上 下
6 / 26

第06報『コード』

しおりを挟む
 新倉にいくらさんのお宅は一族の本家筋にあたり、仏間の鴨居には幾つもの遺影が並んでいる。
 その中にはひときわ若い男性の写真もあり、30歳で夭逝した彼の叔父にあたる人のものなのだという。

 この遺影に不可解な変化が現れだした。

 おそらく2、3年ほど前からだそうだが、

 何故かお顔の頬のあたりに――妙な模様が浮かびだしたのだというのだ。

 ちょうど、大きめの指紋のような感じの不思議な模様が。
 最初うっすらとのように現れ出たそれが、やがて痣のようにくっきり見えるようになった。

 ・・・何か故人の『知らせ』だろうか。念の為心当たりを家族や親戚に尋ねてもみたが、誰も彼も見当が付かぬと答える。菩提寺の御住職も、首を捻るばかり。

 手の打ちようがないので、仕方なく放っておいた。


 ――が、今年の初め頃のこと。

「ん~。何かコレさぁ、QRコードに似てね?」

 新倉さんのご長男がそんなことを言い出してから、状況が変わってきた。

「スマホのリーダーアプリで読み取れちゃったりして」
「・・・おい、仏間でおかしな事を言うな。バチが当たるぞ」

 父親として窘めてはみたものの。
 言われてみればもう、QRコード以外の何物にも見えなくなってしまった。

 仏間に入ってこの遺影に目が行く度、無意識にスマホを握りしめている自分に気づく。
 これは読み取れるものなのか?だとすれば、何が表示されるのか?
 気になって仕方が無い。


 ある日、馬鹿馬鹿しいとは思いながら 遺影に話しかけてみた。

「叔父貴。何か我々に伝えたいことでもあるのですか? ・・・読み取りますよ?」



 ――やってくれ、とでも言うが如く 
 遺影が鴨居から真っ逆さまに落ちてきた。



「・・・だから、なんです。叔父貴の遺影は今、お寺に預かって貰ってます」


 新倉さんはそう語る。
 そのまま読み取りを実行したら 知らなくていいを知ってしまいそうな予感がして、怖くなったのだという。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

実話怪談集『境界』

烏目浩輔
ホラー
ショートショートor短編の実話怪談集です。アルファポリスとエブリスタで公開しています。 基本的に一話完結で、各話に繋がりもありません。一話目から順番に読んでもらっても構いませんし、気になった話だけ読んでもらっても構いません。 お好きな読み方でご自由にお読みくださいませ。 遅筆なので毎日の更新は無理だと思います。二、三日に一話を目指してがんばります。 というか、最近は一週間〜十日ほどあいたりすることもあります。すみません……。

真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事
ホラー
? 『本当に怖い話、読みたくなる怪談とは何なのか?!』の追求――  2017年11月某日、長崎県西端 田舎を極めた田舎のとあるファミレスに、四人の人間が密かに集った。一人はアマチュアの実話怪談作家・松岡真事。残る三人は、彼に怪談を提供した本物の怪奇現象体験者たち。 「あなた達は、世にも希なる奇妙な出来事に遭遇された縁ある方々だ。そんなあなた方に問いたい。どんな怪談が、いちばん心の琴線に触れる、だろうか?」  導き出された答え。「直ぐに読めてゾクッとする物語」を蒐めに蒐めた実話怪談集!  ショートショート感覚で繰り出される、異様な現実の数々。因縁、妖魔、呪詛、不可思議が織りなす奇妙怪奇なカレイドスコープ。覗き見たあなたは何を見るか。そこには、流れ落ちる色とりどりな魔石の砂々。さらさらと、流れ落ちたる砂時計。  さらさら、さらさら、さらさらと――  もう元の世界に戻れなくなる。あなたを誘う小さな物語たち。  どこからなりと、御賞味を――

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

真事の怪談~寸志小品七連~

松岡真事
ホラー
 どうも、松岡真事が失礼致します。  皆様のおかげで完結しました百物語『妖魅砂時計』―― その背景には、SNSで知り合いました多くのフォロワーの方々のご支援も強い基盤となっておりました。  そんなSNS上において、『おまけ怪談』と称して画像ファイルのかたちで一般公開した〝超短編の〟怪談群がございます。決して数も多くはありませんが、このたび一つにまとめ、アルファポリス様にて公開させて頂くことを決意しました。  多少細部に手を入れておりますが、話の骨子は変わりません。 ・・・アルファポリスという媒体のみで私の作品に触れられた方には初見となることでしょう。百物語終了以降、嬉しいご意見を頂いたり、熱心に何度も閲覧されている読者様の存在を知ったりして、どうにか早いご恩返しをしたいと考えた次第です。  また、SNS上で既にお話をご覧になった方々の為にも、新しい話を4話、書き下ろさせて頂きました。第1話、第3話、第5話、第7話がそれに当たります。他の話と釣り合いを取らせる為、800文字以下の超短編の形式をとっています。これを放出してしまうと貯金がほとんどスッカラカン(2018年11月初頭現在)になってしまいますが、また頑張って怖いお話を蒐集してカムバック致しますので、お楽しみにを。  それではサクッとお読み下さい。ゾクッときますので――

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

花の檻

蒼琉璃
ホラー
東京で連続して起きる、通称『連続種死殺人事件』は人々を恐怖のどん底に落としていた。 それが明るみになったのは、桜井鳴海の死が白昼堂々渋谷のスクランブル交差点で公開処刑されたからだ。 唯一の身内を、心身とも殺された高階葵(たかしなあおい)による、異能復讐物語。 刑事鬼頭と犯罪心理学者佐伯との攻防の末にある、葵の未来とは………。 Illustrator がんそん様 Suico様 ※ホラーミステリー大賞作品。 ※グロテスク・スプラッター要素あり。 ※シリアス。 ※ホラーミステリー。 ※犯罪描写などがありますが、それらは悪として書いています。

わたしたちの楽園

栗須帳(くりす・とばり)
ホラー
就職を機に都会に越してきた楓。彼女が住むのはマンション「楽園」。 「一人はみんなの為に、みんなは一人の為に」集会場に大きく掲げられた言葉通り、ここの住人は皆優しく親切で、何も分からない楓に親身になって接してくれた。不安だった新生活に希望を見出した楓は、ここから新しい人生をスタートするんだ、そう決意するのだった。しかし…… 全12話です。

処理中です...