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モンスター牧場解禁

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「これはどうしようかな」

 俺は二つの首輪を手に持ってリロに問いかけた。リロは台車に横になってボリボリとお尻をかいている。休日のオヤジか。

「蘇生アイテムは?」

「一応全回復で生き返る蘇生の巻物を九十九個に増やして持ってるけど」

「使えばいいじゃん。なんで私に聞くの? めんどい」

 リロは寝返りをうつと大きくあくびをした。本当にリロにとってはどうでもいいらしい。

「ウサプーは戦闘員として今は必要だけど、マナは使い物にならないしうるさいだけだから、後で生き返らせたのでもいいかなって」

「じゃあそうしたら? いいから早く牧場戻ってよ。早く私に悠々自適な牧場ライフを満喫させて」

「新しいゲームみたいなタイトルだな。いっっぢぁっっ!!」

 俺は股を抑えてのたうちまわることになった。この痛みは間違いなく黄金の衝撃。食い込みヒップキャットの反撃が子供の遊びに思えるような痛み。しかしHPはほとんど減っていない。

「この世界の仕組みはいったいどうなってんだよ」

「神さまにでも聞いたら?」

「神さまはお前だろ、いや、すみません。ごめんなさい。もうやめてください」

 デコピンの素振りをするリロを見て肝を冷やした俺はやめるように懇願する。

「分ったらよろしい。神さまに聞きたいことがあるなら前みたいにメニューでJS呼び出せばいいじゃん。でもめんどいから私の見えないとこでやってよね」

「JS……アウストですね。はい……」

 リロを不快にしてはいけない。リロに反論してはいけない。見事に躾けられてしまった俺は素直にそう答えるだけだった。
 しかし実際に神の力を使えなくなったリロより、隔離されているとはいえ神域で神の力を使えるアウストの方が頼りになる可能性は高いだろう。今度リロが見えないような場所で連絡を取ってみよう。俺が知らないことで俺たちが知るべき情報もあるはずだ。リロを牧場に預けたあとあたりがちょうど良いかもしれない。


「全部聞こえてたんだからね! 酷くない?!」

 モンスター牧場の事務所前で蘇生の巻物を使ってマナとウサプーを生き返らせたところ、開口一番にそう怒鳴りつけられた。

「聞こえてたってどういうこと? 死んでたんじゃないの?」

「なんか幽霊みたいな感じで首輪のそばにいたのよ。初めての体験でちょっと面白かったけど」

「そうか。良かったな」

「うん。……って、その話じゃない! 使い物にならないしうるさいって酷くない?! そんなこと思ってたの?!」

「そんなこと思ってたってところは否定しないけど、流石に酷すぎるかと思ったからこうして生き返らせたんだよ。ありがとうは?」

「ありがとう」

「よろしい」

「って、違う!」

「ありがたくないの? 死んだままの方が良かった?」

「そういう訳じゃないけど……。リロー、リョウがいじめるー」

「ふむ。助けを求める声に応えるのも神の定めか。しゅっしゅっ!」

 リロはマナに抱きつかれると、台車に座ったままデコピンの素振りを始めた。

「リロ! リロ! そんなことより牧場の手続きを急いだ方がいいんじゃないか?」

「それもそうだな。ほら、リョウ早よ」

 俺はリロが乗った台車を自分の手で押して事務所へと入った。事務所の扉をくぐると、中にいたベリルちゃんが駆け寄ってくる。

「リョウ! お父さんがアドベンチャーになることを許してくれた! リョウのおかげだよ!」

「……そんな伝説級のモンスターを捕まえて帰ってきたら認めざるを得ないさ」

 奥のカウンターでベリルちゃんのお父さんが頭を抱えてぼやいている。流石モンスター牧場の経営者。モンスターについての知識がしっかりしている。

「ちょうど利用者登録も終わったところだ。ほれ、これが登録証」

 登録証を受け取るとメニューに新たな項目が増える。モンスター牧場と書かれた一覧だ。これからはモンスター牧場に預けているモンスターをメニューで確認することができる。

「牧場の説明を聞いていくかい?」

「お願いします」

「はいはーい! 私が説明する!」

 原作ではベリルちゃんのお父さんが説明してくれるはずなのだが、なぜかベリルちゃんが名乗りを上げた。原作との好感度の違い的なやつだろうか。俺としても可愛い巨乳の女の子から寄せられる好意が嬉しくないはずがない。いっそのこと共に冒険をしたい。マナとチェンジしたい。

「モンスター牧場では連れて歩けないモンスターを預かることができるの。モンスターは牧場に集まる魔力だけで生きられるから基本利用料はかからないけど、食事をさせる場合は追加料金をもらうからね」

