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1章
2A-出発
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ーー嵐が過ぎ去り、祭壇の間に静穏が訪れた。
群衆は各々先程の演奏への感想を語り合っている。
とはいってもその殆どは罵りの類いだが。
「やはりあの2名は冒険者の道で間違いなかったようですな、国王様。
響子殿は残念でしたが、律動殿の活躍に期待するとしましょう。」
側近が国王に語りかける。
「いやーー余はあの2人にも大いに活躍を期待しておるぞ。」
国王は奏太達が消えた先を見つめながら、ほのかに笑みを浮かべた。
「(国王様がアイバニーゼ様以外の事で微笑むなんて珍しいな……。)
買い被りすぎでは? まぁ、確かに冒険者としては活躍が見込めるかもしれませんね。」
側近は国王の肩の入れように疑問を抱きつつも、冒険者への期待という事で納得したーー
「ーーふう……どのような演奏を見せてくれるかと思えば、思った通り実に品のない音色だった。
アイバニーゼ様もそう思いませんか?」
一時は国王の言葉に畏縮したものの、ローラントは酷評を受ける奏太達の演奏に、権高な態度を取り戻す。
「ええ……。」
アイバニーゼはローラントの言葉に同意を見せつつも、浮かない顔をしている。
(確かに彼らの奏でる音は、野性動物や魔物のように荒々しいものでした……。
しかし、どうして私の心はこんなにも昂っているのでしょうか……。)
アイバニーゼは、生まれて初めて抱いた感情に戸惑っていた。
律動もまた、悄然(しょうぜん)とした表情で虚空を見つめていた。
「ーーふん。」
律動は鼻をならすと、その場を去るローラントとアイバニーゼの後に続いたーー
ーー奏太達は門をくぐると、先程までいた城を背に、城下街へと歩いていった。
「クソ……。あそこまでロックが受け入れられないとは、流石にへこんだぜ……。」
予想以上のブーイングを受け、奏太は項垂れていた。
ギターが広く受け入れられていないとしても、自分達の演奏を聴けば、きっと評価は変わると思っていた。
だが、この世界にロックサウンドはまだまだ到底受け入れられそうもない現実に、流石の奏太も精神的ダメージを受けた。
だが俺は諦めない。必ずロックを国中に広めて、スターになってやる。
でなければ、童貞卒業なんて夢のまた夢だ。
「ーー私は好きでしたよ! さっきの演奏!」
落ち込む奏太を慰めるように、響子が奏太達の演奏に称賛を送った。
「響子さん……!」
なんていい人なんだ! 俺達の良さを分かってくれるなんて、例えお世辞でも天にも昇るようだ!
「特に金重さんのイントロのギターリフ、リッ◯ー・ブラックモアさながらでした!」
「照れるでござるよ。」
「それにーー」
金重の方かよっ!
確かに殆どイントロだけではあったが、金重のギターは原曲そのものだった。
奏太のリズムにもピタリと合わせてくる。
流石才能を買われて召喚されただけあって、中々良いギタープレイ……って、あれ……?
「ーー今リッ◯ー・ブラックモアって言われましたけど、響子さんディー◯・パープル知ってるんですか?」
「あ、はい!私、ロックが好きなんです!
幼い頃から親に三味線を習わされていたのですが、無理矢理やらされるうちに嫌になってしまって……。
そんなある日、気晴らしに街のCDショップに入って、たまたま聴いたのがロックで、その自由で独創的な音楽に心打たれたんです。
まるで親の鳥籠から私を新たな世界に解き放ってくれたようで……。
それ以来私、ロックを沢山聴くようになったんです!」
「へぇ~。あ、だからもう三味線は弾きたくないって言ってたんですね。」
響子が三味線で音楽家になるのを拒否した事に合点がいった。
「はい……。実は親にも一度三味線を辞めたいと進言したことがあったのですが、絶対にダメだと怒られてしまいまして……。
我が家の伝統を途絶えさせてはいけないとか……。
しかもその時に私がロックを聴いているのがバレてしまい、そんな三味線の妨げにしかならない下賤な音楽を聴いてはダメだと、私が集めたCDを全て取り上げられてしまいまして……。」
「それは酷い……。」
結局どこの世界も同じか。ロックを低俗な音楽だと決め付けて、排除しようとする奴らはこの世界にも、元の世界にもいた。
「私、こんな世界にもう居たくない。
そう思って死ぬことすら覚悟した時、ここに連れて来られたんです。
ですから、世界が変わったのに、また前と同じように三味線を強制されるのは、もう嫌なんです。」
なるほど……。日本には三味線とロックを融合させ、成功をおさめた吉◯兄弟なんかもいたけど、思いは人それぞれということか。
「ちなみに、響子さんは何のバンドが一番好きなんですか?」
「はい!それはもちろんーー
セッ◯ス・ピストルズです!」
群衆は各々先程の演奏への感想を語り合っている。
とはいってもその殆どは罵りの類いだが。
「やはりあの2名は冒険者の道で間違いなかったようですな、国王様。
響子殿は残念でしたが、律動殿の活躍に期待するとしましょう。」
側近が国王に語りかける。
「いやーー余はあの2人にも大いに活躍を期待しておるぞ。」
国王は奏太達が消えた先を見つめながら、ほのかに笑みを浮かべた。
「(国王様がアイバニーゼ様以外の事で微笑むなんて珍しいな……。)
買い被りすぎでは? まぁ、確かに冒険者としては活躍が見込めるかもしれませんね。」
側近は国王の肩の入れように疑問を抱きつつも、冒険者への期待という事で納得したーー
「ーーふう……どのような演奏を見せてくれるかと思えば、思った通り実に品のない音色だった。
アイバニーゼ様もそう思いませんか?」
一時は国王の言葉に畏縮したものの、ローラントは酷評を受ける奏太達の演奏に、権高な態度を取り戻す。
「ええ……。」
アイバニーゼはローラントの言葉に同意を見せつつも、浮かない顔をしている。
(確かに彼らの奏でる音は、野性動物や魔物のように荒々しいものでした……。
しかし、どうして私の心はこんなにも昂っているのでしょうか……。)
アイバニーゼは、生まれて初めて抱いた感情に戸惑っていた。
律動もまた、悄然(しょうぜん)とした表情で虚空を見つめていた。
「ーーふん。」
律動は鼻をならすと、その場を去るローラントとアイバニーゼの後に続いたーー
ーー奏太達は門をくぐると、先程までいた城を背に、城下街へと歩いていった。
「クソ……。あそこまでロックが受け入れられないとは、流石にへこんだぜ……。」
予想以上のブーイングを受け、奏太は項垂れていた。
ギターが広く受け入れられていないとしても、自分達の演奏を聴けば、きっと評価は変わると思っていた。
だが、この世界にロックサウンドはまだまだ到底受け入れられそうもない現実に、流石の奏太も精神的ダメージを受けた。
だが俺は諦めない。必ずロックを国中に広めて、スターになってやる。
でなければ、童貞卒業なんて夢のまた夢だ。
「ーー私は好きでしたよ! さっきの演奏!」
落ち込む奏太を慰めるように、響子が奏太達の演奏に称賛を送った。
「響子さん……!」
なんていい人なんだ! 俺達の良さを分かってくれるなんて、例えお世辞でも天にも昇るようだ!
「特に金重さんのイントロのギターリフ、リッ◯ー・ブラックモアさながらでした!」
「照れるでござるよ。」
「それにーー」
金重の方かよっ!
確かに殆どイントロだけではあったが、金重のギターは原曲そのものだった。
奏太のリズムにもピタリと合わせてくる。
流石才能を買われて召喚されただけあって、中々良いギタープレイ……って、あれ……?
「ーー今リッ◯ー・ブラックモアって言われましたけど、響子さんディー◯・パープル知ってるんですか?」
「あ、はい!私、ロックが好きなんです!
幼い頃から親に三味線を習わされていたのですが、無理矢理やらされるうちに嫌になってしまって……。
そんなある日、気晴らしに街のCDショップに入って、たまたま聴いたのがロックで、その自由で独創的な音楽に心打たれたんです。
まるで親の鳥籠から私を新たな世界に解き放ってくれたようで……。
それ以来私、ロックを沢山聴くようになったんです!」
「へぇ~。あ、だからもう三味線は弾きたくないって言ってたんですね。」
響子が三味線で音楽家になるのを拒否した事に合点がいった。
「はい……。実は親にも一度三味線を辞めたいと進言したことがあったのですが、絶対にダメだと怒られてしまいまして……。
我が家の伝統を途絶えさせてはいけないとか……。
しかもその時に私がロックを聴いているのがバレてしまい、そんな三味線の妨げにしかならない下賤な音楽を聴いてはダメだと、私が集めたCDを全て取り上げられてしまいまして……。」
「それは酷い……。」
結局どこの世界も同じか。ロックを低俗な音楽だと決め付けて、排除しようとする奴らはこの世界にも、元の世界にもいた。
「私、こんな世界にもう居たくない。
そう思って死ぬことすら覚悟した時、ここに連れて来られたんです。
ですから、世界が変わったのに、また前と同じように三味線を強制されるのは、もう嫌なんです。」
なるほど……。日本には三味線とロックを融合させ、成功をおさめた吉◯兄弟なんかもいたけど、思いは人それぞれということか。
「ちなみに、響子さんは何のバンドが一番好きなんですか?」
「はい!それはもちろんーー
セッ◯ス・ピストルズです!」
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