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第8話 過去に置いてきた想い
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「やっぱりあなたも戻ってきたんですね…」
そう考えなければ、前回とは違うところが多すぎる理由が見つからない。
それでも“まさか…”という思いもあり、私は判断がつきかねていた。
決定打は皮肉にもカレリアだった。
パーティーの時、レナード様は私に『ドラジェに気をつけて』と言った。
ドラジェはアーモンドを砂糖ペーストでコーティングしたお菓子。
アーモンドを食べると蕁麻疹が出るから、昔から受け付けないのだ…カレリアが!
カレリアは自分の苦手な物を他人に知られるのを嫌がる。
だから、彼女の体質を知っている人は身近な人間に限られた。
レナード様はそれを知っていた。
回帰前に、カレリアの好みを知っていたからだ。
それを私とカレリアを間違えるなんて…!
「……ああ」
彼は少しの沈黙の後、頷きながら答えた。
「なら、私にした事も覚えていますよね?」
「…すまなかった! 本当に申し訳なかった!」
彼は深く頭を下げた。
「あの夜君が亡くなって、どれほど君の事が大切だったのか気づいたんだっ だから一度だけ…一度だけ許してはもらえないだろうか。勝手な事を言っているのはわかっている。けど、君の事を心から愛しているんだ! だから…っ」
「…あの日」
「え?」
「私が死んだ夜、あなたはカレリアと裸で寝所にいましたよね?」
「……っ」
レナード様は何も言わず俯き、両手を強く握り締めた。
「あのように部屋に忍び込んだのは何回ですか?」
「……そ…れは…」
「やはりあの日が初めてではなかったのですね…」
口籠った事が初めてではないことを物語っていた。
「!」
「あなたは私をどれだけ傷つけ、蔑ろにしてきたのか全く分かっていらっしゃらないっ だから“許してもらえないか”などと厚顔無恥な事が言えるのです!」
「ブロンシュ…」
苦しそうな顔をしながら私の名を呟くレナード様。
「庭園で起こった事はレナード様が仕組んだんですよね? 私、ふらついたカレリアとレナード様が庭園へ向かうところを見ているんです」
私が問い詰めると、レナード様は話し始めた。
「…カレリアには催淫剤を入れた飲み物を渡した。アンディはあらかじめ酩酊状態にし、二人の乱れた姿を他人に目撃させる事が狙いだった。こんな醜聞、君のお父上が許すはずがない。きっとカレリアを屋敷から追い出すと思ったんだ」
あなたがカレリアを嵌めるなんて思いもしなかった…
「今回はあなたのお陰で、カレリアを辺境地へ追い出す事ができました。それに関しては感謝申し上げます。けれど、今後あなたと関わるのはお断りします。あなたは私だけではなく、カレリアの事も裏切った自覚はありますか? 確かにあなたは前回カレリアを愛していたはずです。そのあなたが今回、あんな方法で彼女を陥れるなんて…」
彼は黙って私の言葉を聞いていた。
「これはお返しします」
外した指輪を彼に突き出した。
彼は力なくそれを受け取った。
「婚約破棄に関してはあなたの有責と言う事で私の両親とおじ様たちにうまく説明して下さい。それくらいして下さいますよね? 前回は破棄したくてもできなかったのですから」
「…わかっ…た」
「さようなら」
私はレナード様に背を向け、そのまま部屋を出た。
…過去に戻った時、一番に考えたのは彼の事だった。
最初はレナード様とカレリアが関係を持たないように画策しようと思った。
けれど今回カレリアとそうならなかったとして、彼が別の人と浮気をしないという確証はどこにもない。実際彼は私を裏切ったもの。
私の一番身近にいる従姉と…
そして今回は、回帰前に愛したはずのカレリアを陥れた。
そんな彼を今後信じていけるのか?
