ベタボレプリンス

うさき

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 翌日、部活後の真島と合流して、ここ最近の流れ通り買い物に行ってから夕飯を作ってもらう。
 真島の様子は前日ほどのぎこちなさはなかったが、それでもどこか俺に対して身構えている感じだった。
 まるで偶然彼氏の浮気に気付いてしまったが、それを追求出来ない女子的なしおらしさだ。

 別れようなんて考えはなかったが、それでもヘタに気を持たせる事を言ってもなと、俺もあえて余計なことは言わなかった。
 いつにも増して挙動不審な真島だったが、夕飯を食ったら昼間の暑さとバイトの疲れもあって眠くなってしまった。

「…あれ、高瀬くん?」

 食器を洗い終えたらしい真島の声が遠くで聞こえる。
 が、俺は睡魔に抗えずそのまま眠りに落ちてしまった。



 どのくらいたっただろう。

 うっすらと目を開けると、真島が目の前でガン見している気がした。
 気にせずもう一度寝ようと思ったが、いやちょっとまて、今のどう考えても気のせいじゃないよな。

 もう一度うっすらと目を開けると、やっぱりガン見していた。
 しかも若干おあずけ中の犬の如く興奮した面持ちで。

「見んな。気になって寝れねーだろ」

 ガシッと真島の顔面を掴んで背ける。

「わっ、お、起きたんだ。あ、あの。ここで寝たら風邪引くかも…」

 お前は母親か。
 とは思ったがよくこの場所で寝ようとして蹴られていることを思い出して、仕方なくむくりと起きる。
 真島が俺の部屋から持ってきてくれていたらしい毛布がぱさりと落ちた。

「…ん、てか今何時。なんか結構寝たような…」

 スマホを見たら、日付が回っていた。
 えっ、なんでコイツまだいんの。

「ちょ…お前、なんで起こさねーんだよ。バカじゃねーの」
「えっ…えっ!お、起こせないよっ。つい魅入っちゃって…っ」

 魅入ったって一体何時間俺の顔見てたんだ。
 やっぱりコイツ筋金入りのバカだ。

「あ…じゃあ、俺帰るね」
「は、今から?終電ないだろ」
「大丈夫だよ。そこまで家遠くないし」
「こんな時間だしもう泊まってけばいいだろ」

 言ったら、真島の顔が爆発するんじゃないかってほどボンッと真っ赤に染まった。
 コイツなに考えたんだ今。

「あ…いや、でもそれは…っ」
「あ、家がまずいとか?お前育ちよさそうだもんな」
「そ、そんなことないよ。ないけど…でも…っ」

 もじもじとする真島が面倒くさくなったので、命令口調で泊まれと言ってやる。
 先に風呂に入らせて、その間に俺にとって大きめのTシャツとジャージをタンスから引っ張り出す。
 腹立つ事に真島と俺の身長差は15cmくらいあるが、同じ男物だしまあ大丈夫だろう。
 と思ったのに、真島が着たら若干小さい気がして腹が立った。

「…っはぁ、やばい。高瀬くんの匂いがする…」

 もう通報するか、コイツ。
 一人で浮足立ちまくっている真島の脛を蹴ってから、俺も風呂に入ることにする。
 
 風呂から出て自室に真島の布団を引いてやって、時間も遅いからさっさと寝ることにした。
 布団の上でそわそわと落ち着かない真島を見て、俺はじとりと目を細める。

「あー…男相手にこんなこと言いたくねーんだけどさ」
「え、なに?」

 俺はビッと自分の寝るベッドの端を指差す。

「お前絶対ここからこっち入ってくんじゃねーぞ」

 念の為だ。
 こいつ一応人を襲おうとした前科があるからな。

「――は、入らない!何もしないよっ。絶対しないっ」

 俺の意図を察したらしい真島が、ブンブンと全力で両手を振る。
 なんで俺がこんな女みたいな事言わなきゃいけねーんだと複雑な心境になったが、それでも身の危険を感じるから仕方ない。

 落ち着きのない真島を寝ろ、と促して、電気を消して横になる。
 だがさっきまで寝ていたこともあって、いまいち寝付けなかった。

 枕に顔を埋めながらぼんやりと考えてみれば、そういえば夏祭りは今週末でもうすぐそこに迫っていた。
 真島のことはあるが、結局仁美ちゃんを断る理由なんてない。
 というか今まで女に告られて断ったことなんか一度もなかった。
 そもそも告られる前に、いけると思ったら自分から告っていたはずだ。

「…真島、寝た?」

 薄闇の中、そっと呟いてみる。

「お…っ、起きてます」

 なんで緊張してんだよ。
 こいつ寝る気あんのか。

「ど、どうしたの」

 真島の声はどこか消え入りそうだった。
 何を言われるかビビってるんだろう。

 暗くて顔が見えないのに、こいつの言葉の一つ一つから俺に対しての気持ちがすごく伝わってくる。
 真島は俺に会ってから、今の今までずっと変わらない。
 俺が何を言っても、本性晒しても、全く変わらない。

「…お前いつかさ、俺の事飽きたらどうすんの」

 何気なく聞いた言葉だった。
 ――瞬間、バサッと起き上がった音がした。

「ないよ!そんなこと、絶対、絶対にありえないからっ」

 でっかい声出すな。
 近所迷惑だろうが。

「…あ、そう」

 聞いたくせに俺はそっけない返事をして、顔も向けぬまま枕に突っ伏していた。
 自分でも何でこんなことを聞いたのかは分からない。

 真島はまだ何か言いたそうだったが、俺の様子を見ておずおずと布団に戻ったようだった。
 暗闇の中、さっき言われた真島のでかい声だけが妙に頭に残る。

 正直俺はどうするべきか迷っていた。
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