ベタボレプリンス

うさき

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 キャーと黄色い声援が飛ぶ。
 教室でも聞こえてきたそれに窓際の席から見下ろせば、どうやらグラウンドでサッカーをしているらしい。
 この声援、当然中心にいるのは真島だ。

「ほんと真島って何でも出来るよな」

 後ろの席の日比谷、通称ヒビヤンがボソッと声を掛けてきた。
 授業中だが聞こえてくるその声援に、うずうずと窓の外を見たがっている女子も少なく無さそうだ。

「いいよなー。イケメンで頭も良くてスポーツ万能とか、ほんと最強すぎだろ。ああいう奴はなんも苦労しないで人生バラ色コースなんだろうよ」
「人生バラ色って表現が古い」
「俺の会話そこだけ拾う?」

 後ろから話しかけてくるヒビヤンを適当にあしらう。
 さっきから数学教師が睨んでんぞ。

 ちらりと横目にグラウンドを見下ろせば、なるほど確かに男目に見ても格好いい。
 色々出来るっつーことは元々器用な奴なのかなとも思うが、それでも俺に対するあの態度を知っているとなんとも納得し難い。
 どう考えても恋愛には不器用すぎるほど不器用だろ。
 
「つーか高瀬は最近なんで真島と仲良いの?バスケ部の勧誘?」
「高二になって今更俺を勧誘とかどれだけ部員の危機なんだよ」
「お前だって結構器用な奴じゃん」
「俺は器用貧乏なだけで、アイツみたいな万能とは違うっつの」
「じゃあなんで?」

 なんでもいいだろ。

 とは思うが、果たして高校二年の夏休み前という謎のタイミングで、いきなり特進科の奴と友達になる理由って一体なんだ。
 俺は特に委員会に所属しているわけでもないし、部活にも入っていない。
 
「…家近いんだよ。最近それに気付いて話掛けただけ」
「へえ。お前から声掛けたんだ」
「ああ、うん。もうそれでいいや」

 そう言ったところで数学教師に怒られた。
 しかも俺が。解せない。

 まあ昨日初めて一緒に帰って気付いたが、実際真島とは隣の駅だった。
 もしかして気付かないだけで小中と同じ学校だったのかなと聞いてみたが、そういうわけでもないらしい。
 ますますあいつと俺の接点が謎だ。
 もしかしたら別のやつと間違えて好きになってる可能性すらでてきた。

 黙っていたって結局聞いてない数学の授業を終えて、昼休みになる。
 今日は食堂にでも行くかと鞄を持ち上げたら、「うめのーん」と可愛らしい声に呼びかけられた。

「お昼一緒に食べようよ。てか昨日の返事なんで返してくれないのー」
「あ、わり。忘れてた」
「もー!咲希が嫌なのかなって不安がってたよ」
「え?咲希ちゃんってどの子だっけ」

 昨日のカラオケを思い出す。
 思い出しても出てくるのは真島の顔で、いまいち他の女子の顔が霞がかっている。
 さすがは学園のアイドル。
 存在感最強かよ。

「ふつー忘れる?咲希もご飯呼んでるから仲良くなるチャンスだよ」
「それチャンスがあるのは向こうじゃねーの」
「全くこのモテメンはー!」

 イケメンとは言わないところが微妙に傷つく。
 なんて小突かれていると、廊下から丁度こっちに真島が歩いてくるのが見えた。
 体育が終わって帰ってきたところか。
 ジャージ姿でも腹立つほどにキマっている。
 さすがの存在感で自然に目を向けていたが、ものの2秒で目が合った。

「高瀬くん!」

 その顔がみるみる嬉しそうな表情に変わる。
 まるでご主人を見つけた犬のように、真島は俺の元へと走り寄ってきた。

「高瀬くん、これからお昼?」
「そー。食堂行こうかなと」
「な、なら俺も行っていいかな」
「えっ、王子…真島くんが来てくれるとか…!絶対来てください。みんな驚くしっ」

 返事したのは女子で、俺じゃない。
 けど真島も気にせずそれを了承と取って、鞄を取ってくると特進クラスの方へ向かっていった。

 ヒビヤンも言ってたが、確かに特進科の奴と普通科の奴が仲良くなるってあまりないかもしれない。
 そういう意味ならもしかしたらそのうち、特進科の女子とお知り合いになれる機会もあるかもしれない。
 真島づてに、と思ったが、そういやアイツに女紹介しろなんて言える間柄じゃなかった。
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