答えは「否」
それに、レナード様といれば嫌でもカレリアとの事を思い出す。
それを我慢してまで、彼と一緒にいたいという気持ちは持てなかった。
レナード様を好きだった気持ちは、死んだ時になくなってしまったようだ。
だからカレリアを追い出せたら、婚約破棄をしようと決めていた。
私は前を見て、歩き続けた。
もうあなたとの思い出には振り返らない。
これで本当にお別れです、レナード様。
そう考えなければ、前回とは違うところが多すぎる理由が見つからない。
それでも“まさか…”という思いもあり、私は判断がつきかねていた。
決定打は皮肉にもカレリアだった。
パーティーの時、レナード様は私に『ドラジェに気をつけて』と言った。
ドラジェはアーモンドを砂糖ペーストでコーティングしたお菓子。
アーモンドを食べると蕁麻疹が出るから、昔から受け付けないのだ…カレリアが!
カレリアは自分の苦手な物を他人に知られるのを嫌がる。
だから、彼女の体質を知っている人は身近な人間に限られた。
レナード様はそれを知っていた。
回帰前に、カレリアの好みを知っていたからだ。
それを私とカレリアを間違えるなんて…!
「……ああ」
彼は少しの沈黙の後、頷きながら答えた。
「なら、私にした事も覚えていますよね?」
「…すまなかった! 本当に申し訳なかった!」
彼は深く頭を下げた。
「あの夜君が亡くなって、どれほど君の事が大切だったのか気づいたんだっ だから一度だけ…一度だけ許してはもらえないだろうか。勝手な事を言っているのはわかっている。けど、君の事を心から愛しているんだ! だから…っ」
「…あの日」
「え?」
「私が死んだ夜、あなたはカレリアと裸で寝所にいましたよね?」
「……っ」
レナード様は何も言わず俯き、両手を強く握り締めた。
「あのように部屋に忍び込んだのは何回ですか?」
「……そ…れは…」
「やはりあの日が初めてではなかったのですね…」
口籠った事が初めてではないことを物語っていた。
「!」
「あなたは私をどれだけ傷つけ、蔑ろにしてきたのか全く分かっていらっしゃらないっ だから“許してもらえないか”などと厚顔無恥な事が言えるのです!」
「ブロンシュ…」
苦しそうな顔をしながら私の名を呟くレナード様。
「庭園で起こった事はレナード様が仕組んだんですよね? 私、ふらついたカレリアとレナード様が庭園へ向かうところを見ているんです」
私が問い詰めると、レナード様は話し始めた。
「…カレリアには催淫剤を入れた飲み物を渡した。アンディはあらかじめ酩酊状態にし、二人の乱れた姿を他人に目撃させる事が狙いだった。こんな醜聞、君のお父上が許すはずがない。きっとカレリアを屋敷から追い出すと思ったんだ」
あなたがカレリアを嵌めるなんて思いもしなかった…
「今回はあなたのお陰で、カレリアを辺境地へ追い出す事ができました。それに関しては感謝申し上げます。けれど、今後あなたと関わるのはお断りします。あなたは私だけではなく、カレリアの事も裏切った自覚はありますか? 確かにあなたは前回カレリアを愛していたはずです。そのあなたが今回、あんな方法で彼女を陥れるなんて…」
彼は黙って私の言葉を聞いていた。
「これはお返しします」
外した指輪を彼に突き出した。
彼は力なくそれを受け取った。
「婚約破棄に関してはあなたの有責と言う事で私の両親とおじ様たちにうまく説明して下さい。それくらいして下さいますよね? 前回は破棄したくてもできなかったのですから」
「…わかっ…た」
「さようなら」
私はレナード様に背を向け、そのまま部屋を出た。
…過去に戻った時、一番に考えたのは彼の事だった。
最初はレナード様とカレリアが関係を持たないように画策しようと思った。
けれど今回カレリアとそうならなかったとして、彼が別の人と浮気をしないという確証はどこにもない。実際彼は私を裏切ったもの。
私の一番身近にいる従姉と…
そして今回は、回帰前に愛したはずのカレリアを陥れた。
そんな彼を今後信じていけるのか?
答えは「否」
それに、レナード様といれば嫌でもカレリアとの事を思い出す。
それを我慢してまで、彼と一緒にいたいという気持ちは持てなかった。
レナード様を好きだった気持ちは、死んだ時になくなってしまったようだ。
だからカレリアを追い出せたら、婚約破棄をしようと決めていた。
私は前を見て、歩き続けた。
もうあなたとの思い出には振り返らない。
これで本当にお別れです、レナード様。
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