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第12話 オスカーの想い⑤

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 彼女の話を聞いてもらおうと思い、帰りにダニエルの屋敷に寄らせてもらった。
 今は彼の部屋でいつものようにくつろぎながら、言い出すタイミングを見計らっている。

「お前、何で今日早く登校したんだ?」

「…え、いや…別に…」

「いやいや、わざわざ早起きして登校しているのに、別に…じゃねぇだろ? リトルティも何でお前が迎えに来ないってうるせーうるせー。ま、もともと通り道だからって、あいつが強引におまえに迎えを頼んでいたんだけど…」

 うーん。どこから話すべきか。
 そういえば、ダニエルに僕から女の子の話をするのは初めてじゃないか?

 そう悩んでいる時に…

「そういえば、トルディ嬢の事はどうなった?」

「え!?」
 僕は思わず飛び起きた。
 こっちから話す前に核心を突かれ、心臓をつかまれたかと思った。
 
「えって…夏休みの時に聞いてきただろ? おまえから女の名前が出るなんて珍しかったから、その後どうしたのかな~って。急に思い出したわっ」
 そう言うと、ニヤリと妙な笑い方をした。

「それが…」
 彼女の事を話そうとして、ハタッと思いとどまった。

 僕は妙な渾名あだなをつけられているけれど、僕から言わせればダニエルの方がよっぽど、容姿端麗おまけに博学多才でモテる要素満載だ。

 ただ女癖が悪いから、あまり評判がよろしくない。
 裏では『パレルモア学院のカサノバ』と呼ばれているらしい。

 本当…誰が考えているのやら。

 ダニエルの事は一番信頼している。けど…変に彼女に興味を持たれたらどうしよう。
 それに、ダニエルから彼女の話を振ってきた事も気に入らない。
 逆に万が一、彼女がダニエルに会って心を動かされたら…

 あ、ヤバい。僕ってこんなに器の小さい男だったのか…

「べ、別にどうもしないよ。前にお前が【鉄仮面の伯爵令嬢】の話をしてたから、どんな子か気になっただけ。言ってた通りつ…めたい印象で…に、人形のようだったよ」
 心にもない事を言うのは胸が痛い。
 
「ふ―――――――――ん…」

 …何か意味深な相槌あいづち…。ダニエルは勘も良い。


 カタン


 その時、部屋の外で何やら音がした。

「誰? リトルティか?」

 ダニエルがドアに向かって声をかけるが無反応。
 面倒くさそうに立ち上がり、部屋の外を見るが誰もいないようだった。

「気のせいか」

 結局僕は、彼女の事をダニエルに話せなかった…


 ◇◇◇◇


 次の日もその次の日もそのまた次の日も、僕は朝早く花壇に行った。
 彼女は毎朝来る僕にいつも困惑気味の顔をしていたが、迷惑そうではなかった…と思いたい。

 そして少しずつお互いの話をするようになった。
 好きな食べ物や休みの日に何をしているかとか。

 ふいに家族の話になった時、彼女は口籠くちごもった。

「あ…父はあまり…ほとんど…家には…兄妹はおりますがその…一緒には暮らしておらず、私は母と…」

 彼女の両親も不仲らしい事を感じた。

 父親がほとんど家にいないという事は愛妾と暮らしているみたいだ。
 一緒に暮らしていない兄妹というのは、愛妾の子だろう。
 珍しい事ではない。

 愛妾を持つ父親。
 冷め切った関係の両親。
 母親違いの兄妹。

 僕の家庭と似ていた。

 その家庭環境のせいで、感情が上手に現わせなくなったのかな?

 僕は虚勢を張る仮面を、君は寂しさを隠す仮面をつけてしまったのかもしれない。

 君が恥ずかしかったり、緊張したりすると耳が真っ赤になる事を知っているよ。
 君は僕が子供のようにいたずらしても、一緒に楽しんでくれる優しさを知っているよ。

 本当の君はとても感情豊かな人なのに。
 他の人にも本当の君を知ってもらいたいと思う反面、そんな君を知っているのは僕だけであって欲しいとも思う。
 
 ただ、君をひとりにはさせたくないとこいねがう。
 いつでも一番近くで君に寄り添える存在になりたいと…

 だからこの気持ちを君に伝えようと思った。
 君からしたらたった4日しか話をしていない男だけど、僕は前から君を知っていた事を。
 
 戸惑うだろうか…困らせるだろうか…
 それでも気持ちを伝えなければ何も始まらない。

 そう思いながら次の朝いつものように花壇へ向かうと、花壇には足場が組まれ白布で囲まれていた。

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