上 下
33 / 171
パート2:ターゲット

第33話 支援

しおりを挟む
 その頃、ようやく出撃の準備が整ったアーサーは装備を身にまとった状態で本社のエントランスへと向かっていた。

「アーサー、一応伝えておくが君が今装着しているのは開発中の試作型だ。携帯型装甲…アスラをベースに、いつでもどこでも使用可能な外骨格をコンセプトに作られた物でね。色々と犠牲にはしたが、何とか一人で持ち運べる大きさにまで収納できるようにした」

 マークから連絡が入ると、アーサーが慌てて言われたとおりに身に着けた装備について説明をしてくる。確かに見た目こそアスラの面影があるものの、全体的に質素なデザインに変わっており、何より装甲が薄い。特大サイズのアタッシュケースに各部位が分かれて収納されていた事にも驚いたが、いざ付けてみると折り畳まれていた装甲が展開し、問題なく動作していた。

「だが言った通り色々と制限がある。当然だが出力は格段に低下しているから、近接で殴り合いなんて馬鹿な真似はよしてくれよ。おまけに収納する上で邪魔な物は取っ払っているから、防御力も大幅に下がっている。最後に活動できる時間だが、持って三十分程度だと思ってくれ」
「兵器の性能確認のために死ねって事か。泣きたくなるね」

 アーサーは気を荒げる事は無かったが、想像以上に制限が多すぎるという点に対して憤慨していた。アスラでさえ太刀打ちできる望みが薄いというのに、これでは棺桶に入れられてる様なものだと心の中で愚痴を零してから悪態をつく。

「一応武器も持たせてるんだから良いじゃないか。それとも丸腰で放り込まれるのをご所望だったかな ? とにかくマズいと思ったらすぐに逃げるんだ」

 マークは無いよりはマシだろうと言ってから、最悪の場合に備えて逃走も視野に入れて欲しいと彼を諭す。優秀な人材だからこそ無事に帰ってきて欲しいという思いがあったのは勿論だが、使用者の体験という点でのデータを収集しておきたかったという目的があるのは言うまでもない。

 地下からの直通エレベーターが開き、グレネードランチャーを構えながらエントランスホールへ突入したアーサーだったが、直後に自信の頭上を何かが掠める。背後の壁に激突したらしく、壁が砕ける音や何かが床へ落ちる音が聞こえてきた。振り向いてみれば、身体に付着した壁の破片をはたきながら立ち上がるベクターがいる。

「どうもって言いたいところだが、隠れてた方が幸せだったかもな」

 ベクターが憐れむように言ってから前を向く様に指で示す。正面へ視線を戻すと、イフリートが歩きながらこちらへ接近していた。

「お前が呼び寄せたのか…!?あのイカレ野郎を…」
「えっと、そうとも言えるし、そうでないとも言える」

 武器を構えながら急いで尋ねるアーサーだったが、責任を追及されたくなかったベクターは酷く曖昧な調子で答えた。ベクターの言い淀み方からして、度合いにもよるが間違いなくこの馬鹿が原因だとアーサーは断定し、彼に対して反応する事なくイフリートへ攻撃を開始する。グレネード弾が発射され、胴体にあたった後に爆発が起きた。周囲にある物を巻き込んで炸裂したが、煙の中から現れたイフリートは怠そうに首を鳴らしながら歩みを再開する。

「な、凄いだろ ? 」
「突っ立ってないでお前も何かしろ ! 」

 他人事の様に笑っているベクターへアーサーは苛立ちを隠さずに叫ぶ。そんなこと言われようがどうしようもないと、ベクターはお手上げといった風に首を横に振った。まともな格闘戦では太刀打ちが出来ず、左腕のエネルギーも既に無くなっているせいで変形も出来ない。

「クソッ、俺だけでも何とかしないと…」

 その頃、自分が連れて来た不審者によって想定外の出来事が起きた事に対してジョージは己の選択を悔やんでいた。痛みを堪えつつ何とか立ち上がってからシアルド・インダストリーズへ突入をしようとした時、どこからともなく背後から人影が現れる。

「あーらら…わざわざ連絡してくるわけね」

 リーラが何やら納得した様に呟き、目が合ったジョージに会釈をしてから建物へ向かって歩き出す。

「おい何やってる!?」
「何って…助っ人だけど ?」
「すぐに避難するんだ ! 君なんかに何が出来る ? 」

 引き留めようとしたジョージだったが、リーラは何か問題でもあるのかという風な口ぶりで言い返す。コートを羽織り、シンプルな色合いの帽子を被っている彼女の姿はとてもではないが戦いに臨めるような状態ではない。強いて言えば片手に長尺のロッドを携えていたが、いずれにせよ戦闘に耐えうるような代物ではなさそうだった。

「…戦うのは私じゃない。どいて」

 面倒くさそうにジョージの手を払いのけたリーラは、ガラスの破片や崩れた柱を気にしながら屋内へ侵入する。彼女の存在に気づいたのか、ムラセが受付のカウンターから手を振った。警備室から戻っていたタルマンも彼女を見て安堵している。

「武器は持って来させている…そろそろね。どうにかこっちへ気を引き付けられるかしら ?」

 リーラが時計を見ながら何かを確認し、二人へ催促をしてきた。タルマンがムラセに拳銃を渡し、二人で一斉に背を向けているイフリートへ射撃を行う。煩わしいと感じたイフリートは入り口付近にいるリーラ達の方へ睨みを利かせる。タルマンはともかく、他の二人に関しては魔力が宿っている事をすぐに感じ取った。

「…ほう」

 興味深そうにイフリートが自分を見た直後、リーラはロッドを使って床を小突く。その動作の意図をすぐに察したベクターは、自身の背後に巨大な魔方陣が生み出されている事に気づいた。

「伏せろ ! 」

 ベクターがそう言ってアーサーを抑えつけて床へ押し倒した瞬間、魔方陣が光り出して三つ首の巨大なデーモンが飛び出して来た。犬の様な姿をしており、黒い体毛には渦を連想させるような赤い模様がびっしりと浮かび上がっている。背後から現れた強烈な気配にイフリートが思わず反応した頃には、胴体めがけて巨大な前足が横から叩きつけられていた。

 そのまま吹き飛ばされたイフリートが壁の向こうに消え、呆然としていたアーサーを余所に犬の姿をしたデーモンはベクターに近づく。そして巨大な口を使って彼の体を一舐めした。

「おえっ…くっせ…」

 その腐らせた果物のような臭いに文句を垂れながらベクターが睨むと、三つの首は揃いも揃ってニンマリと牙を剥き出しにしながら笑う。

「ケルベロス…うちの飼い犬の本来の姿よ」

 その様子を遠くから見ていたリーラは、自分の近くで怯えるムラセを安心させるために犬の姿をしたデーモンの正体を伝えてから彼女に向かって得意気に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...