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1章

5B-ダメ出し

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「あ、あまり喜んで貰えなかったですね……。」

 演奏を終えた後、観衆達のやけにあっさりした反応を見て、響子が残念そうに苦笑いを浮かべる。
 全く受け入れられなかった訳ではなさそうだが、今までの反応が異常なくらい良かっただけに、響子もショックを隠しきれないでいる。

「ふお? そうでござるか? 小生は楽しかったでござるが。」

 一方、金重は昨日と今日とでの反応の違いに気付いていないようだ。
 まあ金重は自分が楽しくギターを弾ければ満足なのだろう。

「ええーっと、どうでしたか……?」

 観衆の胸中を確認するため、奏太が目の前で聴いていた熊の獣人に問いかけた。

「うーん。悪くはなかったクマ。演奏も上手クマし、歌も良かったクマ。ただ……。」

 煮え切らない反応だが、一応の褒め言葉を貰い、奏太が安堵する。

「この曲じゃあ全然踊れないゾウ! もっと楽しい気分になる曲が聴きたいゾウ!」

 隣で聴いていた象の獣人が、奏太達の曲にダメ出しすると、熊の男もウンウンと頷き、2人は別の演奏を聴きに行ってしまった。
 それに続くように、他の観衆達もゾロゾロと離れていき、奏太達の前には誰も居なくなった。

 観衆の去った場所に取り残された3人が、ただ呆然と立ち尽くしていると、奏太が力なくその場に座り込んだ。

 どこかで傲っていたのかもしれない。或いは、この世界で自分達の音楽を認めさせてやるという思いが、先走りすぎていたのか。
 いずれにせよ、獣人達にもロックンロールの良さが伝わる筈という期待が空振りに終わり、奏太は下を向いて考え込んだ。

「獣人達は踊れる曲じゃないと喜ばないのか……。」

 となると『We Will Rock You』も向かないだろう。
 もっとアップテンポのご機嫌なナンバーじゃないと、陽気な獣人達はきっとノッて来ない。
 だが、ドラム抜きでノリの良いロックをやるとなると、相当ハードルが高い。
 皆はどんな感じの音楽をやっているんだろうか……。
 奏太が考えあぐねながら周りを見渡すと、一際人が集まって盛り上がっている集団を見つける。

「なんだか、あそこの人達凄く盛り上がってますね。」

 響子もそれに気付き、奏太と同じ方向に視線を向ける。
 聴こえてくるビートに、観衆達がノリノリで踊っている。
 まるでディスコクラブさながらだ。

「とりあえず他の人の演奏を見て参考にしよう……。」

「はい……。」

 自信喪失気味の奏太達が、盛り上がる集団にすがる思いで近付いてみる。
 踊り狂う獣人達の間を掻き分けながら、音の主を探す。
 踊る男女に押されながら、ようやくの思いで集団の先頭に辿り着くと、そこには見覚えのある男が、不思議な道具を使って音を奏でていた。

「あっ!あいつは……!」

 その印象的なストリートファッションは、奏太が知る限り一人しかいない。

「ヘイYo! 盛り上がってるかいオーディエンス!」

 男の掛け声に合わせて、獣人達が「ワァー!」と歓声を上げる。

「隆司!? なんであいつがこんな所にいるんだ!?」

 観衆に囲まれる中、隆司がノリノリでリズムに乗っている。

「フー! そこにいるのは何者!かと思えば同郷の若者!」

 奏太達の姿に気付き、隆司がラップでビートに被せてくる。
 一体この音はどうやって出しているのだろうか。
 隆司の前にある謎の台を触りながら、まるでDJがタッチパッドを叩いて演奏するフィンガードラムのように、ビートを刻んでいる。
 金重のように雷魔法を応用して電子機器を使っているのだろうかと思い、奏太が辺りを見回すが、スピーカーらしきものは何処にもない。

