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1章

1間奏-お披露目3

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 奏太はいそいそと演奏の準備に取りかかる。

 そうだ。どうせならギターは2人いるわけだし、2人で何か合わせた方が面白いかもしれないーー

「なあ金重、2人で一緒に何か演奏しようか。」

「別に良いでござるよ。曲はどうするでござるか?」

 金重は奏太の提案に素直に応じる。
 さて問題は何を演奏するかだが、ジャムセッションはハードルが高いか?
 初対面で相手の癖や趣向も分からない状況での、ギター2人によるジャムセッションとなると、中々厳しいか。
 ただでさえこの国ではギターのイメージが悪いから、失敗は許されない。
 となると、何か有名な曲をカバーするのが無難か……。

「ちなみに金重はどんなジャンルの音楽が好きなんだ?」

「小生はボカロやアニソンなら何でも聴くでござる。」

 それを何でもとは言わねえよ……。
 俺アニソンで弾ける曲なんかあったかなーー

「ーーあとは、ハードロック・へヴィメタルもよく聴くでござるよ。」

 ハードロックか。
 ハードロックなら俺も知ってるバンドは結構ある。
 ならばーー


「ーー金重、ディー◯・パープルのBurnはいけるか?」

 言わずと知れた、ハードロック界の巨匠。
 日本では某国民的男性アイドルが出ていた某ハウスメーカーのCMで有名だ。

「勿論でござる!タ◯ホーーーーーーーム!でござるな?
 あれならフルで弾けるでござるよ。」

 まぁ流石にCMバージョンでは歌わないが、ギターが弾けるなら問題ない。

「よし。なら俺はリズムギターと歌をやるから、金重はリードギターを頼む。電源は大丈夫そうか?」

「任せるでござる!バッテリーは予備もあるゆえ、1曲くらいは持つと思うでござる!」

 奏太は演奏が可能であることを確認すると、自分の準備に取りかかった。
 四角いケースの中からアンプを取り出し、アルミケースを開く。
 すると中から綺麗に配列されたコンパクトエフェクター達が顔を出した。

 ギターケースからストラトギターを取り出し、ギター、エフェクター、アンプをシールドケーブルで繋ぐ。

 金重の方を見ると、フライングVギターを持ち、多くのエフェクトを備えるマルチエフェクターを使用するようだ。

 奏太はエフェクターの歪みゲインを強めに設定し、恐る恐るアンプの電源を入れた。
 すると電源ランプが点灯し、アンプが『ジーーーッ』というノイズ音を発した。
 良かった。どうやら普通に使えそうだ。

 チューナーのスイッチを入れ、ギターのチューニングを済ませる。
 初めはギターを蔑んでいた群衆も、一連の様子を興味深そうに眺めている。

「確かあの楽器はギターと言っていたが、我々の知るそれとは随分違った形をしているな。」

「あの道具達は一体どのように扱うのであろうか。」

「うーむ。見たこともない道具じゃ。」

 ふっふっふ。皆興味津々だな。やはりこの世界に電子楽器はないみたいだ。
 見てろよ、すぐに度肝を抜いてやるからな。

 奏太はアンプのイコライザーの設定を終え、準備が完了する。


「金重!準備は良いか?」

「いつでもOKでござる!」

「じゃあ、金重のギターリフから始めてくれ!俺がそれにコードで合わせる!」

「了解でござる!」

 金重が小さく体でリズムを取ると、イントロのギターリフを弾き始めた。

 ディストーションサウンドが『ギュンギュン』と鳴り響く。
 金重の左手が素早くフレット上を動き、右手に握るピックが弦を弾く。
 音は激しく歪んでいるが、対称的に金重の両手は無駄なく繊細に1つ1つのフレーズを奏でる。

 奏太は金重の演奏を目と耳で確認しながら、自分が入るべきタイミングを伺う。
 そして二つのエレキギターの音が重なる。
 1つはメロディを奏で、1つはブリッジミュートでザクザクとリズムを刻む。

「なんだこの音は!?」

「まるで獣の雄叫びのようだ!」

「ヒイィ!音が耳をつんざく!」

 初めて聴く強烈な電子音に、周囲はパニックになる。
 2つのギターが奏でるロックサウンドが、場を爽快に駆け抜け、更に勢いを増す。

 よし、ここからボーカルの入りだ!

 奏太がギターに合わせてAメロを歌い出す。するとーー

「やめろ!なんて酷い音だ!」

「気分が悪くなりそうだ!今すぐ演奏を止めてくれ!」

「こんな醜い音がこの世にあるなんて!全く不快だわ!」

 奏太の歌は儚くも、群衆が中止を求めて騒ぐ声に、中断を余儀なくされた。

「なんだよお前ら!今から折角良いところだったのに!
 せめて最後までやらせろよ!」

 奏太は群衆の反応に不満を叫ぶが、

「この期に及んでまだそんな事を言っているのか!
 やはり聴くまでもなかった!」

「お前達のような者に神聖な場で楽器を奏でる資格はない!」

「荷物をまとめてさっさとこの場から立ち去れ!」

 群衆は奏太達に向かって罵声とともに物を投げ付け始めた。

「痛っ! 痛っ! やめろ! わかったよ、出てくよ!
 二度とこんなところ来るかよ! クソ!
 ほら金重! さっさと片付けて行くぞ!」

 周囲を全く気にする様子もなく演奏を続ける金重を制止し、奏太は急いで荷物をまとめて部屋の出口へ向かう。

「奏太殿! 待ってくれでござる!」

 金重も慌てて楽器を収納し、奏太の後を追いかける。

「あ、私を置いてかないでくださ~い!」

 響子も2人続いて、その場を後にしたーー
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