元がどこか痛々しかった。

「危ないだろ。こんな場所に一人でさ」
「…うん。ごめんなさい」

 だが亜美ちゃんは顔を俯かせたまま、立ち上がろうとしなかった。
 分かってはいたが相当落ち込んでいる。
 とはいえ俺が亜美ちゃんにかけてやれる言葉なんて、正直言って無い。
 どの顔して慰めろって言うんだ。
 
「…うめちゃん、あのね。真島くんに振られちゃったぁ」

 不意に俺を見上げた亜美ちゃんの目から、ボロリと涙が落ちる。

「すごく、すごく好きで大事な人がいるんだって。最初から難しい人だって分かってたつもりだけど…。でも悲しいよ、やっぱり」

 なんだかこっちまで胸が痛くなりそうだった。

 なんで真島は俺なんだろう。
 こんなに真っ直ぐに好きになってくれる子がいるのに、どうして俺なんだ。

 何度も思った疑問だが、亜美ちゃんの涙を見ながら複雑な思いで立ち尽くす。

「お祭り喜んでくれてたからね、もしかしたらって期待しちゃって…私バカみたいだったなぁ」

 賑わいから外れた夜道に、亜美ちゃんの泣き声と遠くに聞こえる花火の音だけが響く。
 俺は何も言えぬまま、クスンと鼻を啜る亜美ちゃんの頭にそっと手を置いた。
 少しでも落ち着けばいいと思ってした行動だったが、亜美ちゃんは余計に泣いてしまった。

 しばらく亜美ちゃんが落ち着くまでそこにいて、頃合いを見て俺は手を差し出す。

「帰ろうか。今度はちゃんと送るからさ」

 亜美ちゃんはコクリと頷いてくれた。

 夕暮れ時とは逆方向へ向かう人の流れに乗りながら、亜美ちゃんの手を引いて歩く。
 どうやら花火はもう終わったらしい。
 あちらこちらで楽しかったねと、今日の思い出を語る声で溢れている。
 ちらりと隣の亜美ちゃんを見てみれば、泣き止みはしたがその表情はひどく落ち込んでいた。

 正直これが真島と何も関係していなかったら、これはチャンスとその心に付け込んでいたかもしれない。
 失恋している女子ほど隙のあるものはないし、実際泣いてる姿を見ると心掴まれるものはある。

 ――でも。

「…ごめんな」

 呟くように言った俺の言葉は、一つ間をおいて、だが確かに亜美ちゃんに届いたらしい。
 亜美ちゃんは俺を見て不思議そうに小首を傾げた。

「なんでうめちゃんが謝るの…?」

 一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに自分の中で答えを見つけたらしい。
 亜美ちゃんは弱々しく微笑んだ。

「あ、いいの。真島くんと友達だからって、うめちゃんが気を使わないでね」

 そういう意味のごめんじゃなかったが、俺は何も言えなかった。
 そのまま黙っていたら、亜美ちゃんはキュッと俺の手を握り返す。

「もー、うめちゃんってほんと優しいよね。あーあ、失敗したなあ。うめちゃんみたいな人好きになれば良かったのかなぁ」

 赤い目をしているくせに、そう言って亜美ちゃんは悪戯に微笑む。
 俺は一度目を瞬いたが、ふっと表情を崩すと亜美ちゃんに笑いかけた。

「いーや、それはオススメしないな。俺を本気で好きになる奴ってさ、基本ろくでもねー奴だから」
「えー?なにそれ」
「だから亜美ちゃんみたいな子はさ、真島なんかさっさと忘れてもっと良い恋愛した方がいいぞ」

 そう言ったら、亜美ちゃんはクスッとようやくちゃんとした笑顔を見せてくれた。

「なんだかそれ、真島くんがろくでもない奴みたいな言い方だね」
「え?アイツああ見えて結構情けないやつだぞ」
「えー、ほんとかなぁ?」

 クスクスと亜美ちゃんが笑う。
 その表情を眺めながら、俺の友達にしては珍しく良い子だったな、なんて俺は思っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

水の流れるところ

BL
鏡の中の彼から目が離せなかった――。 幼い頃に母親に虐待を受け、施設に預けられていた藍沢誉(あいざわほまれ)。親の愛情を受けずに育ち、体裁ばかり気にする父親から逃げた九条千晃(くじょうちあき)。 誉は施設を出ると上京し、男に媚びを売ることで生計を立てていた。千晃は医者というステータスと恵まれた容姿に寄ってきた複数の人間と、情のない関係を繰り返していた。 接点のない2人にはある共通点があった。「あること」がトリガーとなって発作が起こるのだ。その発作は、なぜか水に触れることで収まった。発作が起こる度に、水のあるところへと駆け込んでいたある時、2人は鏡越しに不思議な出会いを果たす。非現実的な状況に戸惑いつつも、鏡を通して少しずつ交流を深めていった。ある日、ひょんな事がきっかけで、ついに対面を果たすことになるが――。 愛に飢えた誉と、愛を知らない千晃が、過去に向き合い、過去と決別し、お互いの愛を求めて成長していく深愛物語。 ★ ハーフ顔小児科医×可愛い系雇われ店長です。ハッピーエンドです。 ★ 絡みが作中に発生いたします。 ★ 直接的な表現はありませんが、暴力行為を匂わす描写があります。 ★ 視点が受け攻め交互に展開しながら話が進みます。 ★ 別ジャンルで書いたものをオリジナルに書き直しました。 ★ 毎日1エピソードずつの更新です。