「リョウ。私を預けるときは最高級以外ありえないから」

「はいはい」

 追加料金もたかが知れている。

「良い食事を与えるとレベルアップが早くなるからオススメだよ」

 原作と同様ならば、三段階ある食事プランでそれぞれアドベンチャーが獲得した経験値の十パーセント、二十五パーセント、五十パーセントが入るはず。値段も一日あたり十セト、五十セト、百セトと大したことはない。

「よし! じゃあ早速私を預けてもらおう。食事は最高級品で頼む」

 嬉しそうに立ち上がったリロ。だが牧場の説明はまだ続く。

「しばらく牧場に預けてるとモンスターは産卵するからね。そのときはメニューを通じて通知が行くから確認しに戻ってくるように」

「え、ちょっと待って。今なんて言った?」

 リロはまるでマナのように話を止めた。俺も原作と違ってこの世界だとどういう仕組みになるのか分からなかったから詳しく聞いておきたかったところだ。

「しばらく牧場に預けてるとモンスターは産卵するからね。そのときはメニューを通じて通知が行くから確認しに戻ってくるように」

「ちょっと、ちょーっと待って」

 リロはそう言うと真剣な顔で俺を見ると腕を掴んでベリルちゃんたちに声が聞こえない場所まで移動した。

「この世界を作った私もちゃんと認識してなかったんだけど、産卵ってどういうこと?」

「原作だと食事付きで牧場に累積で十日間預けると産卵しそうって通知がくる。そこで牧場に戻ると預けていたモンスターの産卵イベントがあって、さらに十日経つと卵が孵る」

 リロはバグったかのようにフリーズしていた。

「でもこの世界では、リロとかマナみたいに元がモンスターじゃない場合はどうなるか分からないと思うんだけど」

「……私が捕獲された瞬間にモンスターとしてこの世界に定着されたのは確認してる」

 リロは視線を落として小さく呟いた。

「念のため聞いておくけど、原作でマナと女神は産卵した?」

 リロはまるで俺が原作ゲーム内でマナと女神が産卵するか試したことがあると知っているかのような確信を持った質問をする。ゲーム内で出来ることは全てやったと言っても過言ではない俺。リロの考え通り、確かに産卵するかどうか試したことはある。

「女神もマナも問題なく産卵する」

「問題大アリよ!」

 リロはそう言って壁をバンバン叩く。

「でもこの世界でも同じか分からない。現にマナの増殖が無かったわけだから、産卵による増殖もないかもしれないだろ?」

「じゃあマナで試してからにして!」

「なんでっ?! なんで私?! 酷くない?! 私卵産むとか絶対無理!」

「私だって無理! 卵産むとか絶対無理!」

「じゃあ一緒に冒険したら良いじゃん!」

「だって牧場でスローライフ送りたいもん!」

「食事なしにしてたら産卵しないっっぢぁっっ!!」


 俺のアドバイスはすぐさま黄金の衝撃と共に否決された。

「ご飯もお腹いっぱい食べれなきゃ嫌!」

 リロはその言葉を最後に黙ってうずくまった。簡単に今のやり取りをまとめると、リロがわがままを言って思い通りにならないことを理解した結果拗ねたというところ。
 俺は俺で黄金の衝撃による痛みでうずくまっている。
 マナはウサプーを抱えたままため息をついて俺の隣にしゃがむ。
 会話の内容までは聞こえていなかったであろうベリルちゃんとベリルちゃんのお父さんは、座り込む俺たちを不思議そうな目で見ていた。


「では今回はまだ誰も預けないということでよろしいですね」

「はい」

「……」

 痛みから立ち直った俺がカウンターで話を済ませる。リロは相変わらず拗ねた様子で台車に体育座りをしていた。

「私はアドベンチャーの集まる町フォンに向かうつもりだけど、リョウたちはどうするの?」

 ベリルちゃんは俺の顔を覗き込んでそう尋ねる。目がキラキラしていてとても可愛い。それに胸元も大きく開いていてとても良い。

「俺たちはこの後鉄鉱石を取りにもう一度カンドの森に入る。明日は町長の病気を治す薬のためにカンドの洞窟に行くつもりだ」

「カンド苔? それなら私も一緒に行っていい?」

 原作だとどちらが先にカンド苔を手に入れるかという話になって競うように取りに行くのだが、アドベンチャーは協力し合うものという話をしたこの世界だとベリルちゃんの行動理念も変わってしまっているようだ。ただ、同じものを取りに行くという点では変わらないが……。

「ああ。明日の朝、町長に話をしてから出発する前にここに寄るよ」

「うん! また明日ね!」

 ベリルちゃんは嬉しそうにそう言うと楽しそうに飛び跳ねてリスボールと共に牧場へと出て行った。
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