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第4話 最低な決断

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 テーブルを挟んで向かい合わせに座った伯爵様と私。
 私は求婚状が届いてから気になっていた事を尋ねた。

「あ…あの…失礼ながらお聞きしたい事があるのですが」

「何でも聞いて下さい」

 優しい口調。
 柔らかい笑顔。

 この方が本当に、噂通りの女好きなのかしら…

「…なぜ私だったのでしょうか? どう考えても伯爵様とでは家格が釣り合いません」

「一目ぼれです」

「………え?」

「以前街中であなたを見かけて、一目ぼれしたんです」

「あ…の…それは…」

 嘘だわ。
 自分で言うのは悲しいけれど、私の容姿は一目ぼれされるような美しさを一切持ち合わせてはいない。

 暗めの茶色い髪に黒い瞳。
 スタイルだって目を引くような身体ではない。

 おまけに家格の低い男爵家。
 私と結婚するメリットがないわ。

「そう言ったら信じて頂けますか?」

 伯爵様は口角を上げながら面白そうに言った。

『からかわれた!?』

 私は顔が赤くなるのが分かった。

「…失礼な言い方でした。申し訳ありません」

 私の様子を見て、謝罪の言葉を口にした伯爵様。

「実は…僕は婚外子です。実父と正妻との間に子供がいなかったので、実母が亡くなったのを機にロックチェスター家に引き取られました。その後、事故で先代である父と伯爵夫人は亡くなり、僕が家督を継ぐ事になったのです」

「そうだったのですね」

 それでも伯爵という爵位に、この端麗な顔立ち。
 選べる縁談はいくらでもあるでしょうに。

 例え婚外子であろうとも…そして醜聞があったとしても。
 
「伯爵家の当主とは言え婚外子を蔑視する女性、逆に家格だけを重視し、自分の娘を売り込もうとする貴族たちに正直辟易していました」

「だとしても、なぜ私なのでしょうか?」

 一目ぼれは信じていませんから。

「……失礼ながら、最近子爵令息と婚約を破棄されたそうですね」

「!!」

「一度婚約破棄された女性が、次にまともな嫁ぎ先を探すのは難しいでしょう。今後話がくるのは貴方より遥かに年上の一癖ある未婚男性か、どこかの後妻になる可能性が高い」

「…そ…れは…」

「そのような男性と比べたら、私の方がましではありませんか? それに私と結婚すれば、元婚約者への意趣返しになると思いますよ? そして、私は周りのうるさい雑音が静かになりますし」

 ティミド様への意趣返し……彼からの求婚で私もそれを考えた。

 でも結局なぜ私なのか理由が曖昧だし、何か思惑が感じられるけれど……全て私にとってはメリットのある事ばかりだわ。

「…家格も低く、傷物の私でよろしいのでしょうか?」

「私は婚外子ですが、よろしいですか?」

 彼は笑顔で、質問を質問で返した。


 この人は本当に噂通りの方なのかしら?
 やはり妊娠している事を言うべきなのではないの?
 けど、本当の事を言えばこの縁談は白紙になる
 私一人で子供を育てていけばいいじゃない
 本当に一人で育てられるの?
 そうすべきだし、当然の事でしょ?
 けど伯爵家と結婚すれば、不自由のない生活の中で子供を育てられる…


 私は頭の中で、自問自答し続けた。
 そして膝の上で重ねた手を握り締め、私は意を決して答えた。

「どうぞよろしくお願い致します」


 ――私は取り返しのつかない決断をした――
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