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47.写真
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ノックをすることも忘れて事務所の扉を開けると、中は学校の教室と同じくらいの広さがある事務所だった。その広い事務所の中に人は一人だけしかおらず、その一人は一番奥の一番大きな机で書類をめくっていた。
丸眼鏡をかけた初老の女性。笑い皺が深く刻まれた、見た目から優しさが溢れる女性だ。一人しかいないのでその人が園長先生で間違いないだろう。
俺と美波さんが近寄ると、園長先生は書類仕事をしていた顔を上げる。
「あら、お迎えの家族の方?」
園長先生はそう言って立ち上がったが、俺は咄嗟に両手を振って否定する。
「いえ、昔ここに通っていた者なんですが、たまたま近くに来て懐かしくなったので寄らせてもらいました」
「そうだったの。二人は高校生? じゃあ十年くらい前かしら」
「えっと、今高校一年生になったところなので……」
俺はそう言いながら何年前に幼稚園に通っていたのか頭の中で計算していると、園長先生は即座に答えた。
「十年前に年長さんね。ちょっとこっちにいらっしゃい」
園長先生は嬉しそうに微笑むとキャビネットが並ぶ場所まで移動した。案内されたのは置いてある資料が何かテープに書いて表示されているキャビネットではなく、背表紙もない不揃いのファイルが刺さったキャビネットだった。
「ここには毎年たくさん撮ってた写真がまとめられてあるの。最近はデジタルばかりだから減ってきてるけどね。十年前から十二年前だとこの辺かしら」
そう言いながらファイルを一冊手に取り、続けて二冊引き抜く。
「この時は私も担任を持ってたから、もしかすると教え子かもしれないわね。とりあえずそこにでも座って」
園長先生はキャビネットに近い長机とパイプ椅子を指差す。資料整理用の机だろうか。俺と美波さんは顔を見合わせてから並んで座った。
「さすがに俺たちのことは覚えてませんよね」
「大きくなってなかったら分かると思うけど、みんな成長しちゃうから」
「まるで成長して欲しくないみたいですね」
園長先生は話しながら俺たちの反対側に座ってファイルを開く。
「成長を見るのは楽しいのよ。でも正直言うとやっぱり小さい子供たちは可愛いからあまり大きくなって欲しくないって思ったりもするわね」
「ぶっちゃけますね」
「もうあなたたちは子供じゃないからね。ほら、これが十年前の卒園式の集合写真」
目の前に出されたのは二十人ほどの二クラスがそれぞれ集合して写真に写っている写真だった。しかし、見せられたところで自分がどれか分からなかった。
丸眼鏡をかけた初老の女性。笑い皺が深く刻まれた、見た目から優しさが溢れる女性だ。一人しかいないのでその人が園長先生で間違いないだろう。
俺と美波さんが近寄ると、園長先生は書類仕事をしていた顔を上げる。
「あら、お迎えの家族の方?」
園長先生はそう言って立ち上がったが、俺は咄嗟に両手を振って否定する。
「いえ、昔ここに通っていた者なんですが、たまたま近くに来て懐かしくなったので寄らせてもらいました」
「そうだったの。二人は高校生? じゃあ十年くらい前かしら」
「えっと、今高校一年生になったところなので……」
俺はそう言いながら何年前に幼稚園に通っていたのか頭の中で計算していると、園長先生は即座に答えた。
「十年前に年長さんね。ちょっとこっちにいらっしゃい」
園長先生は嬉しそうに微笑むとキャビネットが並ぶ場所まで移動した。案内されたのは置いてある資料が何かテープに書いて表示されているキャビネットではなく、背表紙もない不揃いのファイルが刺さったキャビネットだった。
「ここには毎年たくさん撮ってた写真がまとめられてあるの。最近はデジタルばかりだから減ってきてるけどね。十年前から十二年前だとこの辺かしら」
そう言いながらファイルを一冊手に取り、続けて二冊引き抜く。
「この時は私も担任を持ってたから、もしかすると教え子かもしれないわね。とりあえずそこにでも座って」
園長先生はキャビネットに近い長机とパイプ椅子を指差す。資料整理用の机だろうか。俺と美波さんは顔を見合わせてから並んで座った。
「さすがに俺たちのことは覚えてませんよね」
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園長先生は話しながら俺たちの反対側に座ってファイルを開く。
「成長を見るのは楽しいのよ。でも正直言うとやっぱり小さい子供たちは可愛いからあまり大きくなって欲しくないって思ったりもするわね」
「ぶっちゃけますね」
「もうあなたたちは子供じゃないからね。ほら、これが十年前の卒園式の集合写真」
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