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女神降臨

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 モノタウンを出た俺は次に起こるであろうイベントを心待ちにしながら進んだ。初めのエンカウントエリアである街道の直前。2D時代と同じイベントが起こるならそろそろのはずだ。

「なんで空見上げてんの?」

 俺の挙動を不審に思ったのか、マナが隣に並んで問いかけてくる。俺はそんなマナの方に視線も向けずにこれから起こるであろうことを説明した。

「そろそろ時間が停止して女神様が降りてくるはず。封印されし邪神を倒してくれってお告げをしてくれるはずなんだ。公式イラストではその女神様は絶世の美女で巨乳のはずなんだ!」

「馬鹿なの? 色んな意味で馬鹿なの?」

 色んな意味で馬鹿とはどういうことだろうか。俺はいたってまともなことしか言っていないというのに。おかしい……。

 モンスターうぃずの世界で女神様というのは、この序盤と邪神討伐後の二回、それとヘルプ画面でゲームの説明と次の目的地を教えてくれる役割しかない。正直な所ストーリー上ではちょい役である。しかしキャラクター人気投票ではトップスリーに入る人気である。しかも! 公式設定では巨乳! これを超える魅力なんてあるだろうか。いやない!

「巨乳を超える魅力なんてあるだろうか。いやない!」

「反語っ! なんで反語まで使って頑なに貧乳を否定するの!」

「貧乳を否定しているわけじゃなくて巨乳が素晴らしいって話なんだけど、詳しく語ろうか?」

「いえ、すみません。許してください。そんなキラキラした目で語ろうとしないでください」

 マナはそう言うと視線を逸らしてウサプーを強く抱きしめていた。

「きた!」

「うそっ?」

 マナとの無駄なやり取りをしていると、先ほどまで風に靡いていた草花が動きを止め、空を飛ぶ鳥も羽ばたかずに宙に制止した。つまり女神様が降りてくる前兆である時間停止が起きている。今すぐにでも女神様が降りてくる! 巨乳の女神様が降りてくる!

 隣に立つマナは周囲の状況とは違って時間停止の影響を受けておらず、俺の言った通りになって驚いている。ウサプーはただただ大人しく抱きしめられているだけ。……ぬいぐるみかな?

 時間が止まって少し経ったころ、俺の目の前に突如光が集まった。2D時代の演出は上空から降りてくる形だったけれど、NANNTENA-4Dでは違ったようだ。光の収束が終わるとそこには……

「なんでロリ幼女なんだよっ!!」

 翼の生えたロリ幼女が神々しく立っていた。それを目にした俺は叫び声と共に膝から崩れ落ちる。

「うっさっ……」

 マナのそんな蔑みの言葉も心には届かないほどに俺は絶望していた。

「なぜこんな改悪をしてしまったのか。良い子のCERO-Aにするためだろうか。そんな残酷な!」

「心の叫びが漏れてる」

「お前ら、良いから私の話を聞け」

 俺の訴えも無視するようにしてロリ幼女神は言い放った。真っ白な翼に真っ白なワンピーズ。それにショートボブの真っ白な髪。塗装前のこけしかっ!

「なにやら失礼なことを思っているみたいだが……」

「素直な感想だ!」

 流石神。心を読むのは造作もないか。

「……まあ良い。おぬしをこの世界に呼んだのは他の誰でもないこの私だ。まず許可なく転移させたことについて詫びよう」

「この世界? 転移?」

 モンスターうぃずはそんな世界観じゃなかったはずだ。普通の小さな町に生まれた少年がアドベンチャーとして旅立ち、モンスターと共に邪神を倒す――ただそれだけのストーリーのはず。女神にこんな台詞はない。

「またバグか?」

 そう思う方が現実味があると言えるほどのバグゲーだ。しかし女神は首を横に振って否定した。

「残念ながら現実だ。この世界はとある神……略称としてJSとでもしておこうか」

 とある神……JS……邪神か? 本人は女子小学生みたいな姿なのに?

「なにやらまた失礼なことを思ってないか?」

「素直な感想だ!」

「まあ……良い……。仏の顔も三度までだぞ。さて話を戻すぞ。ここはそのJSを封印するために私が作り上げた世界。時間が無かったためにおぬしの世界にあったゲームとやらを元に構成したのだ。その影響でおぬしを巻き込んでしまった。重ね重ね申し訳ない」

「ここはNANNTENA-4Dのフルダイブゲーム内じゃないってこと……?」

「うむ。おぬしの生きていた世界とは別の世界だ」

「つまりあれか? 邪神を倒せば元の世界に帰れる的なあれか?」

 大昔から小説や漫画の話でよくあるやつだ。わざわざ元の世界に戻りたいかと言われると答えづらいけど女神が何を求めているのかくらいは知っておきたい。そのために降臨したのだろうし。

「いや。おぬしには悠々自適な生活を送って欲しい」

「悠々自適な生活? ゴールは? クリア目標は?」

「幸せな寿命を迎えること」

「幸せな寿命を迎えること?」

「孫たちに囲まれて満足気な表情を浮かべて息を引き取ること」

「言い方変えただけだよね!?」

 女神は肩を震わせて笑いを堪えながら次の言葉を絞り出そうとしていた。こいつは許せない。

「魔法の類も生物の特性もおぬしが知っているゲームの世界そのものだが、この世界そのものは今後必然性の範囲内で回ることになる。結果としておぬしの知っているゲームとは異なる世界へと変わっていくだろう。そんな中でおぬしが生きていくのは簡単ではないかもしれない。だからお詫びと言っては何だが、この世界においておぬしが持つ端末の権限を最上位に設定しておいた」

 女神はそう言って俺の持つコントローラーを指さす。つまり、俺はベースの世界だけが同じの魔法世界に転移してコントローラーを頼りに生きていかなければならないと……。俺はすぐさまコントローラーを操作する。すると目の前にはしっかりとモンスターうぃずのメニューウィンドウが表示された。

「ゲームで使っていたメニューウィンドウ上で操作ができることは変わらず可能だということか?」

「そうだ。最上位権限――私たち神と同等の権限だ」


『リョウはリロの捕獲に成功した』


「は?」

 女神の間の抜けた声と共に時は再び動き出すのだった。
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