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パート1:ようこそ掃き溜めへ
第16話 世の中そんなもん
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「ひとまず無事で何より。 後はベクターがどの辺りにいるかを探す必要があるが、下手に動くと危険が…嬢ちゃん、何読んでんだ ?」
何とかムラセと合流し、彼女が持っていた荷物を積んでからタルマンは運転席に戻る。そして今後の予定を話していたのだが、助手席にいるムラセがボロボロな紙切れを見つめている事に気づいた。
「さっき、荷物の中から見つけて…どうぞ」
紙を渡してくる彼女の顔は、心なしか暗かった。どういう事かと思いつつ紙を手に取ったタルマンは、そこに記されていた文章を読む。そして、最後は憐れむように首を振った。
――――自分へと一気に詰め寄り、その豪快な腕を振りかざしてくるラ・ヨローナだったが、ベクターはオベリスクで弾いて攻撃を防いだ。衝撃も確かに凄まじいものだったが、彼にとっては危険視する程の物ではない。そして隙を見つけては腕や足、顔面に斬撃を浴びせた。
「雑なパンチ…体の使い方をもっと覚えなよ。ジムにでも通ったらどうだ ? 良いトコ知ってるぜ」
距離を取ってからベクターはさらに煽り倒す。意味は到底分かっていない様だったが、馬鹿にされているというのはベクターの態度で理解したらしい。ラ・ヨローナは怒り狂ったように攻撃の速度を速めて襲い掛かって来る。当然の如く、ベクターは回避や防御を継続しつつ反撃の機会を窺っていた。
ラ・ヨローナに疲労が見えて来た頃、大振りなパンチが放たれた瞬間を見計らってからベクターが仕掛けた。放たれたパンチを跳躍で躱し、そのままラ・ヨローナの腕に飛び乗ってから顔面に目掛けて駆け出していく。慌てて振り払おうとする頃には、ベクターが再びジャンプをした後だった。
ラ・ヨローナの顔へ飛び掛かったベクターは、勢いを利用してオベリスクを眉間に突き刺す。オベリスクが深々と突き刺さった箇所から溢れ出る血や体液、そして肉片を左腕はひたすら吸収し続けていた。
「ギャアアアアアア‼」
耐えきれなくなったラ・ヨローナは叫びを上げ、咄嗟にベクターへ掴みかかった。何とか頭部から引き離した後に、手の中で握りつぶしてやろうと力を込めるが、ベクターは腕や足を使って無理やり手を開かせる。そのまま掌を蹴って脱出したベクターは、ラ・ヨローナが必死にオベリスクを引き抜いて地面に投げ捨てようとする瞬間を見逃さなかった。
再び走り出した彼は、左腕を鉤爪に変形させてから投げ捨てられたオベリスクに向かって思い切り伸ばす。何とか掴んで手元に引き寄せた後はすぐにいつもの腕の形態へと戻し、そのまま敵の懐へと潜り込んだ。オベリスクをどうにかする事に集中しすぎていたせいで、ラ・ヨローナはベクターの動向を完全に把握できずにいた。
気づいた頃にはベクターが自身の腹部を横薙ぎに切り裂き、はらわたを掴んで引き摺り出していた。内臓を曝け出される事に危機感を感じるのは、人間もデーモンも同じであった。動作の邪魔になるだけでなく、それらを破壊されることによる苦痛や死を恐れていたのである。
必死に砂や埃まみれになったはらわたを引き摺って後ずさりをするラ・ヨローナに対して、ベクターは一歩ずつゆっくりと確実に歩み寄っていく。これまで自分が狩ってきた人間達とは明らかに一線を画す戦闘能力、そして残忍さを持ち合わせているとラ・ヨローナは悟った。
とうとうベクターに恐れをなして一目散に逃げだそうとするラ・ヨローナだったが、ベクターは左腕を再び変形させる。
「オペレーション、破砕剛拳」
ベクターの号令によって、左腕はたちまち筋肉質且つ巨大な物へと姿を変える。そして息も絶え絶えに逃げようとするラ・ヨローナの足を掴むと、滅茶苦茶に振り回してあちこちに叩きつけた後に適当な方向へとぶん投げた。そして再び起き上がろうとする敵に向かって、巨拳による最後の一撃を放つ。そのまま頭を叩き潰されたラ・ヨローナは衝撃によって陥没した地面の中で、静かに息を引き取った。
――――ベクターの決着より数分前、アーサーの率いる部隊は廃墟へと到着してから作戦を開始していた。アーサーも整備が完了したアスラを身に纏ったまま、周囲の警戒を行いつつ調査を進めていく。
「これといって異常は無しか…妙だな」
三チーム程に分かれて行動をさせていたが、来る報告と言えば雑魚との遭遇ばかりである。アーサーはその状況を少し不思議に思っていた。
『確かに、何だか張り合い無いですよね…ですけど例の脱走した奴隷はその辺りにいますよ。レーダーが示している』
シェルターの外部に停めさせている大型のトレーラー内部では、通信を担当していた兵士が彼に伝えながらコーヒーを飲んでいた。呑気そうな報告に気が緩みかけたアーサーだったが、直後に激しい倒壊の音や何かの悲鳴らしきものが聞こえる。
「…今のは!?」
思わず走り出してから音のした方へ向かったアーサーは、その正体を目撃すると同時に建物の陰へ隠れた。資料で見た事のある大型のデーモンだったが、なぜか倒れたまま起き上がろうとしない。やがて立ち込める土煙が晴れると、その周りを歩いているベクターを彼は目撃し、彼がたった一人で倒したという事実に戦慄した。
――――一方でベクターは、軽くラ・ヨローナの肉体を蹴って生死を確かめる。大した反応も無い事からすぐに死んでいる事が分かった。
「さーて…コアだけ回収しとくか」
そうしてベクターが呟いて切り裂かれた腹に腕を突っ込んでいると、遠くからクラクションの音が聞こえる。タルマンが運転している装甲車だった。
「おーい、こっちこっち ! 」
ベクターが手を振ったのを確認したタルマンは、近くで停めてからラ・ヨローナの亡骸に驚愕した。
「嘘だろ、ラ・ヨローナか… ! 実物なんざ初めて見たぜ」
「頭は潰しといた。気味が悪かったもんで」
しげしげと見つめるタルマンにベクターは話しかける。そして遅れて車から降りて来たムラセに手を振ったが、どうも様子がおかしい。
「おい、大丈夫か ? 」
イマイチ元気のない彼女へベクターは話しかけるが、ムラセは簡単に返事だけしてからラ・ヨローナの死体へと向かう。直後にタルマンが彼に紙きれを渡して来た。
「さっきまで、お前と一緒にいたっていうハンターの荷物から見つけたらしい…」
そこに書かれていたのは、一攫千金などという浅はかな目的のために来た自分の愚かさへの叱咤や、巻き込んだ挙句に手を掛けてしまった友人への懺悔、そしてシェルターで帰りを待っているという妻子への遺言だった。店を開くために資金が必要だったと書かれており、ベクターは呆れや同情が入り混じったやるせなさを感じた。
「よりにもよってこんな方法を選ぶかね…」
一言呟いてから、ベクターはその遺言書をタルマンに返す。ついでに見つけておいたラ・ヨローナのコアを彼に託してから、座り込んでいるムラセの元へ近づいて行った。
「アレ、見たよ。気を悪くしないで欲しいが…正直、珍しい事じゃないんだ」
ベクターが話を始めると、ムラセは彼の方を見る。ガスマスクによって表情が一切見えず、彼が内心どう思っているのかが読めない。そのせいか少しだけ不気味に感じた。
「この仕事は上手く行けば稼げるし、コネも作れる…だがそれだけだ。今回みたいに強力なデーモンが現れれば簡単に殺され、生きて帰ったとしても仲間やノルマ欲しさに追いはぎをして来るギルドの組員に狙われる…意外と無法地帯なんだよ、ハンターの世界はさ。金か力が無ければどう足掻こうがカモにされる。保安機構みたいな治安維持組織さえ、手出しが出来ない企業やギルドがあるんだ…大人の事情ってやつだな」
ベクターはそこまで話してから立ち上がり、ムラセに手伝ってくれと言いながら手袋を渡す。ムラセは何も言わずにそれを身に付けてから彼と共に死体へ近づいた。
「誰も言わないが、陰でハンターは自殺志願者って呼ばれてるらしい…人並みに稼げるよりも死ぬ確率の方が高いってのに正気の沙汰じゃないんだと。事実、楽しんでやってる奴なんかほとんどいない。大半は碌な職も無い、犯罪者紛いな連中だらけだよ。だから金次第で裏社会の汚れ仕事だろうが平気でやっちまうんだ」
使えそうな素材のみを剥ぎ取りながら、ベクターは話を続ける。
「ベクターさんは…楽しんでる方ですか ? 」
「少なくとも後悔はしてない」
一通りバッグに詰め終わった頃、ムラセの質問に対してベクターは言った。
「まあ働き方次第だが…案外、悪くないもんだぜ。誰かの助けになるって建前もあるが、何より余計な事をゴチャゴチャ考えなくて良い。『気に入らないもんは全てぶっ飛ばす』、それだけ覚えておけば何とかなる」
少し笑ってからベクターは言うと、荷物を運ぶために車へと戻って行く。呆気なく無惨に殺される様な世界でどう楽しめば良いのか、ムラセは理解できないままであった。彼の様に強くなれれば少しは変わるのかと考えつつ、バッグを抱えて車へ積み込む。
「ハッキリと言っておくが、無理強いはしない」
ベクターは優しげな声で再び言った。どこか突き放すようではあったが、今の自分の状態を察し、彼なりに気遣ってくれているのだろうとムラセは感じていた。一方で帰る場所も無い自分が今更何をすれば良いのか、彼女は延々と悩み続けていた。
その頃、後片付けをしてから撤収の準備を進めるベクター達を、建物の陰からアーサーが見ていた。片手に携えたロケットランチャーを構え、レーダーサイトで車へ狙いを付ける。そしてムラセが次の荷物を取りに行った瞬間、躊躇うことなく弾頭を発射した。
いち早く攻撃を察知したベクターは、こちらへ飛んでくる弾頭を視認してからオベリスクを握る。次の瞬間、爆発させる事なく弾頭の側面をオベリスクに掠らせて、あろうことか軌道を反らして見せた。すれすれで車に当たらなかった弾頭は明後日の方向にある建物に激突し、巨大な爆発を引き起こして倒壊させる。
「うわあっ ! 」
「…ムラセ、車に隠れてろ」
驚いて腰を抜かしそうになるムラセを支え、ベクターは隠れるよう指示をした。タルマンもまた、いつでも出せる様にだけしておくと言ってから車に乗り込む。二人に目配せをしてからベクターは改めて攻撃が来た方角を睨み、舌打ちをしながら歩き始めた。
何とかムラセと合流し、彼女が持っていた荷物を積んでからタルマンは運転席に戻る。そして今後の予定を話していたのだが、助手席にいるムラセがボロボロな紙切れを見つめている事に気づいた。
「さっき、荷物の中から見つけて…どうぞ」
紙を渡してくる彼女の顔は、心なしか暗かった。どういう事かと思いつつ紙を手に取ったタルマンは、そこに記されていた文章を読む。そして、最後は憐れむように首を振った。
――――自分へと一気に詰め寄り、その豪快な腕を振りかざしてくるラ・ヨローナだったが、ベクターはオベリスクで弾いて攻撃を防いだ。衝撃も確かに凄まじいものだったが、彼にとっては危険視する程の物ではない。そして隙を見つけては腕や足、顔面に斬撃を浴びせた。
「雑なパンチ…体の使い方をもっと覚えなよ。ジムにでも通ったらどうだ ? 良いトコ知ってるぜ」
距離を取ってからベクターはさらに煽り倒す。意味は到底分かっていない様だったが、馬鹿にされているというのはベクターの態度で理解したらしい。ラ・ヨローナは怒り狂ったように攻撃の速度を速めて襲い掛かって来る。当然の如く、ベクターは回避や防御を継続しつつ反撃の機会を窺っていた。
ラ・ヨローナに疲労が見えて来た頃、大振りなパンチが放たれた瞬間を見計らってからベクターが仕掛けた。放たれたパンチを跳躍で躱し、そのままラ・ヨローナの腕に飛び乗ってから顔面に目掛けて駆け出していく。慌てて振り払おうとする頃には、ベクターが再びジャンプをした後だった。
ラ・ヨローナの顔へ飛び掛かったベクターは、勢いを利用してオベリスクを眉間に突き刺す。オベリスクが深々と突き刺さった箇所から溢れ出る血や体液、そして肉片を左腕はひたすら吸収し続けていた。
「ギャアアアアアア‼」
耐えきれなくなったラ・ヨローナは叫びを上げ、咄嗟にベクターへ掴みかかった。何とか頭部から引き離した後に、手の中で握りつぶしてやろうと力を込めるが、ベクターは腕や足を使って無理やり手を開かせる。そのまま掌を蹴って脱出したベクターは、ラ・ヨローナが必死にオベリスクを引き抜いて地面に投げ捨てようとする瞬間を見逃さなかった。
再び走り出した彼は、左腕を鉤爪に変形させてから投げ捨てられたオベリスクに向かって思い切り伸ばす。何とか掴んで手元に引き寄せた後はすぐにいつもの腕の形態へと戻し、そのまま敵の懐へと潜り込んだ。オベリスクをどうにかする事に集中しすぎていたせいで、ラ・ヨローナはベクターの動向を完全に把握できずにいた。
気づいた頃にはベクターが自身の腹部を横薙ぎに切り裂き、はらわたを掴んで引き摺り出していた。内臓を曝け出される事に危機感を感じるのは、人間もデーモンも同じであった。動作の邪魔になるだけでなく、それらを破壊されることによる苦痛や死を恐れていたのである。
必死に砂や埃まみれになったはらわたを引き摺って後ずさりをするラ・ヨローナに対して、ベクターは一歩ずつゆっくりと確実に歩み寄っていく。これまで自分が狩ってきた人間達とは明らかに一線を画す戦闘能力、そして残忍さを持ち合わせているとラ・ヨローナは悟った。
とうとうベクターに恐れをなして一目散に逃げだそうとするラ・ヨローナだったが、ベクターは左腕を再び変形させる。
「オペレーション、破砕剛拳」
ベクターの号令によって、左腕はたちまち筋肉質且つ巨大な物へと姿を変える。そして息も絶え絶えに逃げようとするラ・ヨローナの足を掴むと、滅茶苦茶に振り回してあちこちに叩きつけた後に適当な方向へとぶん投げた。そして再び起き上がろうとする敵に向かって、巨拳による最後の一撃を放つ。そのまま頭を叩き潰されたラ・ヨローナは衝撃によって陥没した地面の中で、静かに息を引き取った。
――――ベクターの決着より数分前、アーサーの率いる部隊は廃墟へと到着してから作戦を開始していた。アーサーも整備が完了したアスラを身に纏ったまま、周囲の警戒を行いつつ調査を進めていく。
「これといって異常は無しか…妙だな」
三チーム程に分かれて行動をさせていたが、来る報告と言えば雑魚との遭遇ばかりである。アーサーはその状況を少し不思議に思っていた。
『確かに、何だか張り合い無いですよね…ですけど例の脱走した奴隷はその辺りにいますよ。レーダーが示している』
シェルターの外部に停めさせている大型のトレーラー内部では、通信を担当していた兵士が彼に伝えながらコーヒーを飲んでいた。呑気そうな報告に気が緩みかけたアーサーだったが、直後に激しい倒壊の音や何かの悲鳴らしきものが聞こえる。
「…今のは!?」
思わず走り出してから音のした方へ向かったアーサーは、その正体を目撃すると同時に建物の陰へ隠れた。資料で見た事のある大型のデーモンだったが、なぜか倒れたまま起き上がろうとしない。やがて立ち込める土煙が晴れると、その周りを歩いているベクターを彼は目撃し、彼がたった一人で倒したという事実に戦慄した。
――――一方でベクターは、軽くラ・ヨローナの肉体を蹴って生死を確かめる。大した反応も無い事からすぐに死んでいる事が分かった。
「さーて…コアだけ回収しとくか」
そうしてベクターが呟いて切り裂かれた腹に腕を突っ込んでいると、遠くからクラクションの音が聞こえる。タルマンが運転している装甲車だった。
「おーい、こっちこっち ! 」
ベクターが手を振ったのを確認したタルマンは、近くで停めてからラ・ヨローナの亡骸に驚愕した。
「嘘だろ、ラ・ヨローナか… ! 実物なんざ初めて見たぜ」
「頭は潰しといた。気味が悪かったもんで」
しげしげと見つめるタルマンにベクターは話しかける。そして遅れて車から降りて来たムラセに手を振ったが、どうも様子がおかしい。
「おい、大丈夫か ? 」
イマイチ元気のない彼女へベクターは話しかけるが、ムラセは簡単に返事だけしてからラ・ヨローナの死体へと向かう。直後にタルマンが彼に紙きれを渡して来た。
「さっきまで、お前と一緒にいたっていうハンターの荷物から見つけたらしい…」
そこに書かれていたのは、一攫千金などという浅はかな目的のために来た自分の愚かさへの叱咤や、巻き込んだ挙句に手を掛けてしまった友人への懺悔、そしてシェルターで帰りを待っているという妻子への遺言だった。店を開くために資金が必要だったと書かれており、ベクターは呆れや同情が入り混じったやるせなさを感じた。
「よりにもよってこんな方法を選ぶかね…」
一言呟いてから、ベクターはその遺言書をタルマンに返す。ついでに見つけておいたラ・ヨローナのコアを彼に託してから、座り込んでいるムラセの元へ近づいて行った。
「アレ、見たよ。気を悪くしないで欲しいが…正直、珍しい事じゃないんだ」
ベクターが話を始めると、ムラセは彼の方を見る。ガスマスクによって表情が一切見えず、彼が内心どう思っているのかが読めない。そのせいか少しだけ不気味に感じた。
「この仕事は上手く行けば稼げるし、コネも作れる…だがそれだけだ。今回みたいに強力なデーモンが現れれば簡単に殺され、生きて帰ったとしても仲間やノルマ欲しさに追いはぎをして来るギルドの組員に狙われる…意外と無法地帯なんだよ、ハンターの世界はさ。金か力が無ければどう足掻こうがカモにされる。保安機構みたいな治安維持組織さえ、手出しが出来ない企業やギルドがあるんだ…大人の事情ってやつだな」
ベクターはそこまで話してから立ち上がり、ムラセに手伝ってくれと言いながら手袋を渡す。ムラセは何も言わずにそれを身に付けてから彼と共に死体へ近づいた。
「誰も言わないが、陰でハンターは自殺志願者って呼ばれてるらしい…人並みに稼げるよりも死ぬ確率の方が高いってのに正気の沙汰じゃないんだと。事実、楽しんでやってる奴なんかほとんどいない。大半は碌な職も無い、犯罪者紛いな連中だらけだよ。だから金次第で裏社会の汚れ仕事だろうが平気でやっちまうんだ」
使えそうな素材のみを剥ぎ取りながら、ベクターは話を続ける。
「ベクターさんは…楽しんでる方ですか ? 」
「少なくとも後悔はしてない」
一通りバッグに詰め終わった頃、ムラセの質問に対してベクターは言った。
「まあ働き方次第だが…案外、悪くないもんだぜ。誰かの助けになるって建前もあるが、何より余計な事をゴチャゴチャ考えなくて良い。『気に入らないもんは全てぶっ飛ばす』、それだけ覚えておけば何とかなる」
少し笑ってからベクターは言うと、荷物を運ぶために車へと戻って行く。呆気なく無惨に殺される様な世界でどう楽しめば良いのか、ムラセは理解できないままであった。彼の様に強くなれれば少しは変わるのかと考えつつ、バッグを抱えて車へ積み込む。
「ハッキリと言っておくが、無理強いはしない」
ベクターは優しげな声で再び言った。どこか突き放すようではあったが、今の自分の状態を察し、彼なりに気遣ってくれているのだろうとムラセは感じていた。一方で帰る場所も無い自分が今更何をすれば良いのか、彼女は延々と悩み続けていた。
その頃、後片付けをしてから撤収の準備を進めるベクター達を、建物の陰からアーサーが見ていた。片手に携えたロケットランチャーを構え、レーダーサイトで車へ狙いを付ける。そしてムラセが次の荷物を取りに行った瞬間、躊躇うことなく弾頭を発射した。
いち早く攻撃を察知したベクターは、こちらへ飛んでくる弾頭を視認してからオベリスクを握る。次の瞬間、爆発させる事なく弾頭の側面をオベリスクに掠らせて、あろうことか軌道を反らして見せた。すれすれで車に当たらなかった弾頭は明後日の方向にある建物に激突し、巨大な爆発を引き起こして倒壊させる。
「うわあっ ! 」
「…ムラセ、車に隠れてろ」
驚いて腰を抜かしそうになるムラセを支え、ベクターは隠れるよう指示をした。タルマンもまた、いつでも出せる様にだけしておくと言ってから車に乗り込む。二人に目配せをしてからベクターは改めて攻撃が来た方角を睨み、舌打ちをしながら歩き始めた。
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