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土の王国編
え、私買いかぶられてる?
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初めに案内された場所は浴室だった。旅の疲れを落としてからとの計らい。浴室での世話が1番複雑な気持ちになるけど、メアリーが私の仕事ですと言って見知らぬ使用人に任せなかったことが唯一の救いだった。
浴室を出てドレスに着替えると案内された先は謁見の間ではなくダイニングルームだった。アニメや漫画で定番の長机に豪勢な食事が並んでいる。私とアリスが部屋に入るとそこには先客がいた。王と王妃、王子であるヒューリ。そして昨日私との婚約を破棄したというアレクサンダー。さらにその隣には……
「お姉さま。彼女がクロードが言っていた……」
アリスが私に耳打ちをする。いかにも気が強そうな女性が座っている。私たちには目もくれない。
「気にせずこちらからは触れないようにしましょ」
私も小声でアリスに告げる。
「レジーナ様、アリス様。どうぞこちらの席へ」
部屋に入って立ち止まっていた私たちに声をかけてくれたのはヒューリだった。わざわざ席を立って私たちの下に来てまで案内をしてくれる。王と王妃はアレクサンダーたちにつきっきりの様子。
「ヒューリ王子ありがとうございます」
そう言ったアリスに続いて私も礼を言った。案内された席はアレクサンダーたちの正面。隣にヒューリが座ってくれたが気まずいことには変わりない。
「おやレジーナ。体調はもう良いのかい?」
椅子に座った途端にアレクサンダーは私に向けてそう言った。
「ええ、昨日は高熱にうなされておりましたがおかげさまで」
私の返答をアレクサンダーは鼻で笑うとまた王と王妃との会話に戻った。その様子を見てヒューリが私にしか聞こえないように話す。声を張らないと聞こえないほどテーブルが広くて助かる。
「彼らはどうも私やフルハイム家の方々を目の敵にしているみたいですね。お二人も何かありましたら遠慮なく私に相談してくださいね」
「ありがとうございます」
どうやらアレクサンダーの態度が悪いのは私たちにだけではないらしい。それもそのはず。ゲームだとアレクサンダーはレジーナと結婚し、土の王国に戦争を仕掛けるのだから。しかしアレクサンダーたちの奇襲を察知していたヒューリ率いる近衛兵団によりアレクサンダーたちの軍隊は崩れ、最終的にはアレクサンダーもレジーナも死んでしまうというシナリオ。
私がアレクサンダーと結婚しないルートになったから戦争は起こらない可能性もある。しかし今の話とアレクサンダーの様子、そしてアレクサンダーの隣に座る女性の雰囲気が戦争ルートを回避できないのではないかと思わせてくる。
アレクサンダーの隣に座る女性は私の顔を一瞬見て眉をひそめる。……彼女は何者なのだろうか。
「あ、そうだ。完全に別件なんですけど、ヒューリ王子。ビジネスの話をしても大丈夫です?」
「ええ。私が力になれるのでしたら」
快く返事をしてくれたヒューリに私は先ほどまで一緒だったマルクたちの話をした。猪を見つければ容易に討伐できる人たちがいるということ。その人たちを猪ハンターとして働いてもらおうとしていること。その肉を使った店を展開しようとしていること。土の国を脅かしている猪の情報が欲しいということ。
「なるほど。それでしたら情報はすぐに提供しましょう。猪の生態研究をしている学者に心当たりもありますのでそちらも明日中には紹介できると思います」
「ありがとうございます。おかげでひとつの集落が助かります。それと美味しい肉料理がたくさん食べられます」
「感謝すべきは私の方です。もしレジーナ様の言うとおり猪を効率よく駆除することができれば作物の収量も上がりますし、猪に襲われることによる災害も防ぐことができます。それは一つの集落が助かるというレベルの話ではありません。土の国全体……いや世界全体に利のある話です」
「ほとんど私欲ですけどね」
「お姉さまは猪肉に目がないんです!」
「それはお優しい」
そのヒューリの言葉に私は首を傾げた。
「私欲だと言って責任を負う。誰のせいにもしないその姿勢は優しさ以外の何物でもありません。私財や伝統も民のために切り崩す……まるでジョージ・フルハイムのようではないですか」
「そんな、買いかぶりですよ」
