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第6話 食い違う記憶

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「何か欲しいものがあれば、必ず主人か私に言ってね」

 後日、お母様がカレリアに話していた。

 この言葉の裏には『ブロンシュの物は取らないで』と釘を刺しているように聞こえる。

「…ありがとうございます。伯母様」

 それはカレリアも感じたらしく、少し強張こわばった笑顔を見せていた。

 あのネックレスは、お母様が結婚する時に自分とのペアで特注し、片方をお祖母ばあ様にプレゼントした特別なもの。その事はお父様もご存じだ。
 だからそのネックレスを娘以外の人間が身に着けていたことに驚き、不快だったのだろう。

 この時から回帰前とは変わり、両親のカレリアに対する態度に一線が引かれたように感じた。
 使用人たちもその空気を読んでか、カレリアに必要以上に関わろうとする者はいなかった。

 そしてカレリアからの“羨ましい”攻撃もなくなった。

 けれど彼女の事だ。
 今はほとぼりが冷めるまでおとなしく振る舞っているだけだろう。
 
 人間簡単には変われないもの。

 でも、まだまだ我が家を追い出すまでには至らないわね。
 何か大きな出来事が起きれば…そう考えながら、回帰前のレナード様とカレリアの事を思い出した。

『そういえば…私が死んだ後、どうなったのかしら? …今更そんな事を考えても意味はないけど…』

 私は溜息をつきながら、軽く頭を振った。

 その私から物を奪えなくなると、カレリアの次の目的は案の定、私の婚約者であるレナード様に向けられた。

 そして、レナード様がいらっしゃるとカレリアが必ず顔を出すようになった。

「私もお邪魔していいかしら? こっちに来たばかりでお友達もいないし、暇なの」

「もちろんいいよ。ね、ブロンシュ」

「…ええ」

 これも前と同じやり取り、同じ光景だわ。
 やはりレナード様とカレリアの関係は、前回と同じになるのかしら…


****


「ごめんね。急な用事ができてしまって…」

 回帰前にも聞いたレナード様の言い訳。
 やはり今回もカレリアと会うようになったみたいね。

「いえ、お気になさらないで下さい」

 私は笑顔で答えた。

 そして後日、今回も知人の二人からカレリアの話が出た。

「そういえばカレリア様がレナード様と…」

 やはり今回もレナード様とカレリアの話になるのね。

「アンディ様と出かけられてましたよ」

「え? アンディ様って…?」

 私はレナード様とカレリアの事より“アンディ”という方の存在が気になった。

「あ、レナード様のご学友みたいですわ。クローサー男爵家のご令息だとか。それにしても女性が男性二人をはべらして出かけるなんていかがなものでしょう?」

「本当ですわね。淑女の行動とは思えませんわね」

 これは…二人ともカレリアを中傷しているのかしら?

 前は私に同情と嘲笑の目を向けられていたけれど…

 それに“アンディ”なんて人、前にはいなかったわ。

 なんだか所々、回帰前と違う事が出てきているみたい…なぜかしら?
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