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4.ボーイミーツガール
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寮の食堂とは逆で、使う階段も違ったため教員以外にすれ違う人はいない。遠くから聞こえる生徒の声以外は静かなものだった。
生徒指導室に着き小西先生がノックをして扉を開ける。中はすっきりとしていて教室の椅子より上質な椅子と長机が置いてある程度。壁一面にキャビネットが立っているが、中にはファイルがぴっちりと並んでいるだけ。余分なものは置いていないといった印象。そして生徒指導室にはまだ誰もいなかった。
「美波はまだか……」
小西先生はそう言って部屋を見渡すと廊下へと出る。
「茶くらい用意してやるから座ってゆっくり待ってろ」
「はい」
俺は鞄を膝の上に乗せて椅子に座った。出入り口に背中を向けて座る形なので窓から外の景色が見える。窓から見えるのは木々が植えられている校庭のため、自然豊かな土地にいるような感覚になる。大都会東京でも緑が多い場所はあるものだな。この学校では景色を楽しむこともできそうだ。
とはいえ、小西先生が帰って来るまで景色を見ているだけなのも暇だ。
「あ……」
そういえば宮城から聖書とやらを渡されていた。流石に暇なのでちょっとくらい見てみるか。鞄からビニール袋を取り出して中に手を入れる。
「なんだこれ……?」
ビニール袋に入っていたのは宗教の聖書なんかではなかった。表紙を見ただけで分かる。表紙の半分以上の面積が肌色なのではないかという本。いや漫画だった。俺も漫画は人並みに読むし、オタクだからどうとか偏見も特にないが、流石に今手に持っている漫画には眉を顰める。なぜなら表紙にはっきりとR18の文字が書かれていたのだから。
俺はすぐさまビニール袋にしまい直すと鞄の奥底に押し込む。
初対面相手になんてものを渡すんだあいつは……。しかもどう見てもロリコン系のエロ漫画……。
頭を抱えて机に肘をつくと大きなため息が出る。教室に戻ったら突き返そう――そう心に誓った時、背後で扉が開く音がした。
鞄の奥底に閉まったにもかかわらず、俺は焦って鞄のファスナーもしっかり閉めると姿勢を正した。やましいことは……してない……はずだ。柔らかくゆっくりとした足音が近付いてくる。
……ん?
そこで俺は特徴的な小西先生の足音とは違うことに気が付いた。小西先生はリズミカルで硬質な足音を立てていたはず。そう考えているとフワッと懐かしい香りがした。ほんのり甘くて優しい感じのする香り。どこで嗅いだのだろう。何かを思い出すような気がする。どこかを歩いていた時のような誰かと走った時のような。そんな不思議と意識が過去を遡ってしまう――そんな香り。
「あの……」
俺が何の香りだったか思い出そうとしていると肩口から声をかけられた。結局いつ嗅いだ香りかは思い出せないまま振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。とても小柄で華奢で少しの風で倒れてしまいそうな女の子。肩甲骨あたりまで伸ばした髪が傾げた頭に釣られて少し広がる。綺麗なストレートの髪から何か葉っぱのようなものが落ちたが、それすらもちょっと絵になるような気がした。
「ここって生徒指導室で合ってます……よね?」
「ああ、うん」
「よかったー」
緊張した面持ちだった彼女はそう言うとふにゃりと笑って俺の反対側に座った。綺麗な少女といった印象の彼女だったが、急に幼い女の子のような雰囲気に変わる。
「ところで、あなたは初日から何か悪いことでもしたんですか?」
「いきなり失礼な人だな」
不思議そうな顔の彼女は真剣にそう思って聞いたのだろう。だからこそ心から失礼だとも思える。俺がそんな初日から悪いことをするような変わった人間に見えるというのだろうか。心外だ。心底心外だ。
「失礼も何も生徒指導室ってそういう部屋じゃないんですか?」
「別に悪いことしなくても何かしらの指導のために呼ばれることもあるだろ。じゃあ言わせてもらうけど、君だって初日から生徒指導室に呼ばれてるわけだから同じだぞ?」
「え、同じって意味がよく分かりません。あなた、みんなから変わってるって言われませんか?」
「変わってるって言うな。俺は普通だ」
生徒指導室に着き小西先生がノックをして扉を開ける。中はすっきりとしていて教室の椅子より上質な椅子と長机が置いてある程度。壁一面にキャビネットが立っているが、中にはファイルがぴっちりと並んでいるだけ。余分なものは置いていないといった印象。そして生徒指導室にはまだ誰もいなかった。
「美波はまだか……」
小西先生はそう言って部屋を見渡すと廊下へと出る。
「茶くらい用意してやるから座ってゆっくり待ってろ」
「はい」
俺は鞄を膝の上に乗せて椅子に座った。出入り口に背中を向けて座る形なので窓から外の景色が見える。窓から見えるのは木々が植えられている校庭のため、自然豊かな土地にいるような感覚になる。大都会東京でも緑が多い場所はあるものだな。この学校では景色を楽しむこともできそうだ。
とはいえ、小西先生が帰って来るまで景色を見ているだけなのも暇だ。
「あ……」
そういえば宮城から聖書とやらを渡されていた。流石に暇なのでちょっとくらい見てみるか。鞄からビニール袋を取り出して中に手を入れる。
「なんだこれ……?」
ビニール袋に入っていたのは宗教の聖書なんかではなかった。表紙を見ただけで分かる。表紙の半分以上の面積が肌色なのではないかという本。いや漫画だった。俺も漫画は人並みに読むし、オタクだからどうとか偏見も特にないが、流石に今手に持っている漫画には眉を顰める。なぜなら表紙にはっきりとR18の文字が書かれていたのだから。
俺はすぐさまビニール袋にしまい直すと鞄の奥底に押し込む。
初対面相手になんてものを渡すんだあいつは……。しかもどう見てもロリコン系のエロ漫画……。
頭を抱えて机に肘をつくと大きなため息が出る。教室に戻ったら突き返そう――そう心に誓った時、背後で扉が開く音がした。
鞄の奥底に閉まったにもかかわらず、俺は焦って鞄のファスナーもしっかり閉めると姿勢を正した。やましいことは……してない……はずだ。柔らかくゆっくりとした足音が近付いてくる。
……ん?
そこで俺は特徴的な小西先生の足音とは違うことに気が付いた。小西先生はリズミカルで硬質な足音を立てていたはず。そう考えているとフワッと懐かしい香りがした。ほんのり甘くて優しい感じのする香り。どこで嗅いだのだろう。何かを思い出すような気がする。どこかを歩いていた時のような誰かと走った時のような。そんな不思議と意識が過去を遡ってしまう――そんな香り。
「あの……」
俺が何の香りだったか思い出そうとしていると肩口から声をかけられた。結局いつ嗅いだ香りかは思い出せないまま振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。とても小柄で華奢で少しの風で倒れてしまいそうな女の子。肩甲骨あたりまで伸ばした髪が傾げた頭に釣られて少し広がる。綺麗なストレートの髪から何か葉っぱのようなものが落ちたが、それすらもちょっと絵になるような気がした。
「ここって生徒指導室で合ってます……よね?」
「ああ、うん」
「よかったー」
緊張した面持ちだった彼女はそう言うとふにゃりと笑って俺の反対側に座った。綺麗な少女といった印象の彼女だったが、急に幼い女の子のような雰囲気に変わる。
「ところで、あなたは初日から何か悪いことでもしたんですか?」
「いきなり失礼な人だな」
不思議そうな顔の彼女は真剣にそう思って聞いたのだろう。だからこそ心から失礼だとも思える。俺がそんな初日から悪いことをするような変わった人間に見えるというのだろうか。心外だ。心底心外だ。
「失礼も何も生徒指導室ってそういう部屋じゃないんですか?」
「別に悪いことしなくても何かしらの指導のために呼ばれることもあるだろ。じゃあ言わせてもらうけど、君だって初日から生徒指導室に呼ばれてるわけだから同じだぞ?」
「え、同じって意味がよく分かりません。あなた、みんなから変わってるって言われませんか?」
「変わってるって言うな。俺は普通だ」
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