【完結】酷くて淫ら

SAI
BL
早瀬龍一 26歳。 【酷く抱いてくれる人、募集】 掲示板にそう書き込んでは痛みを得ることでバランスを保っていた。それが自分に対する罰だと信じて。 「一郎って俺に肩を貸すために生まれてきたの?すげーぴったり。楽ちん」 「早瀬さんがそう思うならそうかもしれないですね」 BARで偶然知り合った一郎。彼に懐かれ、失った色が日々に蘇る。 ※「君が僕に触れる理由」に登場する早瀬の物語です。君が僕に触れる理由の二人も登場しますので、そちらからお読み頂けるとストーリーがよりスムーズになると思います。 ※ 性描写が入る部分には☆マークをつけてあります。  全28話 順次投稿していきます。 10/15 最終話に早瀬と一郎のビジュアル載せました。

【弐】バケモノの供物

よんど
BL
〜「愛」をテーマにした物語重視の異種恋愛物語〜 ※本サイトでは完結記念「それから」のイラストで設定しています ※オリジナル設定を含んでいます ※拙い箇所が沢山御座います。温かい目で読んで頂けると嬉しいです ※過激描写が一部御座います 𝐒𝐭𝐨𝐫𝐲 バケモノの供物シリーズ、第二弾「弐」… 舞台は現代である「現世」で繰り広げられる。 親を幼い頃に亡くし、孤独な千紗はひたすら勉強に励む高校ニ年生。そんな彼はある日、見知らぬ男に絡まれている際に美しい顔をした青年に助けて貰う。そして、その彼が同じ高校の一個上の先輩とて転校してきた事が発覚。青年は過去に助けた事のある白狐だった。その日を境に、青年の姿をした白狐は千紗に懐く様になるが…。一度見つけた獲物は絶対に離さないバケモノと独りぼっちの人間の送る、甘くて切ない溺愛物語。 ''執着されていたのは…'' 𝐜𝐡𝐚𝐫𝐚𝐜𝐭𝐞𝐫 天城 千紗(17) …高二/同性を惹きつける魅力有り/虐待を受けている/レオが気になる 突然現れたレオに戸惑いながらも彼の真っ直ぐな言葉と態度、そして時折見せる一面に惹かれていくが… レオ(偽名: 立花 礼央) …高三(設定)/冥永神社の守り神/白狐/千紗が大好き とある者から特別に人間の姿に長時間化ける事が可能になる術式を貰い、千紗に近付く。最初は興味本位で近付いたはものの、彼と過ごす内に自分も知らない内が見えてきて… ライ(偽名: 松原歩) …高二(設定)/現世で生活している雷を操る龍神/千紗とレオに興味津々 長く現世で生きている龍神。ネオと似た境遇にいるレオに興味を持ち、千紗と友達になり二人に近付く様に。おちゃらけているが根は優しい。 ※「壱」で登場したメインキャラクター達は本編に関わっています。 ※混乱を避ける為「壱」を読んだ上でご覧下さい。 ※ネオと叶の番外編はスター特典にて公開しています。 𝐒𝐩𝐞𝐜𝐢𝐚𝐥 𝐭𝐡𝐚𝐧𝐤𝐬 朔羽ゆきhttps://estar.jp/users/142762538様 (ゆきさんに表紙絵を描いて頂きました。いつも本当に有難う御座います) (無断転載は勿論禁止です) (イラストの著作権は全てゆきさんに御座います)

もっと僕を見て

wannai
BL
 拗らせサド × 羞恥好きマゾ

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

スラムから成り上がった弟に恋人になってくれと迫られています

匿名希望ショタ
BL
【エリート弟×自己肯定感の低い兄】 「恋人になって欲しい」 十七年前に才能があり国一番の学園へと行った弟がいる。 その弟の枷になるまいと自分の生活がどれだけ貧相なものだとしてもお金だけを送り続けていた凡人以下兄の俺。 そんな俺が立派になった弟に恋人になって欲しいと迫られる。だけど俺はスラムにずっといてこんな醜いし...

人気俳優と恋に落ちたら

山吹レイ
BL
 男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。  そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。  翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。  完結しました。  ※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。

【完結】君が好きで彼も好き

SAI
BL
毎月15日と30日にはセックスをする、そんな契約から始まった泉との関係。ギブアンドテイクで続けられていた関係にストップをかけたのは泉と同じ職場の先輩、皐月さんだった。 2人に好きだと言われた楓は… ホスト2人攻め×普通受け ※ 予告なしに性描写が入ります。ご了承ください。 ※ 約10万字の作品になります。 ※ 完結を保証いたします。

処理中です...