そんな責任を自分で負うための方便なんかではない。本当に私利私欲のため。しかしヒューリの言葉を聞いてアリスは目を輝かせて私を見る。違う……私はそんな凄い人じゃない……。
浴室を出てドレスに着替えると案内された先は謁見の間ではなくダイニングルームだった。アニメや漫画で定番の長机に豪勢な食事が並んでいる。私とアリスが部屋に入るとそこには先客がいた。王と王妃、王子であるヒューリ。そして昨日私との婚約を破棄したというアレクサンダー。さらにその隣には……
「お姉さま。彼女がクロードが言っていた……」
アリスが私に耳打ちをする。いかにも気が強そうな女性が座っている。私たちには目もくれない。
「気にせずこちらからは触れないようにしましょ」
私も小声でアリスに告げる。
「レジーナ様、アリス様。どうぞこちらの席へ」
部屋に入って立ち止まっていた私たちに声をかけてくれたのはヒューリだった。わざわざ席を立って私たちの下に来てまで案内をしてくれる。王と王妃はアレクサンダーたちにつきっきりの様子。
「ヒューリ王子ありがとうございます」
そう言ったアリスに続いて私も礼を言った。案内された席はアレクサンダーたちの正面。隣にヒューリが座ってくれたが気まずいことには変わりない。
「おやレジーナ。体調はもう良いのかい?」
椅子に座った途端にアレクサンダーは私に向けてそう言った。
「ええ、昨日は高熱にうなされておりましたがおかげさまで」
私の返答をアレクサンダーは鼻で笑うとまた王と王妃との会話に戻った。その様子を見てヒューリが私にしか聞こえないように話す。声を張らないと聞こえないほどテーブルが広くて助かる。
「彼らはどうも私やフルハイム家の方々を目の敵にしているみたいですね。お二人も何かありましたら遠慮なく私に相談してくださいね」
「ありがとうございます」
どうやらアレクサンダーの態度が悪いのは私たちにだけではないらしい。それもそのはず。ゲームだとアレクサンダーはレジーナと結婚し、土の王国に戦争を仕掛けるのだから。しかしアレクサンダーたちの奇襲を察知していたヒューリ率いる近衛兵団によりアレクサンダーたちの軍隊は崩れ、最終的にはアレクサンダーもレジーナも死んでしまうというシナリオ。
私がアレクサンダーと結婚しないルートになったから戦争は起こらない可能性もある。しかし今の話とアレクサンダーの様子、そしてアレクサンダーの隣に座る女性の雰囲気が戦争ルートを回避できないのではないかと思わせてくる。
アレクサンダーの隣に座る女性は私の顔を一瞬見て眉をひそめる。……彼女は何者なのだろうか。
「あ、そうだ。完全に別件なんですけど、ヒューリ王子。ビジネスの話をしても大丈夫です?」
「ええ。私が力になれるのでしたら」
快く返事をしてくれたヒューリに私は先ほどまで一緒だったマルクたちの話をした。猪を見つければ容易に討伐できる人たちがいるということ。その人たちを猪ハンターとして働いてもらおうとしていること。その肉を使った店を展開しようとしていること。土の国を脅かしている猪の情報が欲しいということ。
「なるほど。それでしたら情報はすぐに提供しましょう。猪の生態研究をしている学者に心当たりもありますのでそちらも明日中には紹介できると思います」
「ありがとうございます。おかげでひとつの集落が助かります。それと美味しい肉料理がたくさん食べられます」
「感謝すべきは私の方です。もしレジーナ様の言うとおり猪を効率よく駆除することができれば作物の収量も上がりますし、猪に襲われることによる災害も防ぐことができます。それは一つの集落が助かるというレベルの話ではありません。土の国全体……いや世界全体に利のある話です」
「ほとんど私欲ですけどね」
「お姉さまは猪肉に目がないんです!」
「それはお優しい」
そのヒューリの言葉に私は首を傾げた。
「私欲だと言って責任を負う。誰のせいにもしないその姿勢は優しさ以外の何物でもありません。私財や伝統も民のために切り崩す……まるでジョージ・フルハイムのようではないですか」
「そんな、買いかぶりですよ」
そんな責任を自分で負うための方便なんかではない。本当に私利私欲のため。しかしヒューリの言葉を聞いてアリスは目を輝かせて私を見る。違う……私はそんな凄い人じゃない……。
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