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第10話 不穏な手紙

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 「何!? この手紙…!!」

 手紙を持つ手に力が入り、紙がゆがむ。
 内容は脅迫状だった。

 “産んだ子供の父親が誰なのか、伯爵に知られたくなければ現金を持って来い”と…

 そして、指定された住所と法外な金額が記されていた。          

 手の震えが止まらない…
 どうしてティミド様がアルバの事を知っているの?
 この内容は何!? 

「…んぶぅ…ふぇっ…あぁあん! うあぁあん!」

 ベビーベッドに寝ていたアルバが、突然泣き出した。
 少し前におむつを替え、ミルクもあげたけど…

「アルバ、どうしたの? よしよしっ」

 私が抱くとすぐに静かになり、ご機嫌になった。
 安堵し、アルバを抱いたままソファに座る。

 手紙を握り締めていた右手を見つめた。

 なぜこんな脅迫めいた手紙を!?
 彼は子爵令嬢と婚約したのではないの?

 事情は分からないけれど、お金が必要な状況だろうということは分かる…

 コンコン

「!!」

 突然のノックに心臓が止まりそうなくらい驚いた。
 あわてて手紙をソファの隙間に押し込む。

「は、はい」

「アルバの泣き声が聞こえて…大丈夫かい?」

 そう言いながら心配そうに部屋にいらしたヴァリエ様。
 
「え、ええ。先程ぐずっておりましたが、だっこしたらすぐに泣き止みましたわ」

「本当だ。単にルクスにだっこされたくて泣いたのかな? ん?」

 ヴァリエ様は私の隣に座ると、アルバの頬を優しく人差し指で撫でた。
 アルバが嬉しそうに笑う。
 
「…何かあったのかい?」

「え!?」

「何か…様子が変だから。やはり乳母を頼んだ方が良いのではないか?」

「い、いいえ! 大丈夫ですっ」
 
「君がどうしても自分の手で世話をしたいというから、乳母は頼まなかったけれど…」

「本当に大丈夫です!」

 私は大げさに笑って見せた。

「一人で抱え込むことはないよ。君には僕が付いているんだから」

「……はい」

 やめてやめてっ 
 私なんかに優しい言葉をかけないで!
 
 私は、泣きたくなる気持ちを必死で押さえた。

「本当に大丈夫ですわ。それよりお仕事の途中だったのではないですか? またジェランが迎えに来ますよ」

「普段、休め休めと言っているのはジェランなのに」

 わざと不機嫌そうな顔をされるヴァリエ様が可愛らしく見えた。

「隙を見ては、しょっちゅうアルバに会いに来られるからですわ。ふふふ」

 私が笑うと、ヴァリエ様は安心したように微笑む。

「そろそろ戻らねば。何かあったらすぐに私か誰かを呼ぶんだよ」

「はい、ご心配なく」
  
 ヴァリエ様は私の頬とアルバの額にキスをし、部屋を出て行った。
 扉が閉まった瞬間、涙が溢れた。

「…うっ…うぅ…っ…」

 ティミド様のしている事を責める事はできない。
 私も彼と同じ…ううん、それ以上に人として最低な事をしているから。

 自分がした事が自分に返ってきた。
 優しいヴァリエ様を騙して、その罰を受ける事になった、ただそれだけ…

 自業自得だわ……!

 アルバを抱きながら、私は嗚咽を漏らした。
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