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モンスターうぃずというゲーム
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「きたきたー! 待ってましたー!」
地元の大学に進学が決まり、ただひたすらに時間の余っている高校最後の春休み初日。俺は部屋に届いた大型のゲーム機とヘルメット型の機械を眺めて喜びに浸っていた。
「妹の私にもお兄ちゃんの興奮は理解できない」
「妹よ。このマシンを手に入れた喜びが理解できないなんて産まれ直した方が良いんじゃないか?」
マシンセットの名前は最新型フルダイブVRゲーム機NANNTENA-4D(なんてーなふぉーでぃー)。
フルダイブ型ゲーム機が登場して三年。しかし、このフルダイブマシンは今までのゲーム機とは一線を画す性能を誇る。その性能というのは昔作られた2Dゲームを操作キャラクター目線でフルダイブプレイできるというものだ。RPGはもちろん、横スクロール型の敵を踏んで進むゲームまで何だって可能との触れ込みである。俺はそんなNANNTENA-4Dの数少ないアルファテストに当選したのだった。
「それって暗に死ねって言ってるようなものだって分かってる?」
「分からん。俺はこれからめくるめくゲームの世界に飛び込むんだ。お前はリビングで煎餅でも食べてろ」
「お兄ちゃんのいじわる。ねえ、これ二人プレイとかできないの?」
「できない。ほら、さっさと行った行った」
俺はそう言って妹の麻衣を手で払うような仕草で黙らせるとマシンのセッティングを続ける。
この春休み期間、おそらく俺は食事と睡眠の時間すら削ってゲームに没頭してしまうだろう。そう、なぜなら俺はこのNANNTENA-4Dでどうしても「あるレトロゲーム」をプレイしたかったからだ。そのレトロゲームとは、四十年以上前に発売され親父が幼少期にハマっていたというRPG「モンスターうぃず」である。このゲームは主人公が戦うだけでなく、戦闘でモンスターを仲間にできるという、当時最先端を行くゲームスタイルであった。その後、モンスターを仲間にするというシステムが普及したが、その走りとなった「モンスターうぃず」は元祖とも言われ伝説となっていた。累計販売数五千万本を超えるほどの大人気作であった「モンスターうぃず」は老若男女問わず異常なプレイ時間を費やされていたらしい。
「あ、それ私もやったことある! 面白いよね!」
「妹よ。このゲームの面白さが理解できるなんて産まれてきてよかったな」
「お兄ちゃんの命の基準がよく分かんないけど」
「伝説になったゲームだ。これを楽しめないなら人生の十割を損してると言っても過言ではない」
「人生の全てじゃん」
「理解が早くて助かる」
伝説のゲームとは言ったが、このゲームが伝説となった理由は斬新なゲーム性だけではなかった。この「モンスターうぃず」というゲーム……過去類を見ないほどのバグが発見されているゲームなのだ。そして、当時はオンラインでのバグ修正などはできず、販売された時点で発覚されていないバグは未来永劫ゲームソフトに残るという……。
そんな製作者が意図しない形でも伝説となったゲームだが、もちろん発売から四十年以上たった今でも面白く、俺は幼いころから何百回と周回プレイをしていた。正統派プレイもバグをフル活用したプレイも――
「ねえお兄ちゃん。何でそんなにゲームに夢中になれるの? もっと他に面白いこといっぱいあるのに」
「愚問だな」
俺はそう言いながら準備をしておいた古いゲームカセットをゲーム機本体にいくつもの形が存在するスロット端子に差し込む。ゲームカセットはあらかじめ綺麗に錆びもくすみも取ってピカピカにしてある。
「RPGは……いや、ゲームは努力を絶対に裏切らない! ……だからだよ」
「ふーん……。お兄ちゃんが言うとちょっと説得力ある」
「なんでだよ」
麻衣は俺のデスクチェアに座って目を瞑るとクルクル回っていた。
俺はベッドに横たわると今までのフルダイブVRマシンと同様に額と首元に電極を固定してヘルメットを被る。アイシールド部分にはNANNTENA-4Dのホーム画面が映し出され、脳に直接感動を送り込んでくるようだった。ワクワクして口元がニヤける様子がうっすらとアイシールドの内側に反射しているのを目にして恥ずかしくなり、無理矢理表情を戻す。
「それじゃ、いってくる」
「はーい。ご飯の時間になったら呼びに来るねー」
物分かりの良い妹で助かる。そのまま麻衣が椅子から降りて部屋から出て行く足音が聞こえた。
俺はベッドに横になったままヘルメット側部に付いているコントローラーを操作して「モンスターうぃず」を起動する。その瞬間、フルダイブ独特の浮遊感と共に意識がゲーム世界に入り込んだ。もう現実世界の音は聞こえない。
白い空間に「モンスターうぃず」の起動画面が浮かぶ。フルダイブ機に搭載されている自己認識アバター機能によって俺は現実世界の姿とほぼ変わらない形で立っていた。服装がジャージにTシャツなのはフルダイブあるあるだ。しかし手元にスマートフォン型のコントローラーデバイスがある点だけは初めての感覚だった。コントローラーにA・B・C・D・ポーズ・十字キーしか表示されていないのはおそらく「モンスターうぃず」を挿入した端子から元のゲーム機に使われているコントローラーを検出しているのだろう。
「あ、前のセーブデータ消すの忘れてた。ログアウトするのもめんどくさいし……初期化バグ使えばいっか」
喜び勇んでプレイし始めたは良いものの、ついさっきまでやり込んでいたデータを消すことを忘れていたようで、目の前に浮かぶウィンドウにはプレイ中のデータが表示されていた。プレイヤーキャラは上限である百レベル。装備は最強のエクスカリバー、連れている三体のモンスターもバハムート・ベヒーモス・リヴァイアサンという最強のレジェンドモンスター。正統派プレイで三か月やり込んで作ったデータだが、大して惜しいとは思わなかった。何せバグ技を使えばもっとやりたい放題できるのだから――
俺は巨大なモンスターを引き連れたまま初期化バグを使うために始まりの町「モノタウン」の自宅を目指す。今までのフルダイブ経験から動作自体に違和感はないが、この街並みがあの「モンスターうぃず」の世界だと思うと感慨深いものがあった。
たまたま最後にセーブをしたのがモノタウンの入り口だったため自宅はすぐ近くに見える。古いゲーム機内で何千回と訪れた街並みが今立っているこのリアルな世界が完全に一致する。まるで航空写真で見ていた場所に実際に降り立ったような感覚だ。
「2Dゲーム時代だと、入り口から八歩南に降りて西に五歩行けば丁度自宅の玄関に入るんだけどな」
ワープを使ってモノタウンに到着してから自宅に戻るという動作は、画面を見なくてもできるほどやり込んだ。下手すれば何千回では済まなかったかもしれない。初期化バグに限らず何度も通った道だ。
初期化バグ――それはゲーム開始時に自宅の玄関から部屋に入るところから始まるイベントを強制的に発生させるバグ技である。実はこの「モンスターうぃず」というゲーム、百種類ある捨てられないアイテムとイベントフラグが何故か同調してしまっているということが最も大きなバグ要素となっている。その捨てられないアイテムと特定の動作を行うことで強制的にイベントを起こすことができたりできなかったりするのだ。
ちなみに今回の初期化バグはアイテムボックスの一番上に、アイテムナンバー一のアイテム「モンスター辞典」を配置して「捨てる」コマンドを実行する。そして玄関をくぐるとあら不思議。名前以外の全てのデータが初期化されて、ゲームを初めから遊べるのだ。余談だが、知らずにこのバグ技を行ってしまって、更にはデータを上書きしてしまった可哀想な少年がいたそうだ。川上亮(かわかみりょう)六才……十二年前の俺だ。
「さて、さっそく行きますか」
コントローラー片手に歩き始めたところで俺はふと一つの疑問が浮かんだ。今までのフルダイブゲームでは直接自分が動くことによってのみ移動が可能だったが、コントローラーが存在するこの世界だとどうなるのか?
疑問が浮かべば検証せずにはいられないのがゲーマーの性だ。俺は少し進んだ足を止めてコントローラーを目の前で構える。スマートフォン型コントローラーには十字キーがはっきりと映し出されている。ゲーム世界で言うところの三マス分は動いているだろう今の場所から見て自宅入口は右斜め四十五度。もし十字キーで移動が出来るのだとしたら前に五回右に五回動けば着くはずだ。そう思って俺は十字キーの「上」を入力した。
「うおっ!」
十字キーの上を入力した瞬間、俺はスライドするように後方へと移動した。予想だにしなかった挙動のせいで三半規管が揺さぶられて一瞬眩暈がする。前に進むために上を入力したはずなのに後方へと強制的に移動させられた……。なぜ? 俺は頭を抱えて入り口の方角である北を向いてコントローラーを見つめる。そこで一つの仮説というか挙動の本質が見えてきた。
――いやいやいや、まさかそんな紛らわしい動作を組み込むか?
否定したい気持ちもあったが、その後何度か移動を試すことによって確信に変わる。
「コントローラーの上が北で固定されてるってマジか……」
つい独り言を溢してしまうほどに衝撃的な事実に、俺は金輪際十字キーを使って移動することはしないと決意した。
そこからは結局自力で移動して自宅入口前まで移動した。そこでBボタンを押してメニュー画面を開く。VRマシンでは御馴染みではあるが2Dゲームでのメニュー画面も目の前にホログラムとして出てきた。表示形式は2D時代と同じようだ……。俺は慣れた手つきでアイテムボックスの一番上に「モンスター辞典」を配置して「捨てる」コマンドを実行する。メニュー画面上には「このアイテムは捨てられません」と表示される。フラグはこれだけで達成される。そして一歩、玄関を開けて自宅に足を踏み入れたのだった。
2D時代と同じように初めからプレイできる……俺は単純にそう思っていたのだが、実際はそう上手くいかなかった。結果だけを言えば、NANNTENA-4Dでは同じ現象は起こらなかったのだ。
「ぐあっ……!」
目が焼けるかと思うような強烈な光――。それに続く頭が潰されるような激痛――。思いもよらない現象によって、俺は耐えられずに意識を失った。
地元の大学に進学が決まり、ただひたすらに時間の余っている高校最後の春休み初日。俺は部屋に届いた大型のゲーム機とヘルメット型の機械を眺めて喜びに浸っていた。
「妹の私にもお兄ちゃんの興奮は理解できない」
「妹よ。このマシンを手に入れた喜びが理解できないなんて産まれ直した方が良いんじゃないか?」
マシンセットの名前は最新型フルダイブVRゲーム機NANNTENA-4D(なんてーなふぉーでぃー)。
フルダイブ型ゲーム機が登場して三年。しかし、このフルダイブマシンは今までのゲーム機とは一線を画す性能を誇る。その性能というのは昔作られた2Dゲームを操作キャラクター目線でフルダイブプレイできるというものだ。RPGはもちろん、横スクロール型の敵を踏んで進むゲームまで何だって可能との触れ込みである。俺はそんなNANNTENA-4Dの数少ないアルファテストに当選したのだった。
「それって暗に死ねって言ってるようなものだって分かってる?」
「分からん。俺はこれからめくるめくゲームの世界に飛び込むんだ。お前はリビングで煎餅でも食べてろ」
「お兄ちゃんのいじわる。ねえ、これ二人プレイとかできないの?」
「できない。ほら、さっさと行った行った」
俺はそう言って妹の麻衣を手で払うような仕草で黙らせるとマシンのセッティングを続ける。
この春休み期間、おそらく俺は食事と睡眠の時間すら削ってゲームに没頭してしまうだろう。そう、なぜなら俺はこのNANNTENA-4Dでどうしても「あるレトロゲーム」をプレイしたかったからだ。そのレトロゲームとは、四十年以上前に発売され親父が幼少期にハマっていたというRPG「モンスターうぃず」である。このゲームは主人公が戦うだけでなく、戦闘でモンスターを仲間にできるという、当時最先端を行くゲームスタイルであった。その後、モンスターを仲間にするというシステムが普及したが、その走りとなった「モンスターうぃず」は元祖とも言われ伝説となっていた。累計販売数五千万本を超えるほどの大人気作であった「モンスターうぃず」は老若男女問わず異常なプレイ時間を費やされていたらしい。
