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27・祭りの当日

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 私たちは聖女の神託のため、ヴィーラントとともに不正が行われないか徹底的に調査した。

 そこで分かったことがある。
 教会が所持している古代遺物アーティファクトには、神官たちを束ねる大司祭しか触れることが許されていないことだ。

「当日に不正をするのは難しそうだ」
「そうみたいですね」

 不正と聞いて、真っ先に思いついたのが『古代遺物アーティファクト自体に細工を施し、神託が成功したかのように見せかける』であったが……アテが外れてしまった。

 ならば、大司祭を買収して、代わりに細工をしてもらったり、古代遺物アーティファクト自体を別のものに取り替えるという手はどうだろうか?

 そのことをヴィーラントに説明すると。

「有り得るな。しかし大司祭自体を、当日の神託から排除するのは不可能だぞ。確固たる証拠があれば別だが、教会には俺にも手が出せん」
「ですよね……」

 それにこれはあくまで疑いだ。
 教会に直接聞いても、有り得ないと答えが返ってくるだけだろう。

 さらに調査を進めていくと、古代遺物アーティファクトは当日まで教会に大切に保管されているらしい。
 その間は盗難を防止するため、大司祭すらも古代遺物アーティファクトに近付くことが出来ない。

「つまり……不正が行われるとしたら、聖女の神託当日である可能性が高いとでしょうか?」
「まあ、そういうことだな。当日の大司祭を誰かに見張らせておくか?」
「うーん……それで不正を防げるかとは思いますが、大司祭への疑いは残ったままです。決定的な証拠を掴むことが出来ればいいんですが……」

 そこで私はある案を思いつく。

「フォルカー殿下を頼りましょう。当日、彼に大司祭の影の中に隠れてもらう。そして、少しでも怪しい様子があれば、私たちに知らせて……」
「なるほど。わざと隙を見せて、大司祭がなにをしようとしているのか探るわけか。前の孤児院の時と似ているな。しかし……」

 ヴィーラントは腕を組んで、渋い顔をする。

「なにか気掛かりでも?」
「フォルカーには、あまり借りを作りたくない。ただでさえ、孤児院の一件でヤツには世話になった。このまま借りが積み重なっていけば、なにを要求されるのか……と思ってな」
「それは私も気になりますが……フォルカー殿下に手伝ってもらうのが、今のところ最善手であると思うんです」

 フォルカーの密偵技術は一流だ。
 死に戻り前も、『闇世の死神』と呼ばれ、何人もの要人を殺してきた実績(正しくはの人生の実績ではないが)もある。

 説得すると、ヴィーラントは渋々といった感じで、

「……分かった。最善を尽くそう。フォルカーには俺から伝えておく」

 と首を縦に振ったのであった。

 他にも、なにか不正はないかと動き回っていたが……やはり古代遺物アーティファクトの警備が固い。大司祭以外で細工をするのは不可能な気がした。

 そうして、やはりフォルカーの力を借りなければならないことを、不甲斐なく思いながら──神託当日を迎えたのであった。




 ◆ ◆

 聖女の神託当日には、予定通りに祭りが開かれ、帝都はいつもより活気に満ちていた。

「今のところ、なにも起こっていなさそうだな」
「ですね」

 私とヴィーラントは見回りを兼ねて、二人で祭りの雰囲気を楽しんでいた。

 ……いや、正しくは二人じゃない。

 視界には入っていないが、ヴィーラントの護衛騎士兼執事のグレンも、どこかで私たちを見ているようなのだ。

 さすがに第一王子が護衛もつけずに、祭りを歩き回るのは不用心だからね。
 ただでさえ今日は神託目当ての外国人も多いのだし……。

「そう怖い顔をするな。神託で不正が行われるという根拠も、お前の勘なんだろう? なにも起こらないかもしれないじゃないか」
「それはそうですが……」
「フォルカーから連絡が入るまで、今は祭りを楽しもう。ほら──あちらを見ろ」

