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2章
1A-商談
しおりを挟む「ーー先日金重様が持っていると仰っていた『電子ピアノ』を、私に頂けませんか?」
「だ、ダメです! 師匠の大切な楽器が欲しいだなんて、図々しいにも程があります!」
アイバニーゼの申し出に、響子がすかさず待ったをかける。
アイバニーゼの話ももちろん唐突ではあるがーー
「その大切な楽器を燃やした人が言えるセリフじゃないけど……」
「ぐ、ぐぐ……」
奏太が思わずツッコミを入れ、響子は悔しそうに押し黙る。
「さすが奏太さん。アイバニーゼさんの騎士だけあって、忠実に護衛を勤めますね」
今度は反撃といわんばかりに、響子が奏太に向かってチクリと刺す。
うっ……。うかつに蜂の巣をつついてしまった……。
余計な発言をすぐさま後悔し、奏太はコソコソと金重の影に隠れる。
「うむむ~……。貸したベースを昨日燃やされてしまったばかりでござるし、電子ピアノはひとつしか持っていないでござる……。
それにあの電子ピアノには、タマ美殿のステッカーがーー」
金重も昨日のトラウマがまだ残っているのか、すんなりOKとはいかないようだ。
「もちろんタダで頂こうとは思っておりません。爺、あれを!」
「かしこまりました」
アイバニーゼから促されると執事の男が奥へと消え、程なくして白い布をかぶせた台を運んできた。
「金重様の電子ピアノは、こちらのもので買い取らせて頂きたく存じ上げます」
そういってアイバニーゼが布を払うと、山のような金貨と、毛皮のマフラーのようなものが顔を出した。
「す、スゲー! これ一体金貨何枚だよ!?」
「は、はわわわわ……」
「こちらは金貨300枚になりますわ。もし足りなければ、さらにお出し致しましょう」
その圧倒的な大金に、奏太と響子が大きく口を開けている。
だが、金重は微妙な反応を見せた。
「う~ん……小生はグッズや楽器を買うためにお金は溜めていたでござるが、今となってはもうあまりお金に興味はないでござるよ。」
「な、何言ってんだよ金重! これだけあればいくらでも猫耳カフェに通えるぞ!?」
これほどの大金に全く興味を示さない金重に対し、奏太は甘い誘惑で説得を試みた。
「そんなにしょっちゅう大勢の猫耳娘達に囲まれていたら、小生昇天してしまうでござる!
普段は目で眺めつつ、たまに戯れるからいいんでござる!
奏太殿は男のロマンが分からぬでござるな~」
「いやでもこれだけあれば、当分は働かなくて済むじゃないか!
家に籠ってた金重にとっては願ったり叶ったりじゃないのか?」
謎のロマンを語る金重に対し、奏太はなおも引き下がらない。
「確かに前の世界なら嬉しいでござるが、小生にとって異世界の冒険は夢のようでござるし、ギターを弾いてお金を貰えるのも幸せでござるよ」
金重にとってこの世界にいることこそが、大金を持ってしても得られない幸せであり、お金なんかなくともこの世界にいるだけで満足だったのだ。
お金がなくとも夢が叶っている人に、お金の魅力は意味をなさないことに気付き、奏太はようやく説得を諦めた。
確かにバンドをやって生計を立てる今の生活が楽しいってのは俺も分かるけど、俺だったらこれだけあれば毎日あんな店やこんな店に行くけどなぁ……。
奏太はいまだ足を踏み入れたことのない、この世界のいかがわしい店を想像する。
「そうですか……流石は奏太様のお仲間の金重様です。無欲なことは素晴らしいですわ。
では、こちらはどうでしょうか……?」
アイバニーゼは金貨の山の隣に置かれた、毛皮のマフラーを取って見せた。
「これは……?」
「これは獣人の女性がお好きという金重様のために、私が獣人の女性達に頼んで特別に作らせた首巻きです。
この毛は全て獣人の女性達が剃毛したものを使用して作られております」
「ブッ!!」
アイバニーゼの言葉に、金重が鼻血を吹き出して即倒した。
「そ、それは本当でござるか!?」
そしてすぐに「ガバリ」と起き上がり、眼鏡を輝かせながらアイバニーゼに聞き直す。
「ええ。ズームー王国の猫耳カフェなるお店の従業員の方々にお願いしたところ、快く応じてくださいました。少々お礼は致しましたが……」
どうやらアイバニーゼが獣人達の体毛を金で買ったらしい。「そこまでするか」と、王族のえげつない金遣いに奏太と響子がドン引きする。
「売る! 電子ピアノを売るでござる!」
「交渉成立、ですね。」
呆れる奏太と響子を他所に、金重とアイバニーゼは「ガッシリ」と握手を交わし、毛皮のマフラーと電子ピアノの物々交換が行われた。
しかもちゃっかり金貨は渡さず、執事の男が回収して裏に運んでいった。
金遣いの荒い姫様かと思ったが、案外したたかな娘だ。
「な、なんと神々しい……。これは小生の家宝にするでござる……!」
金重はご満悦そうに、受け取ったマフラーを天高く奉った。
「で、でも電子ピアノが手に入ったからって、バンドには入れませんよ!」
金重が商談に応じてしまったことに焦った響子が、苦し紛れに牽制球を投げる。
確かにこの前の話では、アイバニーゼがシンセサイザーを手に入れたらバンドメンバーとして認めるということになっていた。
電子ピアノだけでは多彩な音は出せず、ロックをやっている奏太達のバンドでは使いどころが限られてしまう。だがーー
「ご心配なく。その点につきましては既にとある方に依頼してあります。
今からこの楽器をその方のところへ持っていきますので、皆さんもよろしかったらご一緒にいかがですか?
あ、奏太さんは私の側近なので強制です。」
一体誰に何を依頼したのだろうかと、奏太達は疑問を浮かべながら、アイバニーゼに連れられて街へと繰り出したーー
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