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第6話 リュシュエンヌの想い④

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 神様…私、死期が近いのでしょうか。
 なぜ、2日続けて倒れそうな出来事が起こるのでしょう。

 昨日は半年ぶりにお父様がいらしたと思ったら、オスカー様との婚約を告げ、今朝は…何てことでしょう…
 オスカー様がいらっしゃっております――――――――!!!

 お待たせしてはいけないのに、私、先ほどから応接室のドアの前を行ったり来たりしています。
 ああ、早く入らなければならないのに。

 …まず最初に何を申し上げれば良いのでしょうか。

 やはり「おはようございます」ですよね。あ、ちがいます。「お待たせして申し訳ございません」だわ。
 あ、その前に、花壇の工事の件をお伝えしなかった事もお詫びしなければ…え、ど、どれを先に言えば…


 ガチャリ

 <ビクッーーー!!>


 突然応接室のドアが開いたかと思ったら、オスカー様が出ていらっしゃいました!

「あ、おはよう。何か気配を感じて…」

「あ、お…およう…っ!」

「「…」」

 何てこと!! “おはようございます”と“お待たせして”が混ざってしまいましたっ
 落ち着くのよ、私!!!

「…おはようございます。お待たせして申し訳ございません」

 なんとか心を整えて挨拶が出来ました。
 こういう時、顔に表情が出ない事に思わず感謝。
 …耳がとても熱いですけど。

 そうっとオスカー様を見ると、すぐに顔をそむけ、応接室に戻って行かれました。

「…」
 わざわざ来て下さったのに、お待たせしたうえ、ろくに挨拶もできずに呆れてしまわれたかしら…

「急に来て、驚かせたよね」

「とんでもないことでこざいます」

 オスカー様が座られた席の向かい合わせに私も座りました。が、真正面を見る事はできませんっ
 ど、どこを見れば良いのでしょう。目が泳いでしまいます。

「昨日、お父上のトルディ伯爵から僕たちの婚約の事を聞いたと思うけど」

「(僕たち…)はい」

「近々両家との顔合わせがあるけれど、その前に君と話をしたいと思ってね。朝早くからごめんね」

「いえ、私も…あの花壇の工事の事をお伝えせず、申し訳ございませんでした」

「ああ…行ってみたら、花壇が取り壊されていたから驚いたよ」

 次の朝、来て下さったのですね。やはりお伝えすればよかった…

「そ…れで、婚約の事だけれど」

「あ、はい。あの…なぜ私が…」

 オスカー様はリトルティ様とお付き合いされていらっしゃるのではないのでしょうか?

「…もともと君のお父上と僕の父が知り合いでね。同じ学院で同学年という事もあり、父から薦められたんだ。それに花壇で出会ったのも何かの縁と思ってね」

「そうだったんですね…」
 
 親同士が知り合い…オスカー様のお父様からの打診。

 もしかしたら花壇にいらしたのも、本当は前から婚約の話を聞いていたから…?
 そもそも、貴族同士の結婚は家の利益のためのもの。

 子爵家より伯爵家の爵位が上だから、リトルティ様の事は諦められたの?
 お父様に薦められて、やむを得ずこのお話をお受けされたの?

 リトルティ様の事がお好きなのに…?

「どうかしたの?」

「い、いえ。何でもございません」

「あっと。もうこんな時間だ。一緒に学校に行こう」

「はい」 

 ああ…どうしましょう。この婚約を素直に喜べない私がいます。
 心の中にどんどんもやが広がっていくようです。


 ◇◇◇◇


 ―学院内―


 私、どうしてオスカー様と一緒に登校してしまったのでしょうか。
 けれど、お誘いを受けて断れるはずもございません。

 …生徒の皆さんがこちらを見てざわついています。

 それもそのはず。オスカー様の馬車から私が現れたのですから。
 ああ…皆さんの視線が私に全集中しています。

「リュシュエンヌ嬢? 何でそんな後ろに…」

 馬車から降り校舎へ向かう途中、オスカー様が数歩後ろを歩いている私に気がついて声をかけて下さいました。
 ですが、並んで歩くなんてできません。

 周りからの視線が痛すぎますっ

「あの…私の教室はあちらですので、これで…」

 普通科の私は東棟、特進科のオスカー様は南棟と分かれております。

「あ、そうだね。それとよければ…」

「オスカー!」

 オスカー様の言葉を遮るように、声をかけられたのはリトルティ様でした。

 するりとオスカー様の腕に手を回し、私が一緒にいる事に気が付かれると、鋭い視線を向けてきました。
 先日、お話しした日の事を思い出します…。

「何でこの人と一緒にいるの? 私の迎えに来てくれなくなったのはこの人のせい?」

「何言っているんだ」

 オスカー様はリトルティ様の手を振り払おうとはせず、会話を続けられました。
 そういえばオスカー様はいつもリトルティ様と登校されていらっしゃいましたね。

 馬車から降りるリトルティ様に手を差し出すオスカー様。
 まるで一枚の絵のように美しく、その情景を見たいがために、お二人が登校するのを待っている生徒がいるくらいですから。

 だからよけいに先程の光景に驚かれた生徒がたくさんいらっしゃった事でしょう。

「それより彼女にきちんと挨拶をするべきだろ?」

 オスカー様はリトルティ様をたしなめるように仰いました。

「…。リトルティ・ナルデアと申します」

「…初めまして。リュシュエンヌ・トルディと申します。あ、あのっ 私、授業に遅れそうなのでお先に失礼致します。送って下さり、ありがとうございました」

「あ、リュシュエンヌ嬢!」

 オスカー様が私の名前を呼ばれたにも関わらず、私は逃げるようにその場を立ち去った。

 リトルティ様の煌めく黄金の髪、宝石のように明るい瞳。
 その美しい容姿は【白銀の薔薇貴公子】と呼ばれるオスカー様と並んでも決して見劣りする事はなく、それどころかさらに輝きを増している。

 誰が見てもお似合いのお二人。
 
 私はいたたまれない気持ちになり、早くその場から消えたかった…
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