 ヴィーラントが指差す方へ視線を移すと、お大通りでなにが行われており、人々が集まっていた。

「なにをされているか、気になりますね」
「見にいくか」

 そう言って、私たちは人だかりまで移動する。


「さあさあ、見てらっしゃい! 楽しいマジックだよ!」


 人だかりの中心には、ピエロの格好をした人間がいた。

 彼の手元にはいくつかの小道具、傍らには空になった鳥籠がある。
 みんなは奇抜な格好をしたピエロに視線を奪われているのか、私たちに気が付かない。

 やがてそのピエロは、華麗な身のこなしで手を振り、手元の小道具を操り出した。

 その光景はまさしく圧巻の一言。
 魔法を使っていないはずなのに、小道具たちが自由自在に宙に浮く。
 落下した小道具を、ピエロはアクロバティックな動きでキャッチした。

「すごい……!」
「ほお、なかなかやるものだな」

 思わず、私たちは声を漏らしていた。

 しかしショーが始まる前、ピエロは『マジック』と言ったはずだ。
 これがマジック……? どちらかというと大道芸の一種だ。

 他の観客も、僅かな違和感に気付いたのだろう。
 ピエロがショーの終盤、鳥籠に指先を示すと──そこには一羽の白い鳩が現れていた。

「どうやら私の動きに釣られて、鳩がやってきたようです」

 と一言告げると、周囲は割れんばかりの拍手が起こった。

「さすがだな。自分で『楽しいマジック』と言うだけのことはある」

 ヴィーラントも拍手をしながら、ピエロのマジックに感服しているようであった。

「視線誘導のマジック──というものですか」

 私たちがピエロのアクロバティックな動きに目を奪われている間、なんらかの手段で鳩が入った鳥籠にすり替えられていたのだろう。
 観客の中に、マジックのスタッフが紛れ込んでいたのかもしれない。しかし終わってしまっては、それを確かめる手段もない。

「だろうな。まあマジックの種明かしをするのは無粋だ。純粋に楽しもう」
「ですね」

 もちろん、私もヴィーラントと同様、ここでマジックの種明かしに躍起になるつもりはない。

 素晴らしいマジックに感動したのち、別の場所に移ろうかとしたが──ヴィーラントが胸元から一つの魔石を取り出した。

「……フォルカーか」

 ヴィーラントが魔石に向かって、小声で話す。

 彼が今使っているのは連絡用の魔石だ。
 距離は長くはないが、離れた相手とこうして会話が出来る。

『兄貴たちの予想通り、大司祭が動いた。まだ時間じゃねえってのに、古代遺物アーティファクトがある位置まで移動してやがった』
「本当か?」
『ああ。まあ早めに移動しているだけかも──って、そろそろ通信を切るぜ。もう一度、大司祭の影に隠れなきゃならねえ』

 その言葉を最後に、フォルカーの声が魔石から聞こえなくなった。

 ヴィーラントは魔石から視線を切り、私を見る。

「エルナ、行くぞ。古代遺物アーティファクトは教会だ。ここからさほど距離も離れていない。今なら俺たちも間に合う」
「は、はい!」

 私たちは急いでその場を後にし、教会に向かった。




 ◆ ◆

(大司祭視点)


 そろそろ、聖女の神託が始まる。

 祭りを彩るため、大司祭は古代遺物アーティファクトがある教会の一室に足を踏み入れた。

「ふう……やれやれ、当日でないと私もここに来ることが出来ん。そうじゃなかったら、もっと落ち着いてを出来たものを……」

 歩を進め、部屋の中央にあるのは一個の水晶玉だった。

 これこそが、古代遺物アーティファクト
 何百年も古代遺物アーティファクトの呼びかけに、応えたものはいない。

 大司祭はそれに手をかざす。

(久しぶりにやるが……私の魔法はまだ衰えていない。これなら、の言うことも──)

 順調に終わりそうになり、大司祭が口角を吊り上げた時。


「そこでなにをしている?」
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