「あ、それ私もやったことある! 面白いよね!」
「妹よ。このゲームの面白さが理解できるなんて産まれてきてよかったな」
「お兄ちゃんの命の基準がよく分かんないけど」
「伝説になったゲームだ。これを楽しめないなら人生の十割を損してると言っても過言ではない」
「人生の全てじゃん」
「理解が早くて助かる」
伝説のゲームとは言ったが、このゲームが伝説となった理由は斬新なゲーム性だけではなかった。この「モンスターうぃず」というゲーム……過去類を見ないほどのバグが発見されているゲームなのだ。そして、当時はオンラインでのバグ修正などはできず、販売された時点で発覚されていないバグは未来永劫ゲームソフトに残るという……。
そんな製作者が意図しない形でも伝説となったゲームだが、もちろん発売から四十年以上たった今でも面白く、俺は幼いころから何百回と周回プレイをしていた。正統派プレイもバグをフル活用したプレイも――
「ねえお兄ちゃん。何でそんなにゲームに夢中になれるの? もっと他に面白いこといっぱいあるのに」
「愚問だな」
俺はそう言いながら準備をしておいた古いゲームカセットをゲーム機本体にいくつもの形が存在するスロット端子に差し込む。ゲームカセットはあらかじめ綺麗に錆びもくすみも取ってピカピカにしてある。
「RPGは……いや、ゲームは努力を絶対に裏切らない! ……だからだよ」
「ふーん……。お兄ちゃんが言うとちょっと説得力ある」
「なんでだよ」
麻衣は俺のデスクチェアに座って目を瞑るとクルクル回っていた。
俺はベッドに横たわると今までのフルダイブVRマシンと同様に額と首元に電極を固定してヘルメットを被る。アイシールド部分にはNANNTENA-4Dのホーム画面が映し出され、脳に直接感動を送り込んでくるようだった。ワクワクして口元がニヤける様子がうっすらとアイシールドの内側に反射しているのを目にして恥ずかしくなり、無理矢理表情を戻す。
「それじゃ、いってくる」
「はーい。ご飯の時間になったら呼びに来るねー」
物分かりの良い妹で助かる。そのまま麻衣が椅子から降りて部屋から出て行く足音が聞こえた。
俺はベッドに横になったままヘルメット側部に付いているコントローラーを操作して「モンスターうぃず」を起動する。その瞬間、フルダイブ独特の浮遊感と共に意識がゲーム世界に入り込んだ。もう現実世界の音は聞こえない。
白い空間に「モンスターうぃず」の起動画面が浮かぶ。フルダイブ機に搭載されている自己認識アバター機能によって俺は現実世界の姿とほぼ変わらない形で立っていた。服装がジャージにTシャツなのはフルダイブあるあるだ。しかし手元にスマートフォン型のコントローラーデバイスがある点だけは初めての感覚だった。コントローラーにA・B・C・D・ポーズ・十字キーしか表示されていないのはおそらく「モンスターうぃず」を挿入した端子から元のゲーム機に使われているコントローラーを検出しているのだろう。
「あ、前のセーブデータ消すの忘れてた。ログアウトするのもめんどくさいし……初期化バグ使えばいっか」
喜び勇んでプレイし始めたは良いものの、ついさっきまでやり込んでいたデータを消すことを忘れていたようで、目の前に浮かぶウィンドウにはプレイ中のデータが表示されていた。プレイヤーキャラは上限である百レベル。装備は最強のエクスカリバー、連れている三体のモンスターもバハムート・ベヒーモス・リヴァイアサンという最強のレジェンドモンスター。正統派プレイで三か月やり込んで作ったデータだが、大して惜しいとは思わなかった。何せバグ技を使えばもっとやりたい放題できるのだから――
俺は巨大なモンスターを引き連れたまま初期化バグを使うために始まりの町「モノタウン」の自宅を目指す。今までのフルダイブ経験から動作自体に違和感はないが、この街並みがあの「モンスターうぃず」の世界だと思うと感慨深いものがあった。
