春風のインドール

色部耀

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同級生 上野真紀

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 高木先生はそう言って深々と頭を下げた。今日自らのコンプレックスを話したことで少しは肩の荷がおりたのかもしれない。

「あ、そうです。せっかくなのでリフレッシュも兼ねてウチでバーベキューでもしませんか? 美味しいものを食べて体にも栄養をつけておけば心にも余裕ができて良く眠れるでしょう」

 唐突にそう言った生田先生に対して高木先生は困惑した様子を見せる。突然食事に誘われたりしたら困るのも当然だ。高木先生にだって用事はあるだろう。

「お誘いいただいて嬉しいんですが、部活の参加と報告書作成があって……」

 高木先生の用事というのは教育実習のことだったようで、それを聞いた生田先生は少し考えると解決策を思いついたとばかりに口を開く。

「園芸部の活動ということにしましょう。ちょうど昨日収穫したジャガイモも食べられますし。報告書にはジャガイモの感想でも書いておけば良いです。チェックするのは私ですしね。サッカー部の顧問の先生にはお伝えしておきますので安心してください」

 逃げ道を一つ一つ潰す形で話す生田先生。高木先生は半笑いで答える。

「そこまで言われるならご一緒させていただきます。えっと……。この子たちは?」

 高木先生は私たちを手で指して生田先生にそう尋ねる。全く行くつもりではなかった私は直ぐにいかない旨を伝えようとしたが、それよりも早く真紀さんが口を開いた。

「行く! 行きます!」

 手を上げて立ち上がった真紀さんはそうアピールをすると生田先生も嬉しそうに微笑んだ。自分が育てた野菜を食べてもらえるのはそんなに嬉しいのだろうか。その微笑みだけは今までの作り笑いとは違って心から出た笑みのように見えた。コンポストとやらで育ったジャガイモだけは食べたくはないけれど……。

「真紀さんの部活は?」

「帰宅部です!」

「細川さんも部活には入っていませんよね?」

「はい……」

 先生の嬉しそうな顔を見ると予定もないのに断ることもできない。

「では二人は園芸部に仮入部ということで、今日は園芸部で収穫した野菜を食べるという活動です。他の先生に何か言われたらそのように口裏を合わせておいてください」

「口裏って……悪いことしてるみたいじゃないですか」

 生田先生の口ぶりに高木先生が笑いながら答える。すると生田先生は人差し指を口に当てて言った。

「女生徒を家に招いて食事をするのは本来あまり褒められたことではありませんからね。今回は二人きりというわけでもありませんし問題にはならないでしょうけれど。しかし、実際は私が育てた野菜を他の誰かと一緒に食べたいというだけなのですけどね。もちろん出費は全部私持ちです」

 そう言って立ち上がった生田先生はデスク横にあるダンボールを重そうに持ち上げる。半開きの蓋からは中に詰まったジャガイモが見える。

「夕飯には少し早いですが、買い出しも含めて今から向かいますか」

「あ、お持ちします」

 高木先生はそう言って生田先生が持つダンボールを軽々と持った。見た目どおり生田先生よりも高木先生の方が力持ちのようだ。上司と部下といった雰囲気の二人を見て、私はまた少し生田先生の頼りになる姿を見た気がした。
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