ベタボレプリンス

うさき

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----side真島『出会い』

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 子供の頃から家庭内に息苦しさを感じていた。

 勉強に運動、なんでも出来るようにと遊ぶ暇もなくみっちりと組まれた習い事。
 典型的な教育熱心の家庭というより、『行き過ぎ』な教育指導をする家庭だったと思う。
 子供の頃から習い事ばかりさせられていたせいで、親しい友人もなかなか出来なかった。

 中学受験をして私立の中学に入ったはいいが、レベルの上がった勉強に追い打ちをかけられ、更に文武両道だと習わされていたスポーツまで厳しさを増していき、そして受験シーズンの中三の夏。
 
 いよいよ俺は限界を迎えてしまった。

 
「おいガリ勉眼鏡。もう授業始まってんじゃねーの」

 通っていた塾の屋上。
 初めてサボったら、不良に絡まれた。

「…お金なら持ってないけど」
「はあ?別にカツアゲしようとか思ってねーよ。つか不良じゃねーし」
「え、でも髪染めてるし…」
「茶髪が全員不良とかどこの時代の人間だお前」

 そうか、それは疑って悪いことを言ってしまった。
 今まで同い年くらいの髪を染めた人間と関わったことがないから、勝手に校則違反をしているものだと思い込んでしまった。

「悪かっ…」
「まあ授業サボってるから不良っちゃ不良だけど」
「ちょっと、やっぱりそうなんじゃ…」
「じゃあお前もサボってるから不良だな」
 
 それを言われると何も返せない。
 今まで一度もサボったことがないとか、そんなのはもう言い訳でしかない。

「ふーん、特進コースのガリ勉眼鏡くんでもサボったりするんだな」
「…なんで俺が特進だって知ってるの」
「いやお前みたいなもっさい奴普通コースにはいねーし」
「もっさいって…」

 確かに目の前の彼は明るい髪の毛に、ただの制服とはいえなんだか格好良く着崩していて、まるで自分とは全く違う人種のようだった。
 対する自分は忙しくて伸びっぱなしの髪の毛と、勉強し過ぎで悪くなった視力のせいで昔から分厚い眼鏡をかけている。

 なるほど、これがもっさいということか。

「あー塾ってだりーよなあ。早く帰ってゲームやりてえ」

 当の本人は悪口を言っておいて、何も気にしてない様子で夕暮れ迫る薄闇の中からこちらに向かって歩いてくる。
 彼の言っていることはいまいち俺にはピンとこないが、それでも俺と同じように何かサボりたい理由があるんだろう。

「ならどうして君は塾に来てるの?」
「は?お前と一緒じゃねーの。受験差し迫って親が行けっていう、よくあるご家庭の一連の流れだろ」
「…ああ、なるほど。やっぱり君もそうか。色々と強要されるのは…すごく疲れるよね」

 俺とは違う雰囲気ではあるが、彼も色々強要されて、限界を迎えてサボってしまったのかもしれない。
 今までこんなことを人に話した事はない。
 だがサボりついでにせっかく同じ心境の人に会えたんだ。少しくらい愚痴ったっていいじゃないか。
 
「いや?別に全く疲れてねーけど。ただなんとなくめんどくせーからやりたくないだけ」

 そう言って俺の隣に並び立ち、飄々とした様子で笑った彼の姿を夕陽が照らす。

 俺はきっとその姿を、一生忘れないだろう。
 まだ好きになってない彼との初めての出会い。

 これから好きで好きで、自分が狂ってしまうんじゃないかと思う程に恋い焦がれてしまう人との初めての出会いだった。
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