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1章

3C-初陣

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 奏太達に話しかけて来た男は、まるで北◯の拳の雑魚キャラのような見た目をしている。
 後ろにも同じような見た目の屈強な男達が7、8人程控えており、今にも火炎放射器で汚物を消毒しそうだ。

 勿論、雑魚キャラっぽいとは言っても、実際に戦ったら、バラバラに『ひでぶっ』されるのは間違いなく奏太の方だろう。

「え、えーっと、な、なな、何のご用でしょうか!?」

 奏太は分かりやすくビビりまくり、響子と金重は奏太の影に隠れてプルプルしている。

「まあそう緊張すんな! 俺達の駆け出しもそんなもんだった。
 俺達はランク7の冒険者パーティ、『剣王軍けんおうぐん』だ!
 俺はこいつらを束ねるリーダー、キブソンだ。
 お前達を俺達のクエストに連れていってやるよ!」

 見ると、全員の首に赤色のギルドタグがかけられている。
 ランク7っていうと、相当な手練れ達だ。
 上級者のパーティに同行出来るのは心強いが、それ以前にこんな集団に付いていくなんて、魔物の群れに飛び込むより怖い。
 これはどうにか遠慮したい。

「え、えっと、僕達まだ一度も戦ったことがなくてですね……、皆さんにご迷惑をおかけするのは申し訳ないので……。」

「なーに、遠慮すんな! 最初は皆苦労するもんだ! 
 俺達剣王軍がお前らをしっかりサポートしてやるから、大船に乗ったつもりでいろ!」

 いやいやダメだろその船! 向こう岸にたどり着く前に絶対船酔いで死ぬタイプの船だろ!
 下手すりゃ荒波に突っ込んで、ひ弱な俺達は海に投げ飛ばされちまう!

「いや、ほんと、お気持ちはありがたいんですけど、俺達はまだ……」

「さーてお前ら! こいつらに優しく冒険者道のイロハを教えてやるぞ!ガハハハ!」

「イエッサー!」「ヒャッハー!」「URYYYYYY!!」

 おい! 最後の掛け声、もはや別のやつじゃねーか!
 誰か助けてくれ!

 奏太のSOSも虚しく、屈強な男達は奏太達を抱えて冒険者ギルドをドカドカと出ていったーー


 ーー予想は的中し、奏太達は荒れ狂う馬車の中、完全に酔い潰れていた。
 目の血走ったケルベロスの如き猛獣が、ヨダレを撒き散らしながら荒々しく馬車を曳いている。
 男達は激しい震動を全く気にする様子もなく、まるで高級リムジンに乗っているかのように寛いでいる。

 だが更に異質なのは、馬車の中に大音量で鳴り響く音楽。
 男達の雄々しい見た目とは裏腹に、一流ホテルの高級レストランに流れていそうなクラシック調の音楽に、男達は陶酔しながら聴き入っている。
 激しく馬車に揺られ、完全にグロッキー状態だった奏太も、心地の良い音楽に少し気持ちが和らぐ。


「えっと、キブソンさん。さっきから流れてる、この音楽は何なんですか?」

 奏太は恐る恐る尋ねる。

「そんな堅っ苦しい言葉使うんじゃねえ! キブソンでかまわん!
 これは王国第一音楽隊の方々の楽曲だ。
 どうだ、最高だろう!?」

 そう言うと、キブソンは目を瞑り、フンフンと鼻歌を歌い始めた。
 これはローラント達の曲だったのか。クラシックはよく分からないが、流石偉そうにするだけの事はある。
 流れる一つ一つの音が、心地よく身を包む。
 時に上品に、時に力強く織り成す演奏は、まるで清流のようだ。
 思わず聴き入ってしまう。

「いつもこんな風に音楽を流しているん……いるのか?」

 国王にすら敬語を使わなかった奏太が、キブソンには何故か思わず敬語が出そうになる。
 奏太という人間は、美人な女性と、怖そうな男には分かりやすく態度が変わる。
 違う意味で怖い格好をしていた永吉には、すぐ慣れたあたり、ロックな見た目にはやや耐性があったようだ。
 だが、今度は明らかに屈強な男達を前に、奏太は情けなく萎縮した姿を見せる。

