5 / 14
第5話 リュシュエンヌの想い③
しおりを挟む
「目が覚めてしまったわ…」
カーテンの隙間からやわらかい朝日が差し込んでいた。
早起きして花壇の手入れをする必要はもうなくなったのに、いつもの時間に目が覚めてしまいました。
私はベッドから起き、カーテンを開けて空の様子を見た。
「オスカー様、花壇にいらしているかしら…」
今日から花壇は取り壊され、パーゴラが建設されます。
その事をオスカー様にお伝えするか迷った挙句、結局お伝えできなかった。
リトルティ様との事があり、よけいに躊躇してしまったから。
それに、もともと約束をして花壇でお会いしていた訳ではない。
一度手伝ったから、何となく続けてきてしまったのかもしれない。
どのみちオスカー様と過ごしたのはたったの4日ですもの。
もし早くいらしても、花壇が取り壊された状況を見ればお判りになるでしょうし。
いえ、それならば前もってお教えした方が、無駄な早起きをさせなくて済んだのでは!?
そんな事をいろいろ考えながら、私は部屋の中をうろうろしていた。
「ご不快に思っていらっしゃるかしら…」と独り言ちる私。
どの道、もう個人的にお会いする事はないものね…
私はカーテンを閉め、ベッドの中に戻り、もう一度眠る努力をした。
◇◇◇◇
花壇が取り壊された日から暫く経ったけれど、変わった事は登校時間が通常に戻ったというくらい。
もちろんオスカー様とお会いする事はなくなりました。
『どうしていらっしゃるかしら…』
ハッと気が付き、軽く首を振る。
【白銀の薔薇貴公子】と思っていた時はそのような事を考えたりもしなかったのに、少しお話ができたくらいで…
リトルティ様に言われた言葉が頭を過ります。
『あなた、勘違いしないでよね! オスカーはいつもひとりぼっちでいるあなたに同情しているだけよっ 少し優しくされたからってうぬぼれない方がいいわっ』
分かっています。
けれどぽっかり空いてしまったこの胸の空洞は、どうすれば埋める事ができるのでしょう。
遠くで聞こえる工事の音を耳にしながら、私はため息をつく事しかできませんでした。
◇◇◇◇
家に帰ると珍しい事が起きていました。
お父様がお帰りになっていたのです。半年ぶりかしら…
普段は愛妾と異母弟がいる別宅で過ごしていらっしゃるのに。
「旦那様が執務室でお待ちでございます」と執事から言われて、急いで向かった。
ドアをノックする前に小さく深呼吸。
正直、お父様とお会いする時は、初対面の方とお会いするよりも緊張します。
コンコン
「入りなさい」
久しぶりに聞いたお父様の声。
「失礼致します」
部屋に入るとお辞儀をし、お父様の方を見た。
何だが変な気分です。こんなお顔だったかしら。
「お前の婚約が決まった」
「…っ!」
久しぶりにあった娘に対して近況を聞くでもなく、いきなり本題から始まった。
しかもそれが私の婚約!?
驚いたけれど私は今年で18になったし、学院の卒業を控えている。
そろそろ話が出てもおかしくはなかった。
ましてや結婚は親が決める事であり、私に是非もない。
しかしお相手は、私が【鉄仮面の伯爵令嬢】と呼ばれている事をご存じなのでしょうか。
「…承知致しました」
「相手はおまえと同じ学院に通っている、ノルマンディ伯爵のご令息オスカー殿だ」
「……………………今…何と…」
「ん? だからオスカー・ノルマンディ伯…」
「「!!!!!何ですって!!!!!」」
私はお父様の言葉に被せるように声を張り上げた。
「…リュ、リュシュ…エンヌ…?」
お父様の目が見開いています。そうでしょうとも。
この18年間お父様との会話は「はい」「いいえ」もしくはお父様に問われた事に対して返答するのみ。
今のようにお父様に聞き返したり、ましてやこんなに声を上げた事は生まれて初めて。
ああ…今はそんな事どうでもいいです!
オスカー様が婚約者…私の婚約者…???
両手で顔を抑え、小刻みに震える私。
「お、おまえ…大丈夫か…?」
さすがの父も動揺が隠せません。
震えながら、私がぶつぶつ言葉を発し始めたのを目の当たりにすれば。
さらにその間ずっと真顔。我ながら恐ろしい光景だと思います。
「オ…オスカー様が婚約者…婚約者…婚約…私の…私のこん…」
その後の事は覚えておりません。
私…卒倒したようです。
気が付くと自分の部屋のベッドの上にいました。
サイドボードには水差しと手紙が置かれております。
『近日、ノルマンディ家との顔合わせをする。その時は今日のようなみっともない姿を決して晒すのではない!』
父からでした。
私はゆるりと身体を起こし、もう一度お父様の言葉を思い出しました。
『相手はノルマンディ伯爵のご令息オスカー殿だ』
本当に…オスカー様が私の…
ふと、リトルティ様のお顔が浮かびました。
……ではリトルティ様は?