 程なくして隆司のDJプレイが終了し、場は歓声に包まれた。

「ヘイ皆センキュー! アニマルなブロ兄弟達に Hope to see ya soon !」

 隆司が喝采の中、観衆に別れを告げると、奏太達の前にやってきた。

「皆さんこんな所でお会いするとは奇遇ですね。ひょっとしてお仕事の件で何かご用でもございましたか?」

 奏太達がわざわざ仕事の件で隆司を探しに来たと勘違いし、隆司がビジネスモードの敬語で話しかけてくる。

「いや、俺達は別件でこの国に来ていたんだが、そしたらたまたまここで隆司を見つけたんだ。」

「オウつまりそれって偶然の再会?」

 仕事絡みではないと分かると、隆司は即座にラッパーモードに戻る。
 中々掴みにくい奴だ。かたやストリートなチャラ男、かたやお堅いビジネスマンでは、テンションが両極端過ぎる。中間は無いのか。

「なあ、さっき隆司が演奏してたその台って何なんだ?」

 キャラが安定しない隆司のことはさておき、謎の音を奏でる台について奏太が質問する。

「これか? こいつは蓄音箱を応用して作った、俺特製DJコントローラーだぜYeah!」

 隆司が自慢気に自身の機材を披露する。

 これが蓄音箱? 

 一体どのような構造になっているのか、奏太が興味津々に機材を見てみると、確かに台の下に大小様々な蓄音箱が沢山取り付けられている。
 そして表側には、ボタンのような出っ張りがある。

「こいつを押すと、下の蓄音箱の蓋が開く仕組みになっているんだぜYeah!」

 隆司がボタンを押すと、ワイヤーが蓄音箱の蓋を持ち上げ、『ズン』というバスドラムのような音が鳴った。

「この蓄音箱は俺が楽器の音を一つ一つサンプリングしたんだYo! こんなのもあるぜ!チェケラ!」

 隆司が別のボタンを押すと、『ピヨピヨピヨ』と鳥の鳴き声が鳴る。

「そんでもってこんな感じで叩くと……。」

 隆司が複数のボタンをリズム良く叩くと、ハイハット、スネア、タム、バスドラムにそれぞれ対応する蓄音箱が『パカパカ』と開閉し、ドラムの4ビートが刻まれた。

「す、スゲェー!」

「蓄音箱を使ってこんなことまで出来るなんてビックリです!」

「うーむ、これは電子楽器コレクターの小生としても、実に興味をそそられるでござる!」

 3人が素直に感激の言葉を口にすると、隆司は自慢気に『フフン』と鼻を鳴らした。

「これって、隆司が一人で全部作ったのか……?」

 このように精巧な機材まで作れるとなると、流石に多才さが行き過ぎて怖くなり、奏太が恐る恐る尋ねる。

「No No!蓄音箱は俺が作ったけど、この仕組みを考えて1つの機材に仕上げたのはマイフレンド、永きっちゃんだぜYeah!
 俺が頼んだら設計してくれたんだYo! 永きっちゃんマジ感謝!」

「へぇ~、永吉がこれを考えたのか~。やっぱり楽器職人を目指していただけあって、器用だな~。」

 奏太が永吉から貰ったアコースティック・ギターも良い音が鳴るし、楽器を作るという点に関して、永吉の才能が非凡であることを改めて知る。

「ちなみにこれも永吉の案なんだけどYo! ちょっと何か喋ってくれカモン!」

 急に喋ってくれと言われても困るのだが……。

 突然の要望に奏太が狼狽えていると、

「ロックンロール!」

 横から響子が可愛らしい声で掛け声を上げた。
 すると何やら隆司が蓄音箱に魔力を込めている。

「そんでもってこのボタンを押すと……!」

 隆司が1つのボタンを連打した。するとーー

『ロロロ、ロックン、ロックン、ロックンロール!』

 蓄音箱の蓋が隆司の指に合わせて小刻みに開閉し、響子の声がリピートされた。

「は、恥ずかしいです~!」

 自分の声が何度もリピートされ、響子は恥ずかしさに赤面し、顔を押さえた。

 な、何も言わなくて良かった……。
 だけどこれは中々に凄い応用力だ。

「こうやってその場の音をRec in the Box、ボタンを押せば、Effect on the Rocks! Yeah!
 まだ構想段階だが、魔法を使ってスクラッチ的なターンテーブルも完成次第、Coming soon!
 ちなみに特許取得済み!フー!」


 永吉と隆司という2人の人物。
 初めは単なる仲の良い仕事仲間程度に見ていたが、実際には2人の才能が合わさって、物凄い化学反応を起こしていたーー

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