サイコミステリー

色部耀

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39.パシり

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 それから翌日の放課後。初めての授業を一日終えたところで美波さんが話しかけてきた。まるで体育会系の部活の後輩が話しかけてくるかのような勢いに身構えてしまう。美波さんは今日一日、休み時間の度に俺の隣に来ていた。仲の良い友達だから……などという単純な理由ではない。他愛のない普通の会話をしていたわけでもない。では一体何をしていたのかというと、頭を抱えたくなるようなことだ。

「真壁君。お疲れ様です。何かお困りごとはありませんか? 疲れていませんか? 肩でもお揉み致しましょうか?」

 疲れてもいないし、肩なんて凝っているはずもない。困っていることと言えば同級生の女の子が休み時間の度に俺のご機嫌取りをしに来るということだろうか。あからさまなゴマすり。映画などで偉い人が様々な接待を受けているのを見て楽そうだと思ったこともあるが、実際にこうして気遣われてしまうと気疲れの方が強い。

「付き人でもなければ奴隷でもないんだからそんなことしなくていいよ美波さん」

「では小腹が減ったりはしていませんか? コンビニまで焼きそばパンでも買いに行ってきましょうか」

「パシリでもないからしなくていい」

 美波さんの提案を悉く断ると、小さな美波さんはより小さくなってしょんぼりとしてしまった。昨日なんでもするから一人にしないでなどと言っていたけれど、本当に何でもする勢いで困ってしまう。記憶喪失で不安なのは分かるが、これは流石にどうにかして欲しい。

「私が真壁君の為にできることはなにかないですか? 真壁君が私なんかと一緒にいてくれる為になにかしないと」

「いや、そんな卑屈なこと言われても……」

 しかし、ここはなにか頼みごとでもして一時しのぎをするべきか。簡単な頼みごとでもして美波さんに納得してもらった方が得策な気もする。とはいえ美波さんが大変な思いをするようなことは気が引けるし罪悪感がある。適度な頼みごとか――

「じゃあ、今日もお父さんのお見舞いに付いて行かせてよ。また美波さんのお父さんと話をしたいしさ」

「父親からは毎日顔を見せに来るように言われていますし、構いませんが……。いつの間にそんな仲良くなったんですか?」

「うーん。これから仲良くなるんだよ」

 美波さんは俺の答えに納得がいかないのか、少し首を傾げていた。言葉がよく聞き取れなかった時の子犬みたいだ。そんなことを言ったらまた美波さんは首を傾げてしまうのだろう。これ以上首の傾斜をつけさせたくはないので言わないけれど。

「では今から向かいましょうか。あと、その、私如きの差し出がましいお願いなのですが……」

「その言い方はやめて欲しいけど。お願いって?」

 美波さんは俺がやめて欲しいと言ったことには何のリアクションもせず、申し訳なさそうにお願いとやらを口に出した。

「今日は……今の実家に引っ越す前の場所に付き合っていただきたいと思いまして……」
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