カーテンの隙間からやわらかい朝日が差し込んでいた。
早起きして花壇の手入れをする必要はもうなくなったのに、いつもの時間に目が覚めてしまいました。
私はベッドから起き、カーテンを開けて空の様子を見た。
「オスカー様、花壇にいらしているかしら…」
今日から花壇は取り壊され、パーゴラが建設されます。
その事をオスカー様にお伝えするか迷った挙句、結局お伝えできなかった。
リトルティ様との事があり、よけいに躊躇してしまったから。
それに、もともと約束をして花壇でお会いしていた訳ではない。
一度手伝ったから、何となく続けてきてしまったのかもしれない。
どのみちオスカー様と過ごしたのはたったの4日ですもの。
もし早くいらしても、花壇が取り壊された状況を見ればお判りになるでしょうし。
いえ、それならば前もってお教えした方が、無駄な早起きをさせなくて済んだのでは!?
そんな事をいろいろ考えながら、私は部屋の中をうろうろしていた。
「ご不快に思っていらっしゃるかしら…」と独り言ちる私。
どの道、もう個人的にお会いする事はないものね…
私はカーテンを閉め、ベッドの中に戻り、もう一度眠る努力をした。
◇◇◇◇
花壇が取り壊された日から暫く経ったけれど、変わった事は登校時間が通常に戻ったというくらい。
もちろんオスカー様とお会いする事はなくなりました。
『どうしていらっしゃるかしら…』
ハッと気が付き、軽く首を振る。
【白銀の薔薇貴公子】と思っていた時はそのような事を考えたりもしなかったのに、少しお話ができたくらいで…
リトルティ様に言われた言葉が頭を過ります。
『あなた、勘違いしないでよね! オスカーはいつもひとりぼっちでいるあなたに同情しているだけよっ 少し優しくされたからってうぬぼれない方がいいわっ』
分かっています。
けれどぽっかり空いてしまったこの胸の空洞は、どうすれば埋める事ができるのでしょう。
遠くで聞こえる工事の音を耳にしながら、私はため息をつく事しかできませんでした。
◇◇◇◇
家に帰ると珍しい事が起きていました。
お父様がお帰りになっていたのです。半年ぶりかしら…
普段は愛妾と異母弟がいる別宅で過ごしていらっしゃるのに。
「旦那様が執務室でお待ちでございます」と執事から言われて、急いで向かった。
ドアをノックする前に小さく深呼吸。
正直、お父様とお会いする時は、初対面の方とお会いするよりも緊張します。
コンコン
「入りなさい」
久しぶりに聞いたお父様の声。
「失礼致します」
部屋に入るとお辞儀をし、お父様の方を見た。
何だが変な気分です。こんなお顔だったかしら。
「お前の婚約が決まった」
「…っ!」
久しぶりにあった娘に対して近況を聞くでもなく、いきなり本題から始まった。
しかもそれが私の婚約!?
驚いたけれど私は今年で18になったし、学院の卒業を控えている。
そろそろ話が出てもおかしくはなかった。
ましてや結婚は親が決める事であり、私に是非もない。
しかしお相手は、私が【鉄仮面の伯爵令嬢】と呼ばれている事をご存じなのでしょうか。
「…承知致しました」
「相手はおまえと同じ学院に通っている、ノルマンディ伯爵のご令息オスカー殿だ」
「……………………今…何と…」
「ん? だからオスカー・ノルマンディ伯…」
「「!!!!!何ですって!!!!!」」
私はお父様の言葉に被せるように声を張り上げた。
「…リュ、リュシュ…エンヌ…?」
お父様の目が見開いています。そうでしょうとも。
この18年間お父様との会話は「はい」「いいえ」もしくはお父様に問われた事に対して返答するのみ。
今のようにお父様に聞き返したり、ましてやこんなに声を上げた事は生まれて初めて。
ああ…今はそんな事どうでもいいです!
オスカー様が婚約者…私の婚約者…???
両手で顔を抑え、小刻みに震える私。
「お、おまえ…大丈夫か…?」
さすがの父も動揺が隠せません。
震えながら、私がぶつぶつ言葉を発し始めたのを目の当たりにすれば。
さらにその間ずっと真顔。我ながら恐ろしい光景だと思います。
「オ…オスカー様が婚約者…婚約者…婚約…私の…私のこん…」
その後の事は覚えておりません。
私…卒倒したようです。
気が付くと自分の部屋のベッドの上にいました。
サイドボードには水差しと手紙が置かれております。
『近日、ノルマンディ家との顔合わせをする。その時は今日のようなみっともない姿を決して晒すのではない!』
父からでした。
私はゆるりと身体を起こし、もう一度お父様の言葉を思い出しました。
『相手はノルマンディ伯爵のご令息オスカー殿だ』
本当に…オスカー様が私の…
ふと、リトルティ様のお顔が浮かびました。
……ではリトルティ様は?
807
お気に入りに追加
755
あなたにおすすめの小説
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる