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しおりを挟む「あれ?高瀬じゃん」
「…は?」
俺が言葉を発するより早く、耳に届いた聞き慣れた声。
顔を向けると、ヒビヤンがいた。
あいつなんつータイミングで出てくるんだ。
そしてめっちゃ日に焼けている。
夏休み満喫しまくりかよ。
「おー、やっぱりそうだ。高瀬も祭りきてたんだ。え、その子誰?真島は?」
「…お前相変わらず遠慮ねーな」
ヒビヤンが仁美ちゃんを指差しながら目を瞬かせる。
説明めんどくせーなと思っていたら、隣にいたヒビヤンの彼女が仁美ちゃんと同じクラスだったらしく、久々の再開にはしゃぎはじめてしまった。
なら俺らは蚊帳の外で、まあそれでも終業式以来の顔を見れば交わす会話もある。
「で、真島は?」
「亜美ちゃんに告られ中」
「えっ、マジかよ。夏祭りでフラれるとかトラウマ確定じゃん」
当たり前のように振られるとか言ってやるな。
容赦のないヒビヤンの言葉にじろりと目を細める。
「で、一緒に祭りに来てるくせに高瀬はあの子を口説いていると。いやー相変わらずドロドロだな」
「どこがだよ。真島を省いたらすげーシンプルな図だろ」
「真島を省くな。かなり重要なポジションだろ」
ちょっと色々と語弊があるが、もういちいちツッコむのも面倒くさい。
そしてニヤニヤと含み笑いでこっちを見るな。
「ほんと高瀬充実してるよなあ。俺なんか遊んでるだけで夏休み終わりそう」
「すげー充実してんじゃねーか」
「そんなことねーよ。あと夏休みも残す所わずかだし。なんかこうひと夏の思い出的なさあ」
「まさに今日作って帰れよ」
彼女と夏祭り来てるわけだし。
とはいえヒビヤンの言葉で俺も今年の夏休みを思い返してみれば、バイトを覗けば随分真島と一緒にいたな、と思う。
正直あいつを見ているのは楽しいし、最初に比べてあいつへの感情も結構変わったなとも思う。
「で、どうせまた真島のこと突き放しきれなくなってんだろ」
いきなりドンピシャでツッコんでくるヒビヤンは、何も考えていないようで相変わらず鋭い。
「…ムカつく事にその通りだよ」
「ふーん。高瀬って情がわけば誰でもいけんの?」
「そんなわけねーだろ。あいつが異常なんだよ。料理も掃除も課題だって喜んでやるし。あんなバカな奴他にいねーよ」
そう言ったら、ヒビヤンは一度ギクリとしたように目を見開いた。
それから不意に顔色を変えて黙り込む。
何か考えているようで、だがその顔はいつになく深刻そうだった。
いきなりなんだ、と珍しく真面目な顔に眉を寄せる。
「…なぁ、高瀬。実は俺さ――」
そっと口を開いたヒビヤンの言葉は、最後まで聞き取れなかった。
――ドン!と大きな音がして花火が上がる。
薄闇の中、花火の明かりが俺とヒビヤンの顔を照らした。
俺達は呆然としたようにお互い顔を見合わせる。
そして次の瞬間。ほぼ同時に。
二人して頭を抱えた。
「テメエ、ふざけんな。最高のシチュエーションをなんでお前と過ごさなきゃいけねーんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ。花火空気読めよ」
うわあ、と二人でげんなりとする。
「え、ちょっと待て。ちなみにヒビヤン今なんて言った?間違っても告白とかしてねーよな」
「俺は真島か。『実は課題一個もやってない』って言ったんだよ」
史上最強にどうでもいい。
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