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同級生 上野真紀
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それから私たちは好きなように好きなものを焼いては口へと運んでいた。それでも全ての食材がほぼ均等に減っているので不思議なものだった。特にジャガイモに至っては私が一つも手に取っていないのに無くなっていくので、私以外の三人がどれだけ食べているのかが分かる。じゃがバターと言って生田先生がアルミホイルでバターごと巻いていたものなんかは、三人揃って美味しい美味しいと声を上げていた。そのやり取りを見ていると私も少しだけ食べたくもなったが、一か月前の光景を思い出して踏みとどまる。
ある程度満腹状態になり、食材も少なくなってきたところで私は一人で少し離れたベンチに腰掛けた。丸太を半分に切って横倒しにし、足を付けただけの手作り感あふれるベンチ。生田先生が作ったのか他の誰かが作ったのかは分からないけれど、重量感があってとてもしっかりしたベンチは座っていて安心できる。少し離れてはいるものの、三人の声は問題なく聞こえている。基本的には高木先生と生田先生が話しており、真紀はその話をニコニコと聞いている状態だった。
私は麦茶の入ったコップを両手で握って膝の上に置くと、風に揺れる近くの山に視線を向ける。頂上でも標高百メートルもないくらいの小さな山。緑で覆われたその小さな山から下りてくる風を感じながら大きく鼻で息を吸う。春の自然の香り。バーベキューの隅が焼ける香りと肉の焼ける香りを吹き飛ばす頭の先まで抜けるような優しい香り。花粉症の人にとっては殺人的な狂気の香りなのかもしれないけれど、花粉症ではない私にとってはとても落ち着く香りだった。
「卯月!」
少しの時間目を閉じていた私はいつの間にか隣に座っていた真紀に声をかけられてとび上がるほどに驚いた。そんな私の反応を見て笑う真紀だったが、私はその笑いに少しだけ嫌な気分になる。
「突然隣に来て驚かせておいて笑うなんて酷い」
「ごめんごめん。なんか幸せそうな顔して座ってるなーって気になっちゃって」
そんなに幸せそうな顔をしていたのだろうか。自分で顔のことは分からないが、幸せな気分でいたのは間違っていない。
「高木先生のところにいなくて良いの?」
私のことが気になったからとはいえ、好きだと言っていた高木先生のそばにいなくて良いものなのかと思う。しかし真紀は二人で楽しそうに話している生田先生と高木先生を見ながら答えた。話し始めた真紀は初めて会ったときの印象とは違って少し落ち着いて見え、幸せそうでもあった。
「ずっと近くにいても鬱陶しいかなって。それに生田先生と仕事の話をしてる高木先生って楽しそうで、私が傍にいない方がもっと気を遣わずに話せることもあるんじゃないかと思ってね」
「生物準備室に無理やり入って話を聞こうとした真紀とは思えないね」
「あのときは午前中に見かけた高木先生が元気なくて心配だったから! ってかさ。卯月って結構ズバズバ言うね。絶対性格キツイって言われてるでしょ?」
ニヤニヤとそう言った真紀。少し意地悪な言い方をしたことに対する反撃だろうか。確かに少しキツイ言い方をしたのだと自覚している。
「普段学校であんまり喋らないからそういうこと言われたことないけど。昔からよく遊んでる子とはお互いにこんな感じで言いたいこと言い合ってるよ」
智子とはいつも言いたいことを言い合ってはそれで笑い合っている。女の子らしい会話かと言われれば違うかもしれないが、私にはそれ以外にコミュニケーションをとる方法というのがよく分からない。基本的には一人でいることに対して苦痛に感じたりもしない方だし……。
「ふーん。じゃあ、学校ではあんまり自分出してない感じ?」
「まあ……そうかもしれない」
「じゃあさ、じゃあさ!」
じゃあじゃあと何度も言う真紀は身を乗り出して私の顔に近づいてくる。私が身を引かなければ本当にぶつかって来るのではないかと思えてしまう。
「学校で会ったら話しかけに行くね! みんなが今の卯月のこと知ったら絶対面白いって言って仲良くしてくれるよ!」
面白いと言われることに対していまいち納得ができないけれど、話しかけに来てくれるということに対して無下に断るのもおかしな話だ。しかし――
ある程度満腹状態になり、食材も少なくなってきたところで私は一人で少し離れたベンチに腰掛けた。丸太を半分に切って横倒しにし、足を付けただけの手作り感あふれるベンチ。生田先生が作ったのか他の誰かが作ったのかは分からないけれど、重量感があってとてもしっかりしたベンチは座っていて安心できる。少し離れてはいるものの、三人の声は問題なく聞こえている。基本的には高木先生と生田先生が話しており、真紀はその話をニコニコと聞いている状態だった。
私は麦茶の入ったコップを両手で握って膝の上に置くと、風に揺れる近くの山に視線を向ける。頂上でも標高百メートルもないくらいの小さな山。緑で覆われたその小さな山から下りてくる風を感じながら大きく鼻で息を吸う。春の自然の香り。バーベキューの隅が焼ける香りと肉の焼ける香りを吹き飛ばす頭の先まで抜けるような優しい香り。花粉症の人にとっては殺人的な狂気の香りなのかもしれないけれど、花粉症ではない私にとってはとても落ち着く香りだった。
「卯月!」
少しの時間目を閉じていた私はいつの間にか隣に座っていた真紀に声をかけられてとび上がるほどに驚いた。そんな私の反応を見て笑う真紀だったが、私はその笑いに少しだけ嫌な気分になる。
「突然隣に来て驚かせておいて笑うなんて酷い」
「ごめんごめん。なんか幸せそうな顔して座ってるなーって気になっちゃって」
そんなに幸せそうな顔をしていたのだろうか。自分で顔のことは分からないが、幸せな気分でいたのは間違っていない。
「高木先生のところにいなくて良いの?」
私のことが気になったからとはいえ、好きだと言っていた高木先生のそばにいなくて良いものなのかと思う。しかし真紀は二人で楽しそうに話している生田先生と高木先生を見ながら答えた。話し始めた真紀は初めて会ったときの印象とは違って少し落ち着いて見え、幸せそうでもあった。
「ずっと近くにいても鬱陶しいかなって。それに生田先生と仕事の話をしてる高木先生って楽しそうで、私が傍にいない方がもっと気を遣わずに話せることもあるんじゃないかと思ってね」
「生物準備室に無理やり入って話を聞こうとした真紀とは思えないね」
「あのときは午前中に見かけた高木先生が元気なくて心配だったから! ってかさ。卯月って結構ズバズバ言うね。絶対性格キツイって言われてるでしょ?」
ニヤニヤとそう言った真紀。少し意地悪な言い方をしたことに対する反撃だろうか。確かに少しキツイ言い方をしたのだと自覚している。
「普段学校であんまり喋らないからそういうこと言われたことないけど。昔からよく遊んでる子とはお互いにこんな感じで言いたいこと言い合ってるよ」
智子とはいつも言いたいことを言い合ってはそれで笑い合っている。女の子らしい会話かと言われれば違うかもしれないが、私にはそれ以外にコミュニケーションをとる方法というのがよく分からない。基本的には一人でいることに対して苦痛に感じたりもしない方だし……。
「ふーん。じゃあ、学校ではあんまり自分出してない感じ?」
「まあ……そうかもしれない」
「じゃあさ、じゃあさ!」
じゃあじゃあと何度も言う真紀は身を乗り出して私の顔に近づいてくる。私が身を引かなければ本当にぶつかって来るのではないかと思えてしまう。
「学校で会ったら話しかけに行くね! みんなが今の卯月のこと知ったら絶対面白いって言って仲良くしてくれるよ!」
面白いと言われることに対していまいち納得ができないけれど、話しかけに来てくれるということに対して無下に断るのもおかしな話だ。しかし――
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