サイコミステリー

色部耀

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37.子供

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 それは今日の昼以降の半日を共に過ごしてよく分かっている。教室で誰かに話しかけられようものなら逃げる。言葉通りの意味で逃げる。小型の草食動物のように逃げる。その警戒心は見ていて心配になるほどだ。

「それなのに真壁君にだけは懐いてるし、真壁君もそんな美波さんと仲良くできてる」

「懐いてるって……」

 確かにその表現が一番しっくりくるけれども……。

「だからコツを教えて欲しいの!」

「は?」

 これで驚くのは三度目だ。

「私も美波さんと仲良くしたいなーって。えへへ。借りてきた猫みたいで可愛いし。せっかく同じクラスの友達になったんだから」

 流石にちゃんと話せない相手を友達と呼ぶのはどうかとも思うけど、橘さんの基準ではそんなことも関係ないのだろう。しかし……

「コツって言われてもなー」

 出会い方が特殊だったというのもあるけど、話かけてきたのは美波さんからだ。俺はこれといって何かをしたわけではない。共に行動するきっかけはあるが、美波さんから話しかけてきた理由も分からない。

「雰囲気……とか?」

「確かに! 言われてみれば真壁君って威圧感とかオーラみたいなのが一切ないもんね。えへへ」

「それ褒めてる?」

 橘さんの発言からは度々侮辱されている感じがしてならない。表情からも話し方からも全く悪意は無さそうだけど。

「褒めてるよー。なんだかおばあちゃんちのカビ臭い畳みたいな安心感があっていいと思う。えへへ」

「本当に褒めてるつもり?」

「でも美波さんが話してくれる理由が雰囲気とかだったら、時間かかりそうだなー」

 どうやら橘さんは諦めないつもりがないらしい。悪いことではない。お父さんも美波さんの学校生活を心配していたし。しかし……

「歓迎パーティで先輩に捕まって泣きそうだったしな……」

 先輩から解放された後に文句を言われたことを思い出す。

「どうにか……話くらいできないか聞いてみようか」

「やったー! えへへ。楽しみだなー」

 橘さんはふにゃりと笑いながら体を左右に揺らす。全身から楽しそうな空気を醸し出す。教室でもこうしていつも楽しそうで嬉しそうな様子を隠さず出しているからこそ彼女は誰とでも分け隔てなく接することができているのかもしれない。美波さんにも見習って欲しい。いつも手を引いて歩かないといけない子供ではないのだから……。
 手を引いて歩かないといけない子供……か……。想像するとなんだかしっくりくる。子供の手を引いて歩いたことなんてないはずなのに。なんだか不思議な感覚だ。

「待てー!」

 小さな美波さんの手を引くことを想像してニヤニヤしていると、少し遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
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