ベタボレプリンス

うさき

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 キーンコーンとテスト終了の予鈴が鳴る。
 テスト期間はあっさりと終わりを告げ、俺は解放されたように一つ伸びをした。

「高瀬、どうだった?」
「別にフツー。赤点取らなきゃ俺はなんでもいいんだよ」
「お前やる気さえあれば出来る奴なのになあ」

 そんなの誰だって同じだろ。
 ヒビヤンの言葉を話半分で聞き流して、スマホを見る。
 真島からメッセが届いていた。

 そういえばここ最近テストでこっちは早帰りだったし、真島は勉強忙しそうだったしで一緒に飯を食ってない。
 というか本気で忙しいらしく、真島をあまり見ていない。
 まあどこで目撃しただとか、噂だけは毎日のように聞くが。

 メッセだけは事あるごとに来るが、見てはいるが面倒くさくて全然返信してなかった。
 真島もテスト終わって落ち着いただろうし、一言『お疲れ』と入れておいてやるか。
 
「お、彼氏とラブラブか?」
「ぶん殴るぞ。マジで100メートルくらい助走つけて」
「こっわ」

 あの勉強会以来、何かヒビヤンは俺と真島の間にあるものを感じ取ったらしい。
 俺じゃなく女の子の手を掴んだのに、なぜ考えがホモにいったんだ。

「あ、亜美ちゃんだ」

 ヒビヤンの声で廊下に目を向ければ、俺達に手を振っている亜美ちゃんがいた。
 いや、よく見たら手を振っているというよりは呼んでいる。
 なんとなく嫌な予感がしたが、呼ばれている以上行かないわけにはいかない。

「テストお疲れ様。うめちゃん、どうだった?」
「まーそこそこかな。亜美ちゃんは?」
「えへへ、ちょっと頑張れたかも」
「おお、すごいじゃん」

 何気ない会話。
 だが亜美ちゃんは照れたような笑顔を向けたまま、再び口を開く。

「…たぶん真島くんのおかげ、かな」
「え、なんで真島?」

 聞いたら、ふふと亜美ちゃんは顔を赤くした。
 おい。完全に恋してる顔じゃねーか。
 いつのまにそこまで惚れたんだ。

「…実は真島くんとここのところメッセでやり取りしててね。分からないことあるって聞いたらちゃんと教えてくれて」

 マジかよあいつ。
 いつのまに亜美ちゃんとそんなことになってたんだ。

「…それでね、うめちゃん真島くんと仲良しでしょ。だからちょっと色々相談したくて」

 はい。でたな、そのパターン。
 絶対そうくると思ってた。
 もう名前呼ばれた瞬間から予感はしてた。

 亜美ちゃんに聞かれたことは、真島の彼女の有無やらタイプやらと普通のことだったが、俺は適当に「知らない」と返答した。
 いや実際、真島のタイプとかさっぱり分からない。
 俺を好きだとか言っている辺り、一生俺には理解不能だ。

「そっかあ。やっぱり男の子同士ってそういう話しないのかな」
「…まー、そうかな。協力できなくてごめんな」
「ううん」

 亜美ちゃんは残念そうだったが、正直知ってたところで協力するつもりは起きなかった。
 今の自分と真島の現状を考えれば、なるべくその辺のことには関わりたくない。
 ヘタに真島に知られたら泣かれそうだし。
 
「でもうめちゃん真島くんと仲良しだし、何かあったらお話聞いてね。その…私、頑張りたいから」

 何か大切そうに言葉を紡いだ亜美ちゃんは、顔の前で両手を組んで優しげに微笑む。
 その指先にはキラキラと可愛いネイルアートが施されていた。

 そういえば真島に手が綺麗とか褒められてたっけ。
 とはいえ本当の理由を知っている俺としては目が滑る思いだが、本人が満足しているなら水を差すつもりもない。

 しばらく廊下で立ち話していたら、視界の端に真島が見えた。
 テストも終わったし、そろそろ来る頃だと思ってた。

「真島ー、弁当持ってきた?」

 手をあげて先に声を掛けたら、真島の顔がぶわっと熱を帯びる。
 ふと隣を見たら、同じような顔色で亜美ちゃんは真島を見ていた。

 なんなんだ、この三角関係。
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