上 下
2 / 13

第2話 失くしたくない宝物

しおりを挟む
 
 暗闇の中、私の腕の中には可愛い赤ちゃんが眠っている。

 その時、突然腕が伸びてきて、私から赤ちゃんを奪っていった。

 私は追いかけようとしたけれど、別の腕が私の両腕と両足を押さえ、動きを止められて動けない。


『いやっ! 赤ちゃんを連れて行かないで! 私の赤ちゃんを返して!』


 泣き叫ぶ私の声には構わず闇が赤ちゃんを連れ去ろうとした時、誰かが赤ちゃんを抱き上げ、私にそっと渡して下さった。

 私は何度もお礼を言い顔を上げると、目の前には金色の百合の花が輝いていた。

 すると暗闇が一気に明るくなり、白い天井が広がった―――…



「…ここは…」

「気が付いたかい? ここは病院だよ。緊急で運ばれてきたんだ」
 白衣を着た年配の男性が私の顔を覗き込みながら話しかけている。

「…びょ…院……!!……あ、あのっ 赤ちゃんはっ」

「大丈夫だから、安静にしていなさい」
 医師は穏やかな声で、諭すように私に言葉をかけた。

 赤ちゃん…無事…良かった…

 私は大きく息を吐き、安堵する。

「連絡先を教えてもらえるかな? しばらく入院が必要なんだ」

「……あの、お電話をお借りしてもよろしいですか?」

 私は母に連絡をした。
 父に内緒で来て欲しいと…

 連絡後、母はすぐに駆けつけてくれた。

「ルクス! 大丈夫なの!? 入院だなんて!」

「お母様…お父様には内緒にしてくれた?」

「ええ…あなたが何度も言うから…」
 母は戸惑い気味に答える。

 私は母に全て話した。

 ティミド様に捨てられた事
 ティミド様の子供を身籠った事
 子供を産みたい事を…

「お…ルクス…なんて事…っ」
 母はベッドの傍らで顔を覆って泣き出した。

 お父様…お母様にも婚約破棄の事は話していなかったのね。
 ずっとお一人で抱えていたんだわ。

「お母様……妊娠の事、お父様には黙ってて欲しいの…」

「な、何を言っているのっ そんな事できる訳ないでしょ!?」

 当然の反応だ。けれど、今はまだ父に知られたくない。
 堕ろすように言われるかもしれないもの…っ

「お願いします! ずっと黙っていて欲しいわけじゃないのっ 堕胎できる月が過ぎるまででいいからっ  お願い…っ」

 私は母に頭を下げて頼んだ。

「でも…そんな……ち…父親のいない子になるのよ…」
 母は苦しそうに言葉を絞り出した。

「私が二人分愛するわ…もう愛しているのよ…殺す事なんてできないっ お願い…っ おか…さ…おねが…」

 私は泣きながら、母にお願いした。
 何度も…何度も…

 母は、泣いている私を抱き締めながら言ってくれた。

「わかったわ……」

 しばらくすると母から連絡を受け、飛んできた父。


 バタン!!


「ルクス! 大丈夫か!?」

「お、お父様…っ」

 突然扉が開き、病室に入ってきた父に驚いた。
 ベッドを使っているのが私だけで良かったわ。

「ルキシーと出かけている時に、気分が悪くなったんだって?」

「う、うん…そうなの…」

 お母様と……そういう風に話してくれたのね。

 私はチラリと母の方に視線を向ける。
 母は静かにうなずいた。

 私はためらいがちに父に言葉をかける。

「………お父様」

「ん?」

「……私……ティミド様と別れたの。彼、他の子爵令嬢と婚約したんですって…」

 私の言葉に、父の眉間の皺が深く刻まれた。

「……実は…先週、ベルキス家から婚約破棄の書類が届いたんだ。説明をしに来るでもなく、謝罪の言葉もなく、ただ書類だけを一方的に寄越して!」

 ダン!!

 父はベッドの横にあった小さなテーブルに、握り締めた拳を叩きつけた。

「…もういいのよ、お父様。書類にサインするわ。それで終わりにしたい。だから訴えようとしないで…」
 私は父にお願いをした。

「…でも…それじゃ…お前が…」
 父は俯きながら、言葉を濁す。

「もう…いいの…」

 私は父の握りしめている手の上に自分の手を重ねた。
 母は口に手を当て、声を殺して泣いている。

 迷惑かけてごめんなさい…お父様…お母様…
 けど、この先もっと迷惑をかける事になるわ…

 その事を考えると両親に申し訳なくて、胸が締め付けられる。

 一週間後、退院し家に帰ると、父から驚く話を聞かされた。

「伯爵家から私に縁談…?」

 訳が分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

すべては、あなたの為にした事です。

cyaru
恋愛
父に道具のように扱われ、成り上がるために侯爵家に嫁がされたルシェル。 夫となるレスピナ侯爵家のオレリアンにはブリジットという恋人がいた。 婚約が決まった時から学園では【運命の2人を引き裂く恥知らず】と虐められ、初夜では屈辱を味わう。 翌朝、夫となったオレリアンの母はルシェルに部屋を移れと言う。 与えられた部屋は使用人の部屋。帰ってこない夫。 ルシェルは離縁に向けて動き出す。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。 10月1日。番外編含め完結致しました。多くの方に読んで頂き感謝いたします。 返信不要とありましたので、こちらでお礼を。「早々たる→錚々たる」訂正を致しました。 教えて頂きありがとうございました。 お名前をここに記すことは出来ませんが、感謝いたします。(*^-^*)

皇太子殿下の秘密がバレた!隠し子発覚で離婚の危機〜夫人は妊娠中なのに不倫相手と二重生活していました

window
恋愛
皇太子マイロ・ルスワル・フェルサンヌ殿下と皇后ルナ・ホセファン・メンテイル夫人は仲が睦まじく日々幸福な結婚生活を送っていました。 お互いに深く愛し合っていて喧嘩もしたことがないくらいで国民からも評判のいい夫婦です。 先日、ルナ夫人は妊娠したことが分かりマイロ殿下と舞い上がるような気分で大変に喜びました。 しかしある日ルナ夫人はマイロ殿下のとんでもない秘密を知ってしまった。 それをマイロ殿下に問いただす覚悟を決める。

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

処理中です...