8 / 65
7.案内
しおりを挟む
愛想笑いで誤魔化すような答え。小西先生も困ったように小さく溜息をついている。小西先生としてはもっと俗物的な答えを求めていたのだろう。しかし美波さんは答えることすら拒否しているかのようだった。
「今すぐ私を信用して全て話せなんて酷なことは言わん。今後の人生に関わることだからゆっくりでいい。だが私はその為に協力は惜しまないとだけは覚えておいて欲しい」
小西先生は無理に答えを出すように強要することはせず、そう言って持っていた鞄からプリントを取り出した。俺と美波さんの目の前に一枚ずつ。そのプリントには罫線だけが引かれていて、何かの文章を書くためだけの用紙と言った風だった。
「これから毎週月曜日の放課後に簡単な面談をさせてもらう。その時にやりたいことや一週間の中で感情が揺さぶられたことについて聞くつもりだから、その報告資料として簡単にで良いから何か書いておけ」
「分かりました……」
俺はそう答えると鞄のファスナーを開けて中にプリントをしまった。美波さんも同様に通学鞄を開いてプリントを中に入れる。分かりましたと言いはしたものの、内心では面倒で仕方なかった。どうせ一週間でそんなに人生観が変わったり感情的になったりするようなことが起こるはずもない。来週の月曜日に何を書くか悩んでいる自分が目に浮かぶ。
「できれば未確定能力者同士、二人には協力して学校生活を送ってもらいたい。特殊能力が分かっていないことで何かと学校生活で問題が起きるかもしれないしな」
何かと学校生活で問題が起きる……。それは暗にいじめ問題に発展する可能性があることを示唆しているのだろうか。変わり者はいじめのターゲットになりやすいというのは十五年も生きていれば分かること。俺たちがそのターゲットにならないように祈るばかりだ。ホームルームの自己紹介ではいじめが起きるような感じはしなかったのであまり不安は無いけれど。
「長い時間拘束して悪かったな。まだ食堂で飯を食べるには十分時間があると思うから廊下は走るんじゃないぞ。あと、コップはそのまま置いといてくれていいから」
小西先生はそう言って立ち去って行った。残された俺たちの目の前には小西先生が用意してくれた湯のみが二つ遠慮気味に湯気を立てている。
「じゃあ行こっか」
「あの……」
俺が鞄を手に持って立ち上がると美波さんはそう言って上目遣いで見てきた。何か言いたいことがあるのだろう。少し申し訳なさそうな怯えたような様子が小動物っぽさを感じさせる。
「食堂の場所が分からないので案内してもらえませんか?」
「今すぐ私を信用して全て話せなんて酷なことは言わん。今後の人生に関わることだからゆっくりでいい。だが私はその為に協力は惜しまないとだけは覚えておいて欲しい」
小西先生は無理に答えを出すように強要することはせず、そう言って持っていた鞄からプリントを取り出した。俺と美波さんの目の前に一枚ずつ。そのプリントには罫線だけが引かれていて、何かの文章を書くためだけの用紙と言った風だった。
「これから毎週月曜日の放課後に簡単な面談をさせてもらう。その時にやりたいことや一週間の中で感情が揺さぶられたことについて聞くつもりだから、その報告資料として簡単にで良いから何か書いておけ」
「分かりました……」
俺はそう答えると鞄のファスナーを開けて中にプリントをしまった。美波さんも同様に通学鞄を開いてプリントを中に入れる。分かりましたと言いはしたものの、内心では面倒で仕方なかった。どうせ一週間でそんなに人生観が変わったり感情的になったりするようなことが起こるはずもない。来週の月曜日に何を書くか悩んでいる自分が目に浮かぶ。
「できれば未確定能力者同士、二人には協力して学校生活を送ってもらいたい。特殊能力が分かっていないことで何かと学校生活で問題が起きるかもしれないしな」
何かと学校生活で問題が起きる……。それは暗にいじめ問題に発展する可能性があることを示唆しているのだろうか。変わり者はいじめのターゲットになりやすいというのは十五年も生きていれば分かること。俺たちがそのターゲットにならないように祈るばかりだ。ホームルームの自己紹介ではいじめが起きるような感じはしなかったのであまり不安は無いけれど。
「長い時間拘束して悪かったな。まだ食堂で飯を食べるには十分時間があると思うから廊下は走るんじゃないぞ。あと、コップはそのまま置いといてくれていいから」
小西先生はそう言って立ち去って行った。残された俺たちの目の前には小西先生が用意してくれた湯のみが二つ遠慮気味に湯気を立てている。
「じゃあ行こっか」
「あの……」
俺が鞄を手に持って立ち上がると美波さんはそう言って上目遣いで見てきた。何か言いたいことがあるのだろう。少し申し訳なさそうな怯えたような様子が小動物っぽさを感じさせる。
「食堂の場所が分からないので案内してもらえませんか?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる