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第10話
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◇――第1火曜日 PM6時08分――◇
美和とその取り巻きの少女たちは、5人で町を歩いていた。
話している内容は、特にこれと言って特徴のない他愛もない事。最近できた店のおいしいパンケーキや、流行のアプリ、動画サイトで見つけた面白い動画などなど。はたから見れば完全に、ただの女子高生の会話。と、そんな雰囲気が――
「そういえばさー。これ、どうしたらいいと思う?」
美和が肩にかけたバッグから取り出したそれで、一気に変わった。
緑色の、白雪未来と書かれた一冊のノート。それはこの日の朝、未来がリュックに入れた「証拠」となるノート。昼休みの時間に、美和たちはこのノートを回収していた。
「うわー、それ持って何する気だったんだろうねあいつ」
取り巻きの1人が美和に楽しそうに語る。周りがそれに合わせて「陰湿な奴ー」と賛同しだす。と、また1人が美和に対して声を出した。
「捨てちゃえばいいじゃん、ここで」
それを聞いて美和は、ふっ、と鼻で笑うと。
「それもそうね」
そう言って、バサッとノートを投げ捨てた。
◇――第2木曜日 AM7時50分――◇
未来は教室で本を読んでいた。
まだ、美和たちは来ていない。未だ証拠らしい物が手に入らず、未来は内心、ひどく焦りを覚えていた。
どんどん、どんどんと。自分が不利になるのを感じる。今から抗い勝つことはできないかもしれない、そんな思いがどうしてもよぎる。
大丈夫、大丈夫。私には若山くんが、赤坂さんが、みんながいる。かろうじてそう思うことで、不安を何とか抑えていた。
と、ざわざわする教室に、3人。すごい剣幕の女子が入ってきて、彼女らはすぐに未来の周りを取り囲んでしまった。
「え、な、なに?」
未来は見覚えのある展開に冷や汗を流す。と、女子の1人が少し、悲しそうな顔で。
「白雪さん……。本当、だったんだね。あの話」
「え?」
「私は正直、疑ってたんだよ。美和たちのこと。だって、あなたは良い人そうだから。でも……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! みんな、何の話をしてるの?」
未来が苦笑いを浮かべてそう言うと。別の女子が、未来に顔を近づけて。
「白雪さん、お願い。本当のこと、全部話して」
「だ、だから……何のこと?」
と、その未来の様子を見た女子が肩をすぼめて、「掲示板の前に連れて行きましょう」と。未来は、その後その3人の誘いを受けて掲示板まで向かった。
生徒玄関の前にある、お知らせやら新聞部の記事やらが載る掲示板。あまり見る人はいなくって、あってもなくても差し支えなさそうな物。今日はそれに、10人ほどの生徒が釘付けになっていた。
頭に疑問符を浮かべながらそこに向かう未来。そして、3人の女子が掲示板を指して、
「コレ」
そう、一声出した。未来は途端、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
掲示板に、自分が竜輝に頭を下げている写真が貼ってあった。ご丁寧にその下に、「告白された瞬間」という説明の紙まで付けて。厄介なのは、それが貼ってあったのが新聞部の欄だという事。新聞部は虚偽を書かない、嫌われ部活だがそれだけはみんな知っていた。
「な、なに、コレ……」
未来の思考が、止まってしまう。間違っている、これは「告白した瞬間」ではなく「告白を受けて、お願いしますと頭を下げた写真」だ。だが、未来の存在に気づいた人たちは。みんな、写真を信用して、未来を下に見るような、嫌な目を向けていた。
「白雪さん」
と、さっきの女子が。
「今ここで、本当のことを話した方が良いと思うよ。……少なくとも、言い訳されるよりかは見苦しくないから」
違う、違う、違う! 自分は、そんなこと……。視線に込められた思い、未来はそれに反発した。
『お前、やっぱり人の彼氏を寝取ろうとしたのか』
そんな思いに。未来の叫びは、口から出ていた。
「違う! 私は、後藤くんを青山さんから、奪おうなんて……」
「でも、これはもう確定的だよ。……白雪さん、だから……」
心配そうな彼女の目に浮かんだ敵意。正義感だけで言う言葉。未来がそれに泣きそうになった瞬間。
「ちょっと待ってよ、あんたたち」
突然、声が。未来がそちらを向くと、少し黒に近い茶髪の巻き髪の子が、3人の女子を睨みつけていた。
「この写真。どこが決定的だって言うの?」
彼女は、確か竹内(たけうち)加奈(かな)。怜斗の言っていた友達で協力者だ。
彼女の言葉に、さっきの女子が「は?」と声を出す。加奈ははぁ、とため息を吐きコメカミを指で押さえて。
「この写真には疑問を持つべき点があるって、そう言ってるのよ」
ガンと言い放つ。高圧的な物言い、それに女子はムッと表情を強張らせた。
「それって、いったいどこだっていうの? この写真がウソなんて、ありえないことでもいうつもり?」
「いいえ。この写真は本物よ。それは間違いないわ」
「なら、どこが疑う点って……」
「写真の見せ方よ」
加奈はそう言って掲示板を指差した。
「この写真は新聞部の欄に貼られている。みんなはそれで、むしろ信用したかもしれない。でも実際は真逆。新聞部の所にあるからこそ、おかしいの」
「それってどういう……」
「新聞部がゴシップ部何て呼ばれてる所以を考えれば簡単よ」
未来はそれを聞いて少し考える。と、突然閃いて、「あっ」と声を出した。それに呼応するよう、加奈は「そう」と頷く。
「新聞部は、こういう男女の色恋みたいなプライベートも記事にすることがあるの。だから嫌われてるわけだけどね。
つまり。“なんで記事じゃなくて、写真とペラい紙1枚で掲示板なんかに載せるのよ”って話よ」
それを聞いて、周りの人たちがドクンと顔を変える。と、女子がなお声を上げる。
「で、でも! たまたまそういうことも……」
「なら、そこにいる人に聞いてみましょう。見てましたよね? 新聞部現部長、琴寄(ことより)奏(かなで)さん」
加奈が睨んだ先には、1人、黒く腰まで伸びた髪を揺らす目のキツイ女の子。漫画の世界から抜け出してきたかのような容姿の彼女は、ふぅ、と一息ついて。
「あなたの言葉は間違いないわ。私たちならそんな写真で出さずにきっちり記事にして出す。今までもそれで貫き通してきたはずだけど」
奏と呼ばれた女性はキッパリ断言した。と、加奈が女子たちを睨みつける。
「分かった? この写真はそういう意味で不自然なのよ」
「で、でも! 新聞部がウソをついている可能性だって……」
「あー、もうわかったから」
直後、加奈は突然面倒臭そうな態度になって。
「あんたら説得するの無理だわ。だって、完璧なロジックを突きつけたところであんたらは否定するから。……そうね。さっきから白雪さんを案じるような言動をしているけど、実際は違う。あんたたちは、“悪い白雪さんをあえて心配する風にして、自分たちの人格の素晴らしさに酔いしれていたかった”が本音よ」
加奈がそう看破すると、女子たちは顔を怒りで震えさせた。
「なによ! あ、あんたみたいになんでも決めつける奴よりかは万倍マシよ! それにそんなこと思ってないしさ!
みんな、もう行こう! こいつになに言ってもダメだよ、だってバカだから!」
そう言って、3人はさっさと消えてしまった。加奈はそれを冷ややかに見つめて、はぁ、とため息をついてから。
「まあ、いいわ」
静かに言った。と、加奈は未来を突然見つめてきた。
「白雪さん、ごめんね。ちょっとムカついちゃってさ!」
「え? え、ええ……うん、あ、ありがとう」
声色が豹変した。さっきまでの氷のような声はどこへやら、いつの間にか元気な女の子になっていた。
「あ、言い忘れた。私、竹内加奈。怜斗から話は聞いてるよ。いくらでも協力するからね」
「あ、ありがとう加奈さん。でも、いいの? あなたも何かされるかも……」
「いいよ、別に。……怖くて何もできなかった自分にイライラするよりは、何倍も。それに……何かされるのは、慣れているから」
少し暗い顔になった。未来は「?」と首を傾げたが、その直後に加奈はまたパッと顔を明るくして。
「とりあえずさ、今日から私たちは友達よ。一緒に頑張りましょう!」
手を差し出してきた。未来はそれを、キョドキョドとしながら「う、うん……」と握った。
美和とその取り巻きの少女たちは、5人で町を歩いていた。
話している内容は、特にこれと言って特徴のない他愛もない事。最近できた店のおいしいパンケーキや、流行のアプリ、動画サイトで見つけた面白い動画などなど。はたから見れば完全に、ただの女子高生の会話。と、そんな雰囲気が――
「そういえばさー。これ、どうしたらいいと思う?」
美和が肩にかけたバッグから取り出したそれで、一気に変わった。
緑色の、白雪未来と書かれた一冊のノート。それはこの日の朝、未来がリュックに入れた「証拠」となるノート。昼休みの時間に、美和たちはこのノートを回収していた。
「うわー、それ持って何する気だったんだろうねあいつ」
取り巻きの1人が美和に楽しそうに語る。周りがそれに合わせて「陰湿な奴ー」と賛同しだす。と、また1人が美和に対して声を出した。
「捨てちゃえばいいじゃん、ここで」
それを聞いて美和は、ふっ、と鼻で笑うと。
「それもそうね」
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未来は教室で本を読んでいた。
まだ、美和たちは来ていない。未だ証拠らしい物が手に入らず、未来は内心、ひどく焦りを覚えていた。
どんどん、どんどんと。自分が不利になるのを感じる。今から抗い勝つことはできないかもしれない、そんな思いがどうしてもよぎる。
大丈夫、大丈夫。私には若山くんが、赤坂さんが、みんながいる。かろうじてそう思うことで、不安を何とか抑えていた。
と、ざわざわする教室に、3人。すごい剣幕の女子が入ってきて、彼女らはすぐに未来の周りを取り囲んでしまった。
「え、な、なに?」
未来は見覚えのある展開に冷や汗を流す。と、女子の1人が少し、悲しそうな顔で。
「白雪さん……。本当、だったんだね。あの話」
「え?」
「私は正直、疑ってたんだよ。美和たちのこと。だって、あなたは良い人そうだから。でも……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! みんな、何の話をしてるの?」
未来が苦笑いを浮かべてそう言うと。別の女子が、未来に顔を近づけて。
「白雪さん、お願い。本当のこと、全部話して」
「だ、だから……何のこと?」
と、その未来の様子を見た女子が肩をすぼめて、「掲示板の前に連れて行きましょう」と。未来は、その後その3人の誘いを受けて掲示板まで向かった。
生徒玄関の前にある、お知らせやら新聞部の記事やらが載る掲示板。あまり見る人はいなくって、あってもなくても差し支えなさそうな物。今日はそれに、10人ほどの生徒が釘付けになっていた。
頭に疑問符を浮かべながらそこに向かう未来。そして、3人の女子が掲示板を指して、
「コレ」
そう、一声出した。未来は途端、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
掲示板に、自分が竜輝に頭を下げている写真が貼ってあった。ご丁寧にその下に、「告白された瞬間」という説明の紙まで付けて。厄介なのは、それが貼ってあったのが新聞部の欄だという事。新聞部は虚偽を書かない、嫌われ部活だがそれだけはみんな知っていた。
「な、なに、コレ……」
未来の思考が、止まってしまう。間違っている、これは「告白した瞬間」ではなく「告白を受けて、お願いしますと頭を下げた写真」だ。だが、未来の存在に気づいた人たちは。みんな、写真を信用して、未来を下に見るような、嫌な目を向けていた。
「白雪さん」
と、さっきの女子が。
「今ここで、本当のことを話した方が良いと思うよ。……少なくとも、言い訳されるよりかは見苦しくないから」
違う、違う、違う! 自分は、そんなこと……。視線に込められた思い、未来はそれに反発した。
『お前、やっぱり人の彼氏を寝取ろうとしたのか』
そんな思いに。未来の叫びは、口から出ていた。
「違う! 私は、後藤くんを青山さんから、奪おうなんて……」
「でも、これはもう確定的だよ。……白雪さん、だから……」
心配そうな彼女の目に浮かんだ敵意。正義感だけで言う言葉。未来がそれに泣きそうになった瞬間。
「ちょっと待ってよ、あんたたち」
突然、声が。未来がそちらを向くと、少し黒に近い茶髪の巻き髪の子が、3人の女子を睨みつけていた。
「この写真。どこが決定的だって言うの?」
彼女は、確か竹内(たけうち)加奈(かな)。怜斗の言っていた友達で協力者だ。
彼女の言葉に、さっきの女子が「は?」と声を出す。加奈ははぁ、とため息を吐きコメカミを指で押さえて。
「この写真には疑問を持つべき点があるって、そう言ってるのよ」
ガンと言い放つ。高圧的な物言い、それに女子はムッと表情を強張らせた。
「それって、いったいどこだっていうの? この写真がウソなんて、ありえないことでもいうつもり?」
「いいえ。この写真は本物よ。それは間違いないわ」
「なら、どこが疑う点って……」
「写真の見せ方よ」
加奈はそう言って掲示板を指差した。
「この写真は新聞部の欄に貼られている。みんなはそれで、むしろ信用したかもしれない。でも実際は真逆。新聞部の所にあるからこそ、おかしいの」
「それってどういう……」
「新聞部がゴシップ部何て呼ばれてる所以を考えれば簡単よ」
未来はそれを聞いて少し考える。と、突然閃いて、「あっ」と声を出した。それに呼応するよう、加奈は「そう」と頷く。
「新聞部は、こういう男女の色恋みたいなプライベートも記事にすることがあるの。だから嫌われてるわけだけどね。
つまり。“なんで記事じゃなくて、写真とペラい紙1枚で掲示板なんかに載せるのよ”って話よ」
それを聞いて、周りの人たちがドクンと顔を変える。と、女子がなお声を上げる。
「で、でも! たまたまそういうことも……」
「なら、そこにいる人に聞いてみましょう。見てましたよね? 新聞部現部長、琴寄(ことより)奏(かなで)さん」
加奈が睨んだ先には、1人、黒く腰まで伸びた髪を揺らす目のキツイ女の子。漫画の世界から抜け出してきたかのような容姿の彼女は、ふぅ、と一息ついて。
「あなたの言葉は間違いないわ。私たちならそんな写真で出さずにきっちり記事にして出す。今までもそれで貫き通してきたはずだけど」
奏と呼ばれた女性はキッパリ断言した。と、加奈が女子たちを睨みつける。
「分かった? この写真はそういう意味で不自然なのよ」
「で、でも! 新聞部がウソをついている可能性だって……」
「あー、もうわかったから」
直後、加奈は突然面倒臭そうな態度になって。
「あんたら説得するの無理だわ。だって、完璧なロジックを突きつけたところであんたらは否定するから。……そうね。さっきから白雪さんを案じるような言動をしているけど、実際は違う。あんたたちは、“悪い白雪さんをあえて心配する風にして、自分たちの人格の素晴らしさに酔いしれていたかった”が本音よ」
加奈がそう看破すると、女子たちは顔を怒りで震えさせた。
「なによ! あ、あんたみたいになんでも決めつける奴よりかは万倍マシよ! それにそんなこと思ってないしさ!
みんな、もう行こう! こいつになに言ってもダメだよ、だってバカだから!」
そう言って、3人はさっさと消えてしまった。加奈はそれを冷ややかに見つめて、はぁ、とため息をついてから。
「まあ、いいわ」
静かに言った。と、加奈は未来を突然見つめてきた。
「白雪さん、ごめんね。ちょっとムカついちゃってさ!」
「え? え、ええ……うん、あ、ありがとう」
声色が豹変した。さっきまでの氷のような声はどこへやら、いつの間にか元気な女の子になっていた。
「あ、言い忘れた。私、竹内加奈。怜斗から話は聞いてるよ。いくらでも協力するからね」
「あ、ありがとう加奈さん。でも、いいの? あなたも何かされるかも……」
「いいよ、別に。……怖くて何もできなかった自分にイライラするよりは、何倍も。それに……何かされるのは、慣れているから」
少し暗い顔になった。未来は「?」と首を傾げたが、その直後に加奈はまたパッと顔を明るくして。
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