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火の王国編
え、私守られた?
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「お客さま」
牡丹屋に入って目的の場所に向かおうと走っていると受付で声をかけられた。
「ご宿泊ですか? 日帰りですか?」
表向きは温泉旅館。そりゃ普通は聞くよね。
「宿泊で! メアリー。受付お願い」
「かしこまりました」
受付をメアリーに任せて私たちは先に目的の隠し部屋へと急いだ。おそらくあと1分もない。……間に合うか?
カウンター型の受付を左に曲がり、右手に見える中庭を視界の端で楽しみながら突き当たりまで。そこから右折。軋みを上げる細い廊下を走りながら左手側の壁を注視する。
「ここね」
ちょうどカラクリ時計の裏あたり。壁の足下に不自然な隙間が数センチほど。私はそこに指を入れて力を込めた。
「大正解」
重さも感じないほど滑らかに壁は持ち上がった。目の前には暗闇へと降りていく階段。奥には小さな灯りが見える。
「行きましょう」
「私が先頭を歩きます」
私の声にクロードがそう返す。危険があるかもしれない暗闇。そんな場所に行くのに当たり前のように矢面に立つクロード。守られている感じがまだまだむず痒く思う。
「アリス様に何かあってはいけませんから」
「よろしくね。クロード」
うん。アリスの為ってのは分かってる。私もアリスのことは守りたい。でもちょっとだけ寂しい気もする。
「レジーナのことは私が守る」
「ありがとうリラ。私もリラのこと守るからね」
「私もお姉さまのことをお守りします!」
「アリスもありがとう」
アリスの対抗意識が可愛らしくて口元が緩んでしまう。そんな顔を見せられないから私は両手で顔を覆う。
4人で階段を降り始めてすぐ、後方で壁が閉まった。
「メアリーなら大丈夫でしょう。3人ともお気をつけて」
クロードはそう言いつつ集中して階段を降りる。それからビルの2階分くらい真っ直ぐに降りただろうか。四畳半くらいの場所に出た。
「この扉ね」
目の前には引き戸。それをクロードが警戒しつつ開いた。
「少々早すぎる」
中はバスケットコートくらいの広さの畳部屋。その中央に胡座をかいて座った若い男が怪しむような顔でこちらを見る。
地味な甚平を着た男はそう言って立ち上がると一瞬でクロードの目の前に詰め寄って何か武器を振るった。
「腕の方も確か。よし。話を進めよう」
甚平姿の男がクロードに突きつけていたのは杭のような細いクナイ。クロードはそのクナイを持った腕を左手で掴み、右手は剣の柄を持つ。しかし柄頭を押さえられて抜けない状態だった。
「もし今狙ったのがアリス様かレジーナ様であれば」
「分かっていたさ。だからお前を狙った。そんなことより俺はお前たちを十二分に試し、依頼を出すことに決めた。今度はそちらの番だ」
「こっちの番?」
唐突な話で私は思考が追いつかなかった。
「報酬は何が欲しい。ドーゴの忍頭としてお前たちの望み、何でも叶えよう」
忍頭はそう言って元いた場所に座り、どこから取り出したのか分からない盃を床に置いた。
牡丹屋に入って目的の場所に向かおうと走っていると受付で声をかけられた。
「ご宿泊ですか? 日帰りですか?」
表向きは温泉旅館。そりゃ普通は聞くよね。
「宿泊で! メアリー。受付お願い」
「かしこまりました」
受付をメアリーに任せて私たちは先に目的の隠し部屋へと急いだ。おそらくあと1分もない。……間に合うか?
カウンター型の受付を左に曲がり、右手に見える中庭を視界の端で楽しみながら突き当たりまで。そこから右折。軋みを上げる細い廊下を走りながら左手側の壁を注視する。
「ここね」
ちょうどカラクリ時計の裏あたり。壁の足下に不自然な隙間が数センチほど。私はそこに指を入れて力を込めた。
「大正解」
重さも感じないほど滑らかに壁は持ち上がった。目の前には暗闇へと降りていく階段。奥には小さな灯りが見える。
「行きましょう」
「私が先頭を歩きます」
私の声にクロードがそう返す。危険があるかもしれない暗闇。そんな場所に行くのに当たり前のように矢面に立つクロード。守られている感じがまだまだむず痒く思う。
「アリス様に何かあってはいけませんから」
「よろしくね。クロード」
うん。アリスの為ってのは分かってる。私もアリスのことは守りたい。でもちょっとだけ寂しい気もする。
「レジーナのことは私が守る」
「ありがとうリラ。私もリラのこと守るからね」
「私もお姉さまのことをお守りします!」
「アリスもありがとう」
アリスの対抗意識が可愛らしくて口元が緩んでしまう。そんな顔を見せられないから私は両手で顔を覆う。
4人で階段を降り始めてすぐ、後方で壁が閉まった。
「メアリーなら大丈夫でしょう。3人ともお気をつけて」
クロードはそう言いつつ集中して階段を降りる。それからビルの2階分くらい真っ直ぐに降りただろうか。四畳半くらいの場所に出た。
「この扉ね」
目の前には引き戸。それをクロードが警戒しつつ開いた。
「少々早すぎる」
中はバスケットコートくらいの広さの畳部屋。その中央に胡座をかいて座った若い男が怪しむような顔でこちらを見る。
地味な甚平を着た男はそう言って立ち上がると一瞬でクロードの目の前に詰め寄って何か武器を振るった。
「腕の方も確か。よし。話を進めよう」
甚平姿の男がクロードに突きつけていたのは杭のような細いクナイ。クロードはそのクナイを持った腕を左手で掴み、右手は剣の柄を持つ。しかし柄頭を押さえられて抜けない状態だった。
「もし今狙ったのがアリス様かレジーナ様であれば」
「分かっていたさ。だからお前を狙った。そんなことより俺はお前たちを十二分に試し、依頼を出すことに決めた。今度はそちらの番だ」
「こっちの番?」
唐突な話で私は思考が追いつかなかった。
「報酬は何が欲しい。ドーゴの忍頭としてお前たちの望み、何でも叶えよう」
忍頭はそう言って元いた場所に座り、どこから取り出したのか分からない盃を床に置いた。
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