たまたま最後にセーブをしたのがモノタウンの入り口だったため自宅はすぐ近くに見える。古いゲーム機内で何千回と訪れた街並みが今立っているこのリアルな世界が完全に一致する。まるで航空写真で見ていた場所に実際に降り立ったような感覚だ。
「2Dゲーム時代だと、入り口から八歩南に降りて西に五歩行けば丁度自宅の玄関に入るんだけどな」
ワープを使ってモノタウンに到着してから自宅に戻るという動作は、画面を見なくてもできるほどやり込んだ。下手すれば何千回では済まなかったかもしれない。初期化バグに限らず何度も通った道だ。
初期化バグ――それはゲーム開始時に自宅の玄関から部屋に入るところから始まるイベントを強制的に発生させるバグ技である。実はこの「モンスターうぃず」というゲーム、百種類ある捨てられないアイテムとイベントフラグが何故か同調してしまっているということが最も大きなバグ要素となっている。その捨てられないアイテムと特定の動作を行うことで強制的にイベントを起こすことができたりできなかったりするのだ。
ちなみに今回の初期化バグはアイテムボックスの一番上に、アイテムナンバー一のアイテム「モンスター辞典」を配置して「捨てる」コマンドを実行する。そして玄関をくぐるとあら不思議。名前以外の全てのデータが初期化されて、ゲームを初めから遊べるのだ。余談だが、知らずにこのバグ技を行ってしまって、更にはデータを上書きしてしまった可哀想な少年がいたそうだ。川上亮(かわかみりょう)六才……十二年前の俺だ。
「さて、さっそく行きますか」
コントローラー片手に歩き始めたところで俺はふと一つの疑問が浮かんだ。今までのフルダイブゲームでは直接自分が動くことによってのみ移動が可能だったが、コントローラーが存在するこの世界だとどうなるのか?
疑問が浮かべば検証せずにはいられないのがゲーマーの性だ。俺は少し進んだ足を止めてコントローラーを目の前で構える。スマートフォン型コントローラーには十字キーがはっきりと映し出されている。ゲーム世界で言うところの三マス分は動いているだろう今の場所から見て自宅入口は右斜め四十五度。もし十字キーで移動が出来るのだとしたら前に五回右に五回動けば着くはずだ。そう思って俺は十字キーの「上」を入力した。
「うおっ!」
十字キーの上を入力した瞬間、俺はスライドするように後方へと移動した。予想だにしなかった挙動のせいで三半規管が揺さぶられて一瞬眩暈がする。前に進むために上を入力したはずなのに後方へと強制的に移動させられた……。なぜ? 俺は頭を抱えて入り口の方角である北を向いてコントローラーを見つめる。そこで一つの仮説というか挙動の本質が見えてきた。
――いやいやいや、まさかそんな紛らわしい動作を組み込むか?
否定したい気持ちもあったが、その後何度か移動を試すことによって確信に変わる。
「コントローラーの上が北で固定されてるってマジか……」
つい独り言を溢してしまうほどに衝撃的な事実に、俺は金輪際十字キーを使って移動することはしないと決意した。
そこからは結局自力で移動して自宅入口前まで移動した。そこでBボタンを押してメニュー画面を開く。VRマシンでは御馴染みではあるが2Dゲームでのメニュー画面も目の前にホログラムとして出てきた。表示形式は2D時代と同じようだ……。俺は慣れた手つきでアイテムボックスの一番上に「モンスター辞典」を配置して「捨てる」コマンドを実行する。メニュー画面上には「このアイテムは捨てられません」と表示される。フラグはこれだけで達成される。そして一歩、玄関を開けて自宅に足を踏み入れたのだった。
2D時代と同じように初めからプレイできる……俺は単純にそう思っていたのだが、実際はそう上手くいかなかった。結果だけを言えば、NANNTENA-4Dでは同じ現象は起こらなかったのだ。
「ぐあっ……!」
目が焼けるかと思うような強烈な光――。それに続く頭が潰されるような激痛――。思いもよらない現象によって、俺は耐えられずに意識を失った。
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