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カンドの洞窟突入
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そんな調子でカンドの森を進んでいるうちにリスボールのレベルも六まで上がり、洞窟に着く前にベリルちゃんもアドベンチャーらしい戦い方が出来るようになった。
「リスボール! リスカット!」
洞窟の入口を目前にした最期のバックキャット戦。素早く接近したリスボールがバックキャットの前脚を斬り裂く。やはりリスカットは巷で噂の攻撃モーションだった。手首を確実に狙ってクリティカルヒットを出す。
「やったー! リスボール! レベルアップよ!」
バックキャットを倒したところでリスボールのレベルが七に上がる。原作と比べて異常に高いエンカウント率のお陰で一気に七まで上がった。本来ならカンドの洞窟は平均レベル五で突入するダンジョンだ。これならベリルちゃんとリスボールだけでも楽にバハムート前のボスも倒せるだろう。
俺たちはマナの戦闘技術向上以外にバトルをする旨味が無いし、ベリルちゃんたちに任せるのもアリだろう。
「このまま順調に行けば良いんだけどな」
俺の後ろで台車に乗ったままのリロがそう呟く。変なフラグを立てないでいただきたいところ。
「ねえリョウ。カンドの洞窟ってどんなモンスターが出るの?」
そう聞いてきたのはマナだった。ゲームでとはいえ世界中を回ったことがあると知っているマナだからこその質問だ。
「レベル四から六のクモマン、マキマキ、アンダーション、がランダムに出るはず。クモマンとマキマキは相手を麻痺状態にするスキルを持ってるから気をつけること。アンダーションは防御力を下げてくる『溶かす』ってスキルを使うが無視できるだろう。まあ、食らってもすぐにキュアで治せるから安心しろ。ステータスも高くないから余裕余裕」
「リョウが余裕って言うなら安心かな。でもやっぱり今回はベリルちゃんたちに任せるの?」
「うーん……。俺とマナも初めて戦う敵だから少しは戦闘経験として戦った方が良いだろうな」
「そうこなくっちゃ!」
いつの間にかマナがバトルジャンキーみたいになってしまっている。強くなってもらうに越したことはないけど少し複雑だ。
「ねえみんな。洞窟に入る前にお昼ご飯にしない?」
メニューウィンドウを開くと時計には十一時と表示されていた。昼食には少し早いけど、洞窟の往復を考えると今しか時間がないかもしれない。
「あ、食べるもの用意してなかった」
「は? ふざけてんの? 食べるもの無いとかありえない。今すぐ取りに帰って。走って! ダッシュ!」
昼食の準備をしていなかった俺を物凄い剣幕で怒鳴ったのはリロだった。背後から俺の頭を鷲掴みにして激しく前後に揺さぶる。
「ん? ちゃんとみんなの分も用意してきたから大丈夫よ?」
「あなたが神か!」
「神はお前だよ」
ベリルちゃんに飛びついて目を輝かせる元女神。ベリルちゃんはリロに喜んでもらえたことが嬉しいようで、満面の笑みを浮かべてメニューウィンドウを開く。メニューウィンドウを操作したベリルちゃんの目の前には大きなバスケットが。
「食べ物もアイテムに仕舞えるんだ」
「ん? 当たり前じゃない?」
俺のメニューウィンドウと機能が違う可能性もあるが、後で試してみる価値はある。
ベリルちゃんがバスケットを開けると中にはサンドイッチがぎゅうぎゅうに詰めてあった。
「おおー!!」
そう言って目を輝かせているのはやはりリロ。リロのリアクションも大袈裟とは言えないほどに美味しそうだ。
「みんな仲良く召し上がれ。カンド牧場特製のサンドイッチですよー」
「いただきまーす!」
リロは迷わずサンドイッチを手に取ると貪りつく。美味しそうに頬張るリロに釣られて俺も手を伸ばしたとき、隣でマナが恐る恐る聞いた。
「カンド牧場特製って……。それ食べたら卵産んじゃうとか無いよね?」
俺はその言葉で腕を止める。リロもピタリと動きを止めた。ベリルちゃんはマナの質問にすぐ答えず、誰も喋らない空間で風が木々を揺らす音だけが不気味に聞こえる。
しばらくの静寂の後、ベリルちゃんはゆっくりと口を開いた。
「そんなわけないじゃん」
「そんなわけないだろ。マナは馬鹿だなー」
「あ! 絶対リョウは分かってなかった! ずるい!」
「ずるくない! 俺は何も言ってない! ほら、早く食べないと全部リロに食べられるぞ」
「あー! リロもずるいー!」
リロはマナの発言に反論もせずに黙々と食べ続ける。俺とマナも負けじと急いでサンドイッチを食べるが、ベリルちゃんはニコニコと俺たちの様子を見ているだけだった。
「ベリルちゃん。他にもまだあるんだったら言ってよねー」
バスケット一つ分を食べ終わったところでベリルちゃんは更に同じ大きさのバスケットを取り出したのだった。一つでも余裕で五人前はあったのだから、それがもう一つ出てきたらマナのような文句も出て当然だろう。
「四箱持ってきてるよ。ヨンドイッチあるよ」
「サンドイッチのサンは数字の三じゃない!」
「じゃあサンドヨッン?」
「待って。え、待って。ベリルちゃんまで私のこと馬鹿にしてる?」
「あはは。してないしてない」
マナがベリルちゃんに馬鹿にされながらも二つ目のバスケットも空になる。十人前ほどだっただろうか。モンスター三体にも一人前ずつくらい食べさせたとはいえ、四人で約七人前……。もちろん主犯は台車に寝転がって小枝で歯に挟まった食べカスを取っている元女神。
「よし。腹も満たされたことだし、カンドの洞窟に突入しますか!」
「「おー!」」
マナとベリルちゃんが声を合わせて返事をすると、揃ってカンドの洞窟に足を踏み入れた。
カンドの洞窟に入った俺たちは急に下がった気温に身震いしつつも、ゆっくりと進んでいた。気温は低いのに湿度が高く、足下も気を付けないと濡れた岩肌に滑ってしまう。
原作だと暗さで視界が狭まる演出があったが、ライトもないので奥は何も見えない。
「リョウ。これ」
隣にいたベリルちゃんが俺の腕をつついて教えてくれた。
「メニュー出せば、その明かりで近くは見えるようになるよ」
そう言って実演してくれたベリルちゃん。メニューウィンドウの明かりは暗い部屋でテレビを付けているくらいの光量があり、足下を確認して歩くには十分だった。俺もベリルちゃんに倣ってメニューウィンドウを出すと、二つ分の明かりで不自由なく探索できそうだ。
「ありがとうベリルちゃん。……あれ? 先輩って呼ぶのやめたの?」
「やっぱり名前呼びの方が身近な感じがしていっかなって」
「かーわーいーいー」
「えへへ」
「けっ!! けっ!!」
ん? マナは歯にサンドイッチでも挟まったのかな?
「ひとまずは突き当たりまでまっすぐ進もう」
最短ルートではないが、もっとも迷うことなく奥まで行くことができるルート。外と比べて暗いため安全な道を通りたかった。
「それにしてもリョウって、遠くの国で育ったのに詳しかったりするよね? なんで?」
ベリルちゃんは意外と痛いところをついてくる。しかしそれに対してどう答えるかは決めていた。
「それは秘密だ」
「なんで?」
「ミステリアスな男の方がカッコいい」
「ミステリアスな男の方がカッコいい……確かに!」
「だろー」
ベリルちゃんは素直な良い子でよかった。これからもこんな感じで誤魔化していこう。何故か隣から冷ややかな視線を感じるが、おそらく洞窟の気温のせいだろう。
「この突き当たりを左に曲がるとすぐに十字路があるから、そこをまた左だ」
そう言って突き当たりまで来たところで曲がると、目を疑いたくなる光景があった。
「なに? なにこいつら!」
「なんでこんなにいるんだ?」
俺も予想外だった。角を曲がってすぐ。そこには通路の先が見えないほどにひしめき合うクモマンの姿が……。クモマンとは、裸の男性のような姿で四本の手と四本の足を使って歩行し口から糸を吐く獣タイプのファイターだ。実物を見ると気持ち悪さが凄い。キマイルにも負けない気持ち悪さ。スキル「糸巻き」で麻痺状態にしてからの通常攻撃が鬱陶しいモンスターだ。
原作ではモンスターは一体ずつしかエンカウントしないため、こちらが複数パーティなら何も問題なく倒せる。しかし、目の前のクモマンは両手で数え切れないほどの群れになっていた。
「リスボール! リスカット!」
洞窟の入口を目前にした最期のバックキャット戦。素早く接近したリスボールがバックキャットの前脚を斬り裂く。やはりリスカットは巷で噂の攻撃モーションだった。手首を確実に狙ってクリティカルヒットを出す。
「やったー! リスボール! レベルアップよ!」
バックキャットを倒したところでリスボールのレベルが七に上がる。原作と比べて異常に高いエンカウント率のお陰で一気に七まで上がった。本来ならカンドの洞窟は平均レベル五で突入するダンジョンだ。これならベリルちゃんとリスボールだけでも楽にバハムート前のボスも倒せるだろう。
俺たちはマナの戦闘技術向上以外にバトルをする旨味が無いし、ベリルちゃんたちに任せるのもアリだろう。
「このまま順調に行けば良いんだけどな」
俺の後ろで台車に乗ったままのリロがそう呟く。変なフラグを立てないでいただきたいところ。
「ねえリョウ。カンドの洞窟ってどんなモンスターが出るの?」
そう聞いてきたのはマナだった。ゲームでとはいえ世界中を回ったことがあると知っているマナだからこその質問だ。
「レベル四から六のクモマン、マキマキ、アンダーション、がランダムに出るはず。クモマンとマキマキは相手を麻痺状態にするスキルを持ってるから気をつけること。アンダーションは防御力を下げてくる『溶かす』ってスキルを使うが無視できるだろう。まあ、食らってもすぐにキュアで治せるから安心しろ。ステータスも高くないから余裕余裕」
「リョウが余裕って言うなら安心かな。でもやっぱり今回はベリルちゃんたちに任せるの?」
「うーん……。俺とマナも初めて戦う敵だから少しは戦闘経験として戦った方が良いだろうな」
「そうこなくっちゃ!」
いつの間にかマナがバトルジャンキーみたいになってしまっている。強くなってもらうに越したことはないけど少し複雑だ。
「ねえみんな。洞窟に入る前にお昼ご飯にしない?」
メニューウィンドウを開くと時計には十一時と表示されていた。昼食には少し早いけど、洞窟の往復を考えると今しか時間がないかもしれない。
「あ、食べるもの用意してなかった」
「は? ふざけてんの? 食べるもの無いとかありえない。今すぐ取りに帰って。走って! ダッシュ!」
昼食の準備をしていなかった俺を物凄い剣幕で怒鳴ったのはリロだった。背後から俺の頭を鷲掴みにして激しく前後に揺さぶる。
「ん? ちゃんとみんなの分も用意してきたから大丈夫よ?」
「あなたが神か!」
「神はお前だよ」
ベリルちゃんに飛びついて目を輝かせる元女神。ベリルちゃんはリロに喜んでもらえたことが嬉しいようで、満面の笑みを浮かべてメニューウィンドウを開く。メニューウィンドウを操作したベリルちゃんの目の前には大きなバスケットが。
「食べ物もアイテムに仕舞えるんだ」
「ん? 当たり前じゃない?」
俺のメニューウィンドウと機能が違う可能性もあるが、後で試してみる価値はある。
ベリルちゃんがバスケットを開けると中にはサンドイッチがぎゅうぎゅうに詰めてあった。
「おおー!!」
そう言って目を輝かせているのはやはりリロ。リロのリアクションも大袈裟とは言えないほどに美味しそうだ。
「みんな仲良く召し上がれ。カンド牧場特製のサンドイッチですよー」
「いただきまーす!」
リロは迷わずサンドイッチを手に取ると貪りつく。美味しそうに頬張るリロに釣られて俺も手を伸ばしたとき、隣でマナが恐る恐る聞いた。
「カンド牧場特製って……。それ食べたら卵産んじゃうとか無いよね?」
俺はその言葉で腕を止める。リロもピタリと動きを止めた。ベリルちゃんはマナの質問にすぐ答えず、誰も喋らない空間で風が木々を揺らす音だけが不気味に聞こえる。
しばらくの静寂の後、ベリルちゃんはゆっくりと口を開いた。
「そんなわけないじゃん」
「そんなわけないだろ。マナは馬鹿だなー」
「あ! 絶対リョウは分かってなかった! ずるい!」
「ずるくない! 俺は何も言ってない! ほら、早く食べないと全部リロに食べられるぞ」
「あー! リロもずるいー!」
リロはマナの発言に反論もせずに黙々と食べ続ける。俺とマナも負けじと急いでサンドイッチを食べるが、ベリルちゃんはニコニコと俺たちの様子を見ているだけだった。
「ベリルちゃん。他にもまだあるんだったら言ってよねー」
バスケット一つ分を食べ終わったところでベリルちゃんは更に同じ大きさのバスケットを取り出したのだった。一つでも余裕で五人前はあったのだから、それがもう一つ出てきたらマナのような文句も出て当然だろう。
「四箱持ってきてるよ。ヨンドイッチあるよ」
「サンドイッチのサンは数字の三じゃない!」
「じゃあサンドヨッン?」
「待って。え、待って。ベリルちゃんまで私のこと馬鹿にしてる?」
「あはは。してないしてない」
マナがベリルちゃんに馬鹿にされながらも二つ目のバスケットも空になる。十人前ほどだっただろうか。モンスター三体にも一人前ずつくらい食べさせたとはいえ、四人で約七人前……。もちろん主犯は台車に寝転がって小枝で歯に挟まった食べカスを取っている元女神。
「よし。腹も満たされたことだし、カンドの洞窟に突入しますか!」
「「おー!」」
マナとベリルちゃんが声を合わせて返事をすると、揃ってカンドの洞窟に足を踏み入れた。
カンドの洞窟に入った俺たちは急に下がった気温に身震いしつつも、ゆっくりと進んでいた。気温は低いのに湿度が高く、足下も気を付けないと濡れた岩肌に滑ってしまう。
原作だと暗さで視界が狭まる演出があったが、ライトもないので奥は何も見えない。
「リョウ。これ」
隣にいたベリルちゃんが俺の腕をつついて教えてくれた。
「メニュー出せば、その明かりで近くは見えるようになるよ」
そう言って実演してくれたベリルちゃん。メニューウィンドウの明かりは暗い部屋でテレビを付けているくらいの光量があり、足下を確認して歩くには十分だった。俺もベリルちゃんに倣ってメニューウィンドウを出すと、二つ分の明かりで不自由なく探索できそうだ。
「ありがとうベリルちゃん。……あれ? 先輩って呼ぶのやめたの?」
「やっぱり名前呼びの方が身近な感じがしていっかなって」
「かーわーいーいー」
「えへへ」
「けっ!! けっ!!」
ん? マナは歯にサンドイッチでも挟まったのかな?
「ひとまずは突き当たりまでまっすぐ進もう」
最短ルートではないが、もっとも迷うことなく奥まで行くことができるルート。外と比べて暗いため安全な道を通りたかった。
「それにしてもリョウって、遠くの国で育ったのに詳しかったりするよね? なんで?」
ベリルちゃんは意外と痛いところをついてくる。しかしそれに対してどう答えるかは決めていた。
「それは秘密だ」
「なんで?」
「ミステリアスな男の方がカッコいい」
「ミステリアスな男の方がカッコいい……確かに!」
「だろー」
ベリルちゃんは素直な良い子でよかった。これからもこんな感じで誤魔化していこう。何故か隣から冷ややかな視線を感じるが、おそらく洞窟の気温のせいだろう。
「この突き当たりを左に曲がるとすぐに十字路があるから、そこをまた左だ」
そう言って突き当たりまで来たところで曲がると、目を疑いたくなる光景があった。
「なに? なにこいつら!」
「なんでこんなにいるんだ?」
俺も予想外だった。角を曲がってすぐ。そこには通路の先が見えないほどにひしめき合うクモマンの姿が……。クモマンとは、裸の男性のような姿で四本の手と四本の足を使って歩行し口から糸を吐く獣タイプのファイターだ。実物を見ると気持ち悪さが凄い。キマイルにも負けない気持ち悪さ。スキル「糸巻き」で麻痺状態にしてからの通常攻撃が鬱陶しいモンスターだ。
原作ではモンスターは一体ずつしかエンカウントしないため、こちらが複数パーティなら何も問題なく倒せる。しかし、目の前のクモマンは両手で数え切れないほどの群れになっていた。
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