「ぁあ!?  ったりめーよ! この国に住む奴は常に音楽を聴く!
 飯を食う時も、クソする時も、寝る時もだ!
 そして戦う前には音楽で気持ちを休め、戦いの最中は音楽で自らを鼓舞し、戦いが終わったら音楽で心身を癒す!
 音楽無しで戦いに出るなんざ、裸で魔物の群れに飛び込むようなもんよ!
 まあ俺達にもなれば、裸で戦っても勝てるだろうけどな!ガハハハ!」

 いやそれは流石にないだろ、と思ったが、キブソン達を見ているとあり得そうに思えてくるのが怖い。
 裸でキブソン達が戦う姿を想像し、また吐き気を催した奏太は、邪念を振り払うようにブンブンと頭を振る。
 それにしても、音楽が戦いにまで影響するとは、道理で音楽家が崇められる訳だ。

「ーーさて、そろそろ着くぞ。」

 どうやらもう初陣の戦場に辿り着いたようだ。
 今回のクエストは森の中らしい。初めての討伐に、奏太の身に気合いが入る。

「ところで、今回はどんなクエストなんだ?」

「ああ、今回はお前達のランクに合わせて、オークの群れの討伐だ。
 オーク達は子分のゴブリンを引き連れてこの森に棲み付いていたんだが、最近この近くの村に出て悪さをするようになったらしい。」

 いきなり群れを相手にするのか。
 剣すら初めて持つ俺達に、果たして倒せるのだろうか。
 心配そうにする奏太を、キブソンは『ガハハハ』と笑い飛ばす。


「心配すんな! オークは俺達が相手をする。お前らは離れたところに隠れてろ!
 そんで周りのゴブリンに隙が出来たら、後ろからブスッと行け!」

 ブ、ブスッと行けって……。
 い、いや。これも稼ぎを得るための第一歩だ。気後れせずに戦うしかない。
 俺はなんとか頑張るとして……。

 横を見ると、金重と響子はまだグッタリしている。
 とりあえず馬車を降りたら2人にはポーションと気付け薬を飲ませよう。
 戦う前から薬を消耗するのは、随分先が思いやられるが……。

 森の開けた所に辿り着くと、馬車が止まった。

 男達がゾロゾロと馬車から降りると、キブソンが声を挙げた。


「お前らいよいよ敵の目前だ!
 ルーキーに俺達の勇姿を見せてやれ!
 くれぐれもこいつらを危険な目に遭わすんじゃねえぞ!
 こいつらを無事に街まで帰すのが、俺達の今日の仕事だ! いいな!?」

「イエッサー!」「ヒャッハー!」「URYYYYY!!」

 男達の叫び声がこだまする。

 初めは見た目にビビりまくっていたが、いざ敵地に出ると、頼もしいばかりだ。
 一部変なやつも混ざっているが。

 集団は、森の深部へと進んでいった。
 金重や響子も、薬を飲んで元気を取り戻している。


「き、緊張しますね……。」

「小生の剣技をとくと味わわせてやるでござる!」

 響子は、か弱さが滲み出ているが、金重はさっきまで酔い潰れていたとは思えないやる気を見せる。
 空回りして危険な目に遭わなければ良いが……。
 まあ一応魔法もあるし、危なくなった時の目眩ましくらいにはなるだろう。

 そういえば俺の精霊魔法はどんな妖精を呼び出せるのだろうか。
 フ◯ディになっても戦いに役立つとは思えないし、タイミングを見て妖精を呼び出してみよう。

 森の向こうに川が見えてきたところで、集団がピタリと立ち止まった。

「ここがオークどもの棲み家だ。」

 見ると、川の麓でオークやゴブリン達がウロウロしている。
 流石に敵を目の当たりにすると、奏太の体に緊張が走る。
 いよいよだ……。

「お前ら音楽の準備はいいか?」

「イエッサー。」

 キブソン達が控えめに合図を取ると、ドデカイ蓄音箱を持った男が応える。

「では、ミュージックスタートオオオオ!!!!」


 キブソンが叫ぶと、蓄音箱の蓋が開かれ、森に大音量の音楽が鳴り響いたーー
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