10 / 28
黄金の衝撃とダークスパイラル
しおりを挟む
それからレベリングを続けているうちに日が落ちる。なかなかレベルが上がらないように感じてきた頃、三人と一匹は揃ってレベル三十八になっていた。とはいえマナとリロはステータス的に戦力外だし、俺は装備が無いため普通のモンスターよりワンランク下だ。ウサプーは使えるスキルも増えてきたが、下位モンスターのため強いとは言いがたい。
カンドにあるモンスター牧場が解放されたらこの辺りのモンスターを捕まえに来るか……
「ねえ。いい加減おなかすいたんだけど」
キマイルを倒した帰り道。マナが俺の上着の裾を引っ張って不満げに告げる。
「私は眠い」
「お前はずっと寝てただろ」
ついでとばかりに寝転がったまま手を挙げたリロに俺は若干の苛立ちをぶつける。本当にずっと、ずーっと寝てたのだ。たまにすることと言えば寝返りと小言。
「神様に向かって口の利き方がなってないぞ」
リロはそう言って立ち上がると空中に向けてデコピンの構えを取った。グググっと力を込めたかと思うとそのまま中指を弾く。その瞬間――
「いっっぢぁっっ!!」
俺は言葉にならないうめき声を上げてその場にかがんだ。全身に電撃が走ったかのような痛み、衝撃。頭が真っ白になる。俺は痛みの発生源を押さえるが、なかなか痛みが収まらない。
「その名も、黄金の衝撃。神にのみ許された必殺技よ」
リロは西部劇のガンマンよろしく、中指に息を吹きかけてそう言った。黄金の衝撃……だと……? 凶悪が過ぎる。やっと頭が回り始めたところでリロが何をしたのかが理解できた。
ファイターと違ってキャスター型のモンスターは通常攻撃が遠距離攻撃になる。この世界ではその特性が反映された結果、攻撃を遠距離で好きな場所にぶつけることができるのだろう。
つまりは、俺の局部を狙い撃ちしただけの通常攻撃だ。
「大丈夫? 何が起こったの?」
俺の隣で慌てる様子のマナだったが、説明する元気すらなかった俺は端的にこう伝えた。
「俺がリロに逆らうことができなくなっただけだ」
悔しいが、この痛みに抵抗できる男などどこにも存在しないだろう……。
大人しく……と言うより極限までテンションの下がった状態の俺は二人と一匹を連れてカンドまで戻った。原作ではただの宿屋だった家は、金を払えば料理まで出してくれる施設となっていた。
「カンドのご飯も美味しいね」
呑気に川魚料理を口に運ぶマナは幸せそうに笑っている。少しずつ味わう様子は不本意ながらも見ていて安らぐ。
「おかわり」
マナと違って黙々とかき込む勢いで食べるリロはデコピンの素振りをして見せると俺に告げる。
「店員さん! お味噌汁のおかわりお願いします!」
「よろしい」
「く……何様だよ……」
「神様だよ?」
リロは今までで最もキラキラした笑みを見せて可愛らしくそう言った。これまでの言動を完全に無視してしまえば大人気ヒロインの座を狙えるロリ女神なのだろうが、無視することも忘れることもできない。あの痛みを超える教訓は、今後現れないだろう。
「お、お金は大丈夫なの?」
俺が迷わずおかわりを頼んだのを聞いてマナは恐る恐る聞いてくる。ラストダンジョンの宝箱のおかげでお金を気にする必要はないし、なんなら今日倒したキマイルのドロップアイテムである「真紅の葉」を売れば悪くない金額になる。だが、それを知られて豪遊されると癪なので適当に答えることにした。
「もしお金が足りなくなったらマナにここで働いて稼いでもらうとするよ」
「え、え、働くってなに? 私何させられるの?」
「まあ、厨房とかで」
「厨房とかで……? できることあるかな……」
「まな板やれば良いんじゃない」
「待って?! 酷くない?!」
マナはそう言いながら俺の太ももを何度も全力で叩く。レベリングによってステータスに大きな差ができたせいでいくら叩かれてもダメージはゼロだ。クリティカルヒットでも一しか入らない。今のHPは千五百を超えているので死ぬまでかなりの時間がかかるだろう。
「ステータスに差があると何されても気にならないもんだな」
「ねえ、気にして? ちょっとくらい気にして?」
「でも……」
「ん?」
俺がそう言うとマナは動きを止めて首を傾げた。
「明日行くカンドの森でスキルを覚えるアイテムが手に入るから、そのアイテムを使えばダメージ与えることはできるようになるよ。遠距離レベル依存スキル『ダークスパイラル』」
「なにそれなにそれ! めっちゃカッコいい!」
「防御力無視、属性耐性無視でレベル依存の固定ダメージが入るスキル。今レベル三十八のマナが使うと、どんな相手にも七十六のダメージが入る」
「七十六……あれ? リョウのHPって今いくつだっけ?」
「千五百二十だな」
「ダークスパイラル弱いじゃん!」
「マナでさえ二十回撃てば俺を倒せるって思えば強いスキルだろ?」
「酷くない?!」
「おかわり」
「店員さん! 焼き魚のおかわりお願いします!」
カンドにあるモンスター牧場が解放されたらこの辺りのモンスターを捕まえに来るか……
「ねえ。いい加減おなかすいたんだけど」
キマイルを倒した帰り道。マナが俺の上着の裾を引っ張って不満げに告げる。
「私は眠い」
「お前はずっと寝てただろ」
ついでとばかりに寝転がったまま手を挙げたリロに俺は若干の苛立ちをぶつける。本当にずっと、ずーっと寝てたのだ。たまにすることと言えば寝返りと小言。
「神様に向かって口の利き方がなってないぞ」
リロはそう言って立ち上がると空中に向けてデコピンの構えを取った。グググっと力を込めたかと思うとそのまま中指を弾く。その瞬間――
「いっっぢぁっっ!!」
俺は言葉にならないうめき声を上げてその場にかがんだ。全身に電撃が走ったかのような痛み、衝撃。頭が真っ白になる。俺は痛みの発生源を押さえるが、なかなか痛みが収まらない。
「その名も、黄金の衝撃。神にのみ許された必殺技よ」
リロは西部劇のガンマンよろしく、中指に息を吹きかけてそう言った。黄金の衝撃……だと……? 凶悪が過ぎる。やっと頭が回り始めたところでリロが何をしたのかが理解できた。
ファイターと違ってキャスター型のモンスターは通常攻撃が遠距離攻撃になる。この世界ではその特性が反映された結果、攻撃を遠距離で好きな場所にぶつけることができるのだろう。
つまりは、俺の局部を狙い撃ちしただけの通常攻撃だ。
「大丈夫? 何が起こったの?」
俺の隣で慌てる様子のマナだったが、説明する元気すらなかった俺は端的にこう伝えた。
「俺がリロに逆らうことができなくなっただけだ」
悔しいが、この痛みに抵抗できる男などどこにも存在しないだろう……。
大人しく……と言うより極限までテンションの下がった状態の俺は二人と一匹を連れてカンドまで戻った。原作ではただの宿屋だった家は、金を払えば料理まで出してくれる施設となっていた。
「カンドのご飯も美味しいね」
呑気に川魚料理を口に運ぶマナは幸せそうに笑っている。少しずつ味わう様子は不本意ながらも見ていて安らぐ。
「おかわり」
マナと違って黙々とかき込む勢いで食べるリロはデコピンの素振りをして見せると俺に告げる。
「店員さん! お味噌汁のおかわりお願いします!」
「よろしい」
「く……何様だよ……」
「神様だよ?」
リロは今までで最もキラキラした笑みを見せて可愛らしくそう言った。これまでの言動を完全に無視してしまえば大人気ヒロインの座を狙えるロリ女神なのだろうが、無視することも忘れることもできない。あの痛みを超える教訓は、今後現れないだろう。
「お、お金は大丈夫なの?」
俺が迷わずおかわりを頼んだのを聞いてマナは恐る恐る聞いてくる。ラストダンジョンの宝箱のおかげでお金を気にする必要はないし、なんなら今日倒したキマイルのドロップアイテムである「真紅の葉」を売れば悪くない金額になる。だが、それを知られて豪遊されると癪なので適当に答えることにした。
「もしお金が足りなくなったらマナにここで働いて稼いでもらうとするよ」
「え、え、働くってなに? 私何させられるの?」
「まあ、厨房とかで」
「厨房とかで……? できることあるかな……」
「まな板やれば良いんじゃない」
「待って?! 酷くない?!」
マナはそう言いながら俺の太ももを何度も全力で叩く。レベリングによってステータスに大きな差ができたせいでいくら叩かれてもダメージはゼロだ。クリティカルヒットでも一しか入らない。今のHPは千五百を超えているので死ぬまでかなりの時間がかかるだろう。
「ステータスに差があると何されても気にならないもんだな」
「ねえ、気にして? ちょっとくらい気にして?」
「でも……」
「ん?」
俺がそう言うとマナは動きを止めて首を傾げた。
「明日行くカンドの森でスキルを覚えるアイテムが手に入るから、そのアイテムを使えばダメージ与えることはできるようになるよ。遠距離レベル依存スキル『ダークスパイラル』」
「なにそれなにそれ! めっちゃカッコいい!」
「防御力無視、属性耐性無視でレベル依存の固定ダメージが入るスキル。今レベル三十八のマナが使うと、どんな相手にも七十六のダメージが入る」
「七十六……あれ? リョウのHPって今いくつだっけ?」
「千五百二十だな」
「ダークスパイラル弱いじゃん!」
「マナでさえ二十回撃てば俺を倒せるって思えば強いスキルだろ?」
「酷くない?!」
「おかわり」
「店員さん! 焼き魚のおかわりお願いします!」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている
まる
ファンタジー
樋口康平はそこそこどこにでもいるごく平凡な人間を自負する高校生。
春休みのある日のこと、いつものように母親の経営する喫茶店・ピープルの店番をしていると勇者を名乗る少女が現れた。
手足と胴に鎧を纏い、腰に剣を差した銀髪の美少女セミリア・クルイードは魔王に敗れ、再び魔王に挑むべく仲間を捜しに異世界からやって来たと告げる。
やけに気合の入ったコスプレイヤーが訪れたものだと驚く康平だが、涙ながらに力を貸してくれと懇願するセミリアを突き放すことが出来ずに渋々仲間捜しに協力することに。
結果現れた、ノリと音楽命の現役女子大生西原春乃、自称ニートで自称オタクで自称魔女っ娘なんとかというアニメのファンクラブを作ったと言っても過言ではない人物らしい引き籠もりの高瀬寛太の二人に何故か自分と幼馴染みの草食系女子月野みのりを加えた到底魔王など倒せそうにない四人は勇者一行として異世界に旅立つことになるのだった。
そんな特別な力を持っているわけでもないながらも勇者一行として異世界で魔王を倒し、時には異国の王を救い、いつしか多くの英傑から必要とされ、幾度となく戦争を終わらせるべく人知れず奔走し、気付けば何人もの伴侶に囲まれ、のちに救世主と呼ばれることになる一人の少年の物語。
敢えて王道? を突き進んでみるべし。
スキルもチートも冒険者も追放も奴隷も獣人もアイテムボックスもフェンリルも必要ない!
……といいなぁ、なんて気持ちで始めた挑戦です。笑
第一幕【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
第二幕【~五大王国合同サミット~】
第三幕【~ただ一人の反逆者~】
第四幕【~連合軍vs連合軍~】
第五幕【~破滅の三大魔